『徒花異譚』レビュー

夢から覚める時

広告

ANIPLEX.exe が金をつぎ込んで Visual Novel Game を作るにあたり、《ATRI -My Dear Moments-》以外にも、かなり独特な絵柄の《徒花異譚》を世に送り出している。これは Liar-Soft とのタッグ作で、いかにも古株のやり方だ。マイナーどころの Liar-Soft を引っ張ってくるあたり、エロゲー好きからは「分かってる」と唸らせるものがある。

『徒花異譚』しかも大体想像がつく。ANIPLEX.exe が出したこの2作品は狙っている層が違う。『ATRI -My Dear Moments-』は明らかに「ライトな二次元萌え豚向け」で、『徒花異譚』のほうはなかなか硬派だ。

広告

もちろんこの「ハードコア」も俺の勝手な思い込みでしかなくて、それほど長くもないこのゲームをクリアしたあとに言えるのは、この『徒花異譚』はゲームというより、むしろ本物の「短編ファンタジー小説」だということ。「小説」は人生の大いなる教訓なんて教えてくれない。もたらしてくれるのは、心にじんと響く何かだ。

『徒花異譚』が具体的に何を語っているのか、細かくは書かない。プレイするまでの手間はほとんどの人にとって大したことじゃない。脚本は『蝶を探す者』を書いた海原望だが、「恋愛ゲーム」の枠を外れたぶん、かえって物語は余裕をもって見える。

screenshot27.jpg

『徒花異譚』は、「私」が列車の中で奇妙な本を抱えた人物と出会い、その会話から、その怪人が抱える『徒花異譚』という本の内容を語り出すという物語だ。『ATRI -My Dear Moments-』と似ていて、『徒花異譚』のメインの筋の裏には多くの伏線が隠れているが、それよりも一枚上手で、物語がいくつもの階層に分かれている。第一の階層の物語は、「私」が向かいに座る怪人の話を聞くというもの。そして第二の階層は、怪人が語る物語そのもの、つまり一人の女の一生だ。若い頃の幼馴染との無邪気な日々、少女時代に家庭教師に迫られた恐怖、成人して男性と見合いをして家庭を築き、やがて男から病をうつされて夫を失い、自分自身も危険な状態になるまでを経験する。第三の階層の物語は、女が重い病の中、半ば夢半ば現の中で見る幻想であり、第四の階層の物語は、女が幻想の中で入り込む「本の中の異世界」だ。

screenshot17.jpg

以前に『Silent Hill』(サイレントヒル)というゲームがあって、その2作目がこのゲームのピークだった。そう言えるのは、あのゲームでは主人公の内面を描くために抽象的な表現や暗示がたくさん使われていたからだ。『サイレントヒル2』の世界で起きる奇妙な出来事は実際に存在するものではなく、主人公の恐怖や嫌悪が反映されたものだと言っていい。同じように『徒花異譚』でも、序盤はヒロインが「白姫」と設定され、もう一人の「黒筆」という少年と共に「物語」の世界を巡り、物語のおかしな点を見つけて自分の力で物語を「修正」していく。この展開は以前の『Girls Book Maker』とまったく同じだ。ただ奇妙なのは、そうした「物語」そのものに必ずおかしな点があること。たとえば花咲か爺さんがなぜか黒化したり、浦島太郎がなぜかカメと恋に落ちたり、桃太郎の物語が桃太郎と瓜子姫に分裂したりする。しかも各物語には「癒しエンド」と「黒化エンド」が用意されている。

screenshot34.jpg

しかしポイントは、これらの物語の中で「黒化」するポイントだ。黒化するキャラは何か外からの力に影響されたわけではなく、ヒロイン本人が現実に現れた連中への嫌悪と性格が反映されたものだ。花咲か爺さん、竜宮の姫、瓜子姫の妹、桃太郎、これらのキャラはみんなヒロイン本人の生活に存在する人間で、もう一人のキャラである男の子「黒筆」も、ヒロインの子供の頃の初恋だった。この「本を修復する」物語全体がヒロインの幻覚と夢であり、半睡半醒の間で混乱した脳がこんな物語を映し出したのだ。

この物語を整理するのは難しくない。ヒロインは子供の頃、ある男の子と一緒に絵本を読むのが好きで、読んでいたのは花咲かじいさんや桃太郎といった話だった。ヒロインはその男の子が好きだったが、気持ちを伝えることはなかった。やがて男の子は何も言わずに去り、ヒロインは失恋。よくやってくる家庭教師に勉強を強いられ、孤独を感じていた。のちにヒロインは人に紹介されてハンサムな男性と出会い、妹より先に家庭を築く。しかしその男性は伝染病で死に、ヒロインは未亡人となったうえ自分も感染し、不治の状態に陥って意識を失っていく。その昏睡の中、ヒロインの脳内の混沌に「自分は白姫と名乗り、黒筆と一緒に物語を修復する」という夢が形づくられる。

スクリーンショット11.jpg

この描写の感触は言葉にしにくい。たぶん「混沌としていながら筋が通っている」とでも言えばいいのか、正直こういう内容を書くのは難しくて、筋を通すだけでも至難の業だ。脚本の海原望はまさにそれをやってのけた。ゲーム『尋蝶者:混沌夢魘』で見せたあの強い語り口をそのままに、物語の緊張感をできる限り増幅させている。

screenshot56.jpg

ゲームの最終盤でプレイヤーは二つのエンドを選べる。一つはヒロインが夢の中に残り、もう目覚めない——現実ではそのまま死んでしまうかもしれない。もう一つは夢を捨てて現実に戻り、目を開けるとベッド脇でずっと待っていた現実の「黒筆」がいて、彼と縁を結び直す。実はどちらのエンドも Bad End と呼べる代物じゃない。本当の Bad End はたぶん、ヒロインが目覚めようとして結局死んでしまい、最後に「黒筆」がヒロインと一緒に書いたあの本を抱えて列車に乗り、海へ自殺しに行く——そんな流れだろう。

screenshot35.jpg

個人的にはこのゲームの Happy End にはちょっと不満がある。ヒロインが目覚めたあと、現実の「黒筆」と出会って、愛の力で寿命が50歳過ぎまで延びたと明かすんだが、これはちょっと強引すぎるだろ……

総じて、瑕はあれど玉は隠れず、この『徒花異譚』は俺の中で「短編ビジュアルノベル」と呼びたい一本だ。『ATRI -My Dear Moments-』が「優れた文字恋愛ゲーム」だとするなら、『徒花異譚』は十分に優れた文学作品になり得る。その次元がまるごと前者より上なのだ。

screenshot50.jpg

実際のところ『徒花異譚』は「ゲーム性」の面でも、かつての『尋蝶者』のように何かを探求できたはずだ。ヒロインが「インク」を探して物語を修復する操作は、そのままミニゲーム「間違い探し」にできたし、開発はSilky Plusなのだから、やる気になれば十分可能だったろう。なぜやらなかったのか、実に惜しい。とはいえ全体で見れば、物語性における『徒花異譚』の体験は『ATRI -My Dear Moments-』より明らかに優れている。「二次元っぽさ」が薄い代わりに、より高尚な文学の香りを漂わせているのだ。ゲーム内のキャラクターボイスにすら「萌え」を売る要素はなく、どれもこれも「オペラ声線」でまとめ上げている点が、その証左でもある。

screenshot53.jpg

『徒花異譚』をプレイしていると、子どもの頃に読んだ短編小説『人到中年』のことをいつも思い出す。あの小説も同じように、瀕死の状態にあるヒロインの半ば夢半ば覚めの混乱した夢を描いていて、夢の中の場面はどれもヒロインの内面の潜在意識が映し出されたものだ。混沌としていても、そこには確かな筋道があり、断片をつなぎ合わせることでヒロインの完全な人生が浮かび上がってくる。『徒花異譚』もそういう作品だ。線的な物語描写ではないのに、クリアしたあとでヒロインの一生を感じ取ることができる。彼女の一生が幸せだったのか幸運だったのか、私にはとても言えない。けれど、誰もが生まれた瞬間から平凡ではない経験をする運命にある。「物語」というものが存在するのは、私たちにさまざまな人生を経験させ、他人の人生に胸を騒がせるためなのだろう。『徒花異譚』という名前に含まれる「徒花」がすでにヒロインの悲劇的な性質を語っている。決して咲くことのない花だからこそ、より一層いとおしく思えるのかもしれない。

本家 plumz.me でこの記事にコメントする

コメントは中国語の本家サイトで受け付けています。このミラーは閲覧専用です。

目次