『花咲ワークスプリング!』レビュー
ビュッフェ式ギャルゲー
ゆずのサノバウィッチを遊んでいた頃、筆者は『花咲ワークスプリング!』という作品の存在を知った。SAGA PLANETSの新作である。このブランドの作品はなんと2本遊んでいて、初雪桜と如月金星だ。前者はなかなか良かったが、後者はかなりアレだった。特筆すべきは、初雪桜が良かったのは音楽とシナリオ構成の加点によるところが大きく、如月金星こそがこのブランドの平均値なのだということだ。
だから廃萌オーラ全開のこの作品を遊ぶかどうか、30秒ほど迷った。CV表に沢澤砂羽の名前を見つけて、そのまま飛び込んだ……。

ゲームは短くないが、各ルートは長くもない。全体としてシナリオは面白いと感じるのに、散らばっている。『花咲ワークスプリング!』は前作『如月金星』と構造がよく似ている。まずメインの筋を決め、攻略可能ヒロインの個別ルートを並べていく。個別ルートはメインとほぼ無関係で、それを全部終えるとAfterルートが解放され、サブ2人の攻略が可能になる。その2人を攻略するとTRUE ENDが解放され、ようやく本当の結末が見られる。

この進め方は本当に奇妙だ。全体の構成としては共通ルートとTRUE ENDが頭と尻で繋がっているのに、その間に大量の個別ルートを強制され、特にAfterルートの後に本当の結末を投げつけられるものだから、シナリオがぶつ切りに感じられやすい。
整理してみると、このゲームが語ろうとしている話はとてもシンプルだ。
『花咲ワークスプリング!』とは主人公自身を指す。主人公の名前は花咲遊真、Work Springはゲームの季節である春の終わりにせっせと働くことを意味する。そして男主の性格設定は根っからの怠け者。つまりタイトルから単純に理解するなら、この怠け者の男主が春に働き始める話ということになる。
男主は最初から桜の木の下で寝ていて、やがて学校の様々な人と知り合う。幼馴染の空森若葉、告白してくる後輩の琴吹ヒカリ、学校の謎の少女・不知火祈、そして自分をゴースト部に引っ張り込む先輩の玖音彩乃。ゴースト部は共通ルートでメインの筋を最も多く語る要素で、先輩の説明によれば「幽霊のように、何かを失った、あるいは失おうとしているものに未練を抱えて前に進めず、成仏できない者だけが入れる部」だそうだ。要するに「動くのが面倒な奴が入れる部」である。男主も怠け者、先輩も怠け者、2人は意気投合して部員になり、ゴースト部廃部の危機を解決するため、男主は友人知人を片っ端から引っ張ってくる。毎日部室で駄弁って過ごす……。
ある日、男主は部員の不知火祈が不知火飛鳥の妹だと知る。不知火飛鳥は男主が子供の頃に一緒に遊んだガキ大将で、男主は彼を慕っていた。飛鳥は毎日男主を森の古い家に連れて行き、そこを「秘密基地」と呼んで「なんでもお手伝い団」を結成し、人助けをしていた。やがて飛鳥は団員へのプレゼントを買うためこっそりバイトを始め、ある日バイト中に火事に遭遇。消火を手伝う中で命を落とす。

男主はずっと、飛鳥の死は自分に関係あると思っている。以前男主が飛鳥にバッジを贈って飛鳥が喜んでいたこと。あの日、飛鳥は逃げられたのに、逃げた先でバッジを火の中に忘れたことに気づいて引き返し、そのまま出てこられなくなったこと。男主は自責し、飛鳥を無限に懐かしみ、自分が飛鳥を殺したと思い込み、やがて自分がだらしなくなったのも親友を失ったせいだと思う。だから男主はどんどん自責し、人と関わりたがらなくなる。
「不知火飛鳥はお前の友達だが、もう死んだ。一生彼の影に生きるのか?目の前の新しい友達に目を向けるべきじゃないのか?」
そして親友の説得とゴースト部の部員たちの言葉を経て、男主はようやく心のわだかまりを解き、飛鳥への罪悪感を手放し、素直に新しい生活を迎える。
これがTRUE ENDだ。あらすじは死ぬほどシンプルなのに、ゲーム全体では2つに分断されている。共通ルートと最後のパート、繋げて見ればまだしも、切れて遊ばされると意味不明でアレとしか言いようがない。
思い返せばSAGA PLANETSのゲームは大体このパターンだ。メインの筋を最後に切り離し、前は個別ルートだらけ。だが初雪桜が成功したのは、個別ルートが1つの完全な物語の断片だったからだ。小坂井綾ルートは前日譚、他のルートは全体の一部を語り、合わせると1つの筋になる。如月金星では個別ルートがメインと全く無関係か、ほんの少ししか関わらず、各ルートが好き勝手に語り、最後のメインではそれまでと全く別次元の設定が飛び出して、全体が猟奇的なことになっていた。
では『花咲ワークスプリング!』の個別ルートはどうか。端的に言えば、大半はやはり好き勝手だが……その好き勝手がなかなか良い。
個人的に一番好きなのは空森若葉ルート、次が琴吹ヒカリ、その次が先輩。空森若葉ルートはメインと全く関わらず、ただ甘い恋愛話で、その間の掛け合いと性格描写が非常にうまい。若葉の豪快で明るい性格も、男主の怠惰でひねくれた性格もよく出ていて、遊んでいて楽しい。最後に空森若葉がお嬢様で普通の生活を望んでいた云々という設定はほぼ無視していい数合わせで、尺も短く、全体としてコメディだ。同じパターンが琴吹ヒカリルートにもあり、同じく楽しく、同じく面白く、最後に琴吹ヒカリが耳が悪くてずっと劣等感を抱き他人の意見に流されていた云々もほぼ数合わせ。それでも言いたいのは、個別ルートにメインの筋を求めるのは無理だということ。向こうもメインを書くのが面倒くさいし、このブランドの特色でもない。自分としては、掛け合いを極めてくれればそれでいい。楽しいのが何よりだ。
先輩・玖音彩乃のルートはすでにメインに近づいているが、やはり違う。前半80%は告白とイチャイチャに使い、最後に男主へ、玖音彩乃先輩は年齢が先生と同程度で、見た目はすでに25歳近く、しかも延々と学校に留年していると告げる。理由はかつて不知火飛鳥の「なんでもお手伝い団」に参加し、団員である飛鳥からもらった人形で心の影を抜け出したこと、飛鳥が死んだ後も彼を忘れられず大人になりたくない、卒業したくないからだった。最後は男主の努力で、先輩もその事実を受け入れる。
不知火祈ルートはもっと分かりやすい。幼い頃の不知火祈と不知火飛鳥の仲は良かったが、やがて飛鳥は毎日外に出て家に帰らず、「なんでもお手伝い団」の人たちと遊び、妹の不知火祈を遠ざける。妹はその「なんでもお手伝い団」の人たちに嫉妬し、兄を奪ったと思う。後に不知火家は海外へ出ることになり、兄は残りたい、妹は出たいと主張が食い違って喧嘩別れする。そして妹が再び帰国した時、得たのは兄の死の知らせだけだった。同じく飛鳥への未練を、最後は男主が解き、新たな生活へ向かう。

Afterのメイド上月柑南と花咲ののかのルートはさらに適当だ。前者はなぜか男主に落とされ、後者は幼い頃から兄想いで男主が好きで、告白して兄妹の線を越える云々。「オマケで付いてきた」シナリオの具体的な意味をよく表している。

ではこのゲームはどうなのか。長所も短所もはっきりしているとしか言えない。短所はシナリオが弱いこと。唯一のメインの筋は、大衆に過去の影から抜け出し、美しい未来を迎え、過去への未練を手放し、目の前の人を大切にせよと訴えるものだ。だが、あの退屈なルートロックがそれをぶち壊している。短所だけでなく長所も際立っていて、日常の掛け合い、CGの動的表現、BGMは加点要素。CVの演技も耳に残る。桐谷華……おっと、沢澤砂羽にしても、遠野そよぎにしても、キャラの特徴をよく出している。特に花咲ののか。CV名は塚本リタだが、聞けばすぐ分かる、妹神・後藤麻衣だ。後藤麻衣が久々に妹を演じる、もう抑えが効かない好吗!作画はいつもの路線で、細部は粗いところもあるが、目つきと顔の特徴ははっきりしている。
『花咲ワークスプリング!』はゆずのサノバウィッチと連動があり、しかも仙台エリが両方のゲームに出演していて、どちらもマフラーをしている。だが自分としては、『花咲ワークスプリング!』はサノバウィッチより面白い。ゆずのゲームはシナリオがより複雑で深いが、優秀な水準には遠く及ばない。それならSAGA PLANETSを見習って日常と笑いを強化したほうがいい。遊ぶ側のストレスも少なく、楽しみやすい。
もしギャルゲーを食事に例えるなら、シナリオ重視の作品はラーメン屋で上等なラーメンを食べるようなものだ。どんぶり一杯を目の前に、スープから麺まで真剣に味わえる。ならば『花咲ワークスプリング!』はビュッフェのようなもの。様々な料理と味があり、それぞれ必要な分だけ取れる。こうして寄せ集めた大餐には一貫性もなければ、シェフのコース料理としての体系や風味も味わいにくいが……それでも私たちの様々な需要を満たしてくれるし、食べてそれほど悪くもない。
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