『星空鉄道とシロの旅』レビュー
主人公は平凡な社畜絵師。ひょんなことから夜の蒸気機関車に乗り込み、どこへ向かうかもわからない旅に出る。
車内にいるのは主人公だけじゃない。スウェーデンから来た外国人、糸目のお兄さん、美人のお姉さん、それに黒猫ロリータ。もちろん、何を聞いても要領を得ない車掌もいる。
旅はいろんな場所を通る。北欧の黒い森、日本の南の島、北海道の函館天文館、そして主人公がかつて暮らしていた場所。

そう、この列車は時間と空間を越えた存在で、乗客たちをそれぞれがかつて最も憧れた場所へ連れて行く。外国人にとっては故郷の黒い森、糸目のお兄さんにとっては島が故郷、美人のお姉さんの故郷は北海道、そして主人公の故郷は当然、あの住まいだ。
ここで主人公は思い出す。自分にはねりという妹がいたことを。ただ、その妹は猫を助けようとしてトラックに轢かれて死んでしまった。
しかし列車の旅の途中で主人公はねりに会う。ねりは自分は完全には死んでいないと告げる。自分の心臓が重篤な患者、夜羽真白に移植されたからだという。真白は幼い頃から体が弱く白皮症で、肌が白く太陽を直視できず、さらに重い心臓病で多臓器不全を起こしていた。彼女が危篤になったちょうどその時、ねりが死に、医師が勝手にねりの心臓を真白に移植した。とにかく一人でも救えればというわけだ。

そして主人公は気づく。自分もまた死んでいることに。妹の死後の悲しみから酒を飲みすぎ、熱中症も重なって部屋で死んでいたのだ。しかも死後、自分も病院に運ばれて移植に使われたらしい。移植先はどうやら同じく夜羽真白。

主人公は慌てる。まさかこの列車の乗客は全員死者で、しかも全員が夜羽真白に臓器を提供した人間なのか?
やがて夜羽真白が列車に現れ、そのことをあっさり認める。しかも真白自身、臓器移植という考えをあまり快く思っていない。「他人の臓器を受け取る=他人の命を奪う」と感じているからだ。この考えは母親から来たもので、真白は母親の言うことをよく聞く子だった。

そんな中、列車の速度が次第に落ち、やがて止まってしまう。
ここで状況は明確になる。この星空鉄道列車なるものは、夜羽真白という人間の人生の象徴にすぎない。列車が進めば真白は生きていられる。列車の乗客は彼女に臓器を提供した人々、だから同じ列車に乗っているのだ。
最後に主人公は啖呵を切る。日本の「他人に迷惑をかけない」という価値観をバッサリ斬り捨て、夜羽真白に告げる。生きていることがすべてだ、他人の命を奪うだのなんだの、そんなのは屁でもない、生きてさえいればいい、人間死んだら死んだで、臓器は使わなきゃもったいない blah blah blah。
結局、夜羽真白は主人公の励ましで生き続けることを選び、列車は再び進み出す。現実の夜羽真白も免疫細胞の拒絶反応を乗り越え、人生と向き合い続ける決意をする。

そして最後に伏線回収。冒頭の車掌カルハは臓器提供者ではなく献血者だったため、列車に参加していたのだ。
このゲームはとにかくネタが多い。大半は『銀河鉄道の夜』絡みで、むしろ『銀河鉄道の夜』のテンプレートに丸ごと沿って書かれていると言っていい。だから語りの多くは「曖昧」で「含み」があり、とにかくはっきり説明しない感じ。ゲームの欠落部分を把握するためにもう一度ざっと読み直したが、伏線の説明はやはり見つからなかった。他の主人公たちがどう臓器移植されたかとかも含めて。脚本が意図的にそうしているのか、どこかの文の細部に暗示されているのか。日本のレビューも漁ってみたが明確な答えはなく、時間の都合で深掘りはやめた。

ゲームのシナリオはやたら断片的で、回想シーンや挿話が大量に挟まる。初見だとまず頭がこんがらがる。実際、ゲーム後半になってようやく少しずつ明らかになる。簡単に言えば、臓器移植を受けた虚弱な少女・夜羽が、最初は「勝手に他人の臓器を受け取る」ことに罪悪感を抱き、自分の生きていること自体が他人の命を奪っているとまで思っていたのが、提供者たちの言葉に導かれて心を落ち着け、生きることに前向きになり、未来の人生を楽観的に迎えようと決める物語だ。
ゲームの原画・しらたまの画風は疑問の余地なし。クオリティも非常に高い。毎日配信で現場作画している甲斐がある。ゲームのBGMも雰囲気が高く、近年では珍しいくらい音楽が優れた作品だと思う。ゲームのプレイ時間は短く、全部やっても10時間未満。同人作品としてこれだけの品質はなかなかできるものじゃない。

シナリオはまたさかき傘で、泣き路線なのは相変わらずだが、このゲームの設定にはツッコみたくなる点が多い。特に「臓器移植」。ねりの臓器が医師の独断で移植されたとか、これは小さく言えば重大な犯罪、大きく言えば臓器売買だ。国連が深刻に反対している行為をよくゲームに書けたなと、正直理解に苦しむ。しかも臓器移植自体、日本では誰も相手にしていないのに、ゲームでは全員が一人に臓器を移植するとか、都合がよすぎる。まあ医学的知識のないオタクたちはきっとボロボロ泣かされているんだろうけど。あの『金色ラブリッチェ』の脳腫瘍の理亜みたいに。

要するにこのゲームは『銀河鉄道の夜』の「二次創作」みたいなもので、キャラの名前まであの作品からネタを取っている。原作を一度読んでおけば、このゲームを遊んだときにもっと感慨が深まるかもしれない。
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