『花の野に咲くうたかたの』レビュー
味は烈酒のごとく、香りは清茶のごとし
『花の野に咲くうたかたの』に注目した理由は二つ。脚本の桐月と、彩色の画風だ。
桐月は『黄昏のシンセミア』(黄昏の禁忌の薬でも黄昏の大麻でも好きに呼べばいい)を書いた人で、ゲームの彩色は [Clover Day’s] 1 を思い出させる。『黄昏のシンセミア』と同じ絵師なのに、彩色のスタイルは旧作よりずっと良くて、女の子が可愛くて瑞々しい。
実は最初はこのゲームをやる気はなかった。『黄昏のシンセミア』も未プレイだし、ただ多くの人が絶賛しているから、まともな作品を書いた脚本家ならそう酷くはないだろうと思って、ちらっと画風を見て、それがとても好みだったから、プレイしてみた。
一言で評価するなら、これは軟らかい女の子が丹精込めて淹れた工夫茶みたいなものだ。味は淡泊で、コーヒーや烈酒のような即効性はないけれど、少なくとも不快にはさせない。じっくり味わえば、独特の発見もある。

『花の野に咲くうたかたの』というタイトルは正直どう訳せばいいか分からない。前半は野に咲く花だが、後半は何なのかさっぱり。『黄昏のシンセミア』みたいに何かを指す言葉なのだろうけど、もちろんそれはプレイの妨げにはならない。ストーリーの前に、まずストーリー以外の部分、たとえばシステムについて走りながら讃えたい。
まず、ゲームはタッチスクリーン操作に100%対応していて、メニューの呼び出しだって指で画面をスライドさせれば出せる。Win8のスタートメニューと同じ方式だ。しかもルートは直接、最も分かりやすい選択肢として表示され、自分がどのルートにいるか一目で分かり、ルートの近くでどんな小シナリオが解放されたかも見える。右側ではその小シナリオの概要と背景、登場人物を素早くプレビューできる。近いシステムを見たのは11eyesの視点システム以来だが、『花の野に咲くうたかたの』はプレイヤー体験を極限まで高めている。HiDPI対応で、ウィンドウは自由に伸縮でき、ウィンドウに合わせて比率や小さな立ち絵の表示を自動調整する。細部まで考慮し尽くしている。

ここまでやれるとは、制作側が色々な状況を考えていた証拠だ。体験版ですら、終了時にわざわざCVにキャラクターの口を借りてプレイヤーへ言葉を贈っている。たとえば正式版で展開されるかもしれない剧情、ダウンロードと体験版プレイへの感謝、気に入らない点があればメールを、などといったメッセージだ。とにかく心温まる誠意を感じる。
音楽はゲームのスタイルに充分寄り添っている。具体的にはよく分からないが、確かにあの「安らぎ」「静けさ」「穏やかさ」のスタイルで、OPも二つのEDもなかなか良い。
ちなみにSDCGも特徴的だ。メインの画風とはかなり違うけど……

他の話は終わりにして、そろそろ剧情の話をしよう……
攻略可能なヒロインは、生徒会長の鵲雫、桜荘の女幽霊・桜花、幼馴染の井之上麗奈、後輩の薬師涼子、従妹の藤宮汐音の五人。でもルートの配置がとても…………反人类的な手段を使っている。
まず井之上麗奈か薬師涼子のどちらかを攻略しないと鵲雫のルートが解放されない。そしてこの三人の全ルートをクリアして初めて従妹・藤宮汐音のルートが解放され、藤宮汐音を攻略し終えると桜花のルートが解放される。桜花のルートが終わるとTrue Endルートが開放され、メイン画面から再び分岐を始めてようやくゲーム全体が完了する。
攻略対象は五人もいて、ルートの剧情ロックも入れ子になっているけど…………True Endの桜花線を除けば、他のルートは本筋とほとんど関係がない。まったく無関係なものもある。
ゲームの序章は剧情の概要紹介に使われ、主人公は祖父の旧居・桜荘に引っ越してくる。桜荘は長らく無人で、幽霊が出るという噂があった。そして初日に幽霊、しかも巨乳の女幽霊・桜花(おうか)に出会う。続いて従妹も主人公を訪ねてきて、学校では幼馴染や後輩、生徒会長とも出会い、毎日の日常が始まる。
それから学校で色々な事件が起きる。先生のチョークケースが忽然と消えたり、山の神社に野良猫がいつの間にか増えていたり。各事件は主人公が見つけて関わり、最後に桜荘に戻って桜花に意見を求める。桜花は名探偵のように推理を披露し、問題を解決する……
正直この部分の進行はとても悠長だ。チョークケース紛失や野良猫なんて大したことじゃないし、既視感をあえて言うなら『氷菓』に近い……
同じ探偵もの、同じく探偵してみれば周りの些細なことばかり。
序章の最後、主人公は突然、子供の頃に交通事故に遭ったことを明かす。重傷で本来なら死ぬはずだったが、一命を取り留めた。しかし助かった代わりに両目を失明し、何も見えなくなった。その後ある日突然また見えるようになったが、視界の世界はとても異常で、モノクロだったり、妙な色彩があったりする。さらにはその色彩で相手の心情を判断できることもある。異能のようなものだが、主人公には制御できない。視力があるだけでありがたい。
桜荘に宿る女幽霊・桜花は自分を幽霊だと言い、桜荘の地縛霊で、ここを離れると強制送還されると話す。桜花自身も自分の由来や、ここをさまよってどれくらい経つのか分からない。ただ多くの人に見えていて、害意はないという。桜花は読書が好きで、推理にも心得があるようだ。
ああ、これは『GoSick』じゃないけど、確かに似ている。家に閉じ込められた高IQの少女が外の人間の事件解決を助ける、みたいな。
続いて各個人ルート。どの個人ルートも学校の一事件とその解決に対応していて、流れは全然長くない。事件が解決すればもう攻略できて、攻略し終わればEDだ……
薬師涼子の事件はバイト先の泥棒事件。バイト先でスタッフの物がなくなる……本筋とは一切関係ない。
井之上麗奈の事件は、井之上麗奈の父親が桜荘を買い取りたがり、勝手に売りに出したりする話。井之上麗奈の家はかなり金持ちらしい。ちなみに井之上麗奈の家庭は主人公が子供の頃に交通事故に遭ったことと関係があるらしい。結局事件は解決し、このルートが本筋と少しでも関係あるとすれば、交通事故の小さな回想シーンくらいだ。

生徒会長・鵲雫のルートはもっと気まま。学校に七不思議があって誰かが夜中に走り回っていると聞き、主人公を引っ張って調査する。調査しても何も起きず、最後に主人公がなぜそんなに執着するのかと聞くと、彼女は子供の頃に鏡を見たことがあり、その鏡は喋って、自分も鏡と話したことがある、その後鏡はなくなり、怪談に興味があるのはその鏡と関係があるかもしれないと思い、もう一度会いたいからだと答える。このルートで本筋の鍵となる手がかり「霊性のある鏡」が出て、そして…………他には何もない。

従妹・藤宮汐音のルートは少し本筋に近いが、またちょっと違う。ある日、主人公の同級生が公園でチンピラと喧嘩していて、妹を守るためか何かだという。そのチンピラの一人が黒い板状の石を持っていて、主人公も結局この事件に巻き込まれ、ひと騒動の末に汐音を連れてチンピラの包囲から逃げ、ついでにその石を奪い取る。汐音の手はその石片でうっかり切れてしまう。そしてその夜中、汐音はまるで別人のように変わり、主人公を夜這いしてエッチしようとする。姿はとても妖艶だ。主人公は堪えきれず、その後桜花の分析と山の神社への訪問聴取で、その石は「鏡石」の一部らしいと分かる。「鏡石」は霊性があると伝わる石で、片面は鏡のように平らで人影を映す。「鏡石」の機能は映したものすべてを保存すること。それには向かって打ち明けた心の内まで含まれ、人がかつて感じた感情を一気に爆発させることができる。汐音は「鏡石」で手を切ったことで、十数年分の従兄である主人公への片思いが一晩で全部爆発し、だから妖艶に主人公を押し倒した……そしてこのことがきっかけで、主人公も実は汐音が好きだと打ち明け、二人は恋人になって、終わり。このルートは本筋とかなり関係がある。大きくはないが、「鏡石」の存在と作用だ。

個人ルートはどれも長くないが、かなり奇妙なものも多い。全員の個人ルートを終えても、疑問は大きくなる一方だ。「このゲームは結局何を言いたいんだ?」最初は探偵もののようで、次は怪談もののようで、桜花の存在を誰も疑わず、みんな悠長にしている。さらに奇妙なのはゲームのOPがとても熱く、大一番が始まる、神展開がAround the Cornerといった様子なのに、中身はとても平淡だ。鵲雫、井之上麗奈、薬師涼子の三人のルートだけ見れば、完全にオマケで、おまけに剧情ロック解除の鍵でもある。脚本家も彼女たちが本筋と無関係だと分かっていて、この手段で無理やりプレイさせているように見える。

全ルートクリア後、主人公は桜花ルートへ。ここから剧情の流れが速くなる。まず主人公と桜花の恋はとても平淡で、突然恋に落ち、そして告白し、男女の仲になる。続いて主人公は自分の視界が少しおかしくなり始めたことに気づく。前述の通り、彼にはいつも妙なモノクロや色彩が見える。桜花と付き合い始めてから、「鏡石」事件を調査し、「鏡石」は元々この地の古い神社に祀られていた石だが、その古い神社は戦争で失われ、もしかすると裏山に古い神社の遺跡が見つかるかもしれないと知る。
桜花と主人公は裏山へ行き、裏山が主人公の視界では真っ黒で何もないことを発見する。
主人公は怖くなり、桜花と同級生の男友達を連れて探検し、この黒い領域をどうにかしようとする。するとその男友達が裏山に来た途端、黒い領域が消えた。まるでWar 3で突然フォグオブウォーが晴れたような感覚だ。
そこで主人公もおかしい、桜花もおかしい、帰って考え込む。最後に桜花は何かを思い出し、桜荘の隠し屋根裏を開けて主人公に見せる。主人公が見てもやはり黒い。
桜花が主人公の子供の頃の交通事故について聞き、ついにすべての原因が分かる。
元々、主人公は子供の頃の交通事故で重傷を負い、本当はもう失明していた。今も実は失明している。主人公を轢いた車はおそらく山の岩石を運ぶ車で、事故の際に「鏡石」の破片が主人公の体内にめり込んだ。手術で一命は取り留めたが、「鏡石」はすでに主人公の体の一部になっていた。
「鏡石」は他人の心と視界を映し、他人の心と視界を主人公に伝える。だから主人公は「鏡石」の力で視力を得た。モノクロや奇妙な色彩があるのは、その色彩が確かに相手の内面を反映しているからだ。

裏山のフォグオブウォーが見えないのは、主人公が接触した人々がそこへ来たことがなく、その記憶を持つ人がいないからだ。だから主人公には黒く見える。桜荘の秘密の屋根裏も同じ。桜花は人間ではなく、その影響を受けないので、主人公を助けることもできない。
そして桜花自身の存在も、覚醒した「鏡石」によって主人公が思い出す。桜荘の場所は古戦場にかつてあった「鏡石」を祀る神社であり、桜花は幽霊ではなく、正確には神様だった。
桜花は自分と一緒にいてはダメだと気づく。主人公の視力は人間の記憶と映写に依存していて、自分は人間ではないため、主人公の体力を消耗させるだけだ。このままではいずれ主人公は死ぬ。だから消えようとする。そして主人公が最後に長々と口説き、去ろうとした桜花を連れ戻し、「鏡石」の力を発動して、元は魂だった桜花の体を具現化する(すみません、偽科学の理屈を書き連ねるのが面倒なので略)。体を得た桜花と主人公はHappy Endへ。

後半で「鏡石」と主人公の能力を解明するくだりは、別のゲーム『Chaos; Head』を連想させる。
周囲の全員がある物体の存在を認知し、コンセンサスが取れればその物体は存在する。脳波で周囲全員の脳を変えることもできるし、主人公の体内の「鏡石」を使うこともできる。
主人公は最後に大いに外掛を発動し、「鏡石」の力を掌握する者となる。盲目なのに神を超えている。ただ最後は自制が効いて、主人公は妹を救うためだけだったし、共通の敵もいないので、そう飛んでもいない。
小説に夢中になり始めた頃を思い出す。きっかけはホラー小説だった。他でもない、ホラーにはサスペンス要素が強くて読み続けられる。他の風花雪月は半分読むと眠くなる。
エロゲに触れる多くの若い子たちにとっても、これは同じだ。そして私はもう老いたので、剧情のパターンを見る目は人と違ってくる。
剧情の描写で、多くの人はいわゆる「展開」を追い求めすぎて、物語そのものを無視している。だからこそ、エロゲ・ギャルゲー・アニメの三領域で、設定だけが媚びて剧情は犬のクソみたいな作品が増える。制作陣を責められない。この「クソ」は観客とプレイヤーが選んだものだ。君らが見たいから、作り手もそれに合わせる。超展開を求めるのが間違いだとは言わない。ただ、「超展開」のために「超展開」をやって剧情と物語そのものを無視してはいけない。みんなどんでん返しや虐げが好きだが、適当に主人公を死なせて生き返らせれば神作になるわけじゃない。

『花の野に咲くうたかたの』も、OPと序章ではその俗を免れず、人を惹きつけるために設定をばら撒いた。特にOPは完全に血沸き肉躍る様子なのに、誰が知ろう、共通ルートはあんなに平淡だとは。でも平淡は平淡で、各話が長くないおかげで、短編小説のように味わいがある。美しい画風と温かい音楽が相まって、午後のお茶を飲みながら老人がゆっくり昔話をするような、のんびりした自在さがある。
そして『花の野に咲くうたかたの』の本筋は、主人公の能力と桜荘の女神の過去を語る。展開も引き延ばさず、問題は一度で解決し、解決後は皆大団円。一波乱はないが、確かに少し現実的すぎる。
『花の野に咲くうたかたの』の評価は簡単に見たところ両極端だ。多くの人は剧情が白湯すぎて普通、動感あるOPに申し訳ないという。ヒロインが死なず、主人公が世界を救わず、ヒロインに黒歴史もなくてテンションが上がらないと。別の人は、話の長さがちょうどよく、語りが平実で悠閑、ゆっくりした展開でもキャラクターの生き生きさを感じられるのに十分だという。

私にとって『花の野に咲くうたかたの』は後者の立場で、少なくとものんびり楽しくプレイし終え、嫌な感じはしなかった。
「『花の野に咲くうたかたの』って好き?」 「分からない」 「じゃあ嫌い?」 「嫌いじゃない」 「なら好きってことだね」
ギャルゲの告白でよくある問答を借りるなら、『花の野に咲くうたかたの』はなかなか良いゲームだと思う。設定では烈酒のような印象を残すのに、味わうと清茶の香りがする。

ちなみに『花の野に咲くうたかたの』には後藤麻衣、つまり涼子ちゃんが出ていて、大満足だ。
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