『ハッピーライヴ ショウアップ!』レビュー
極東の恋、開演
FAVORITE のゲームと聞いてまず浮かぶ印象は、文芸的で、幻想的で、そしてやたら長い、というところだ。特に前作の『さくら、もゆ。』なんかは「全部が無駄話」とまでは言わないが、「くどくて長い」と言われても仕方ない出来だった。文章そのものに問題があるわけじゃないんだが、あの「日系」の「堂々巡り」がとにかく多すぎる。真剣に二人の会話を30分も眺めているのに話がこれっぽっちも進まない、なんてことがざらにあって、すぐ眠気に襲われる。以前の FAVORITE のゲームにもそういう特徴はあったけど、ここまで酷くはなかった。だからこそ俺は『いろとりどりのセカイ』や『アストラエアの白き永遠』シリーズはクリアできたのに、『さくら、もゆ。』だけはどうしても攻略を終えられなかったのだ。
しかも FAVORITE という会社はどこかミステリアスで、ゲームのリリースペースはめちゃくちゃ遅い。ただ、後になって分かったんだが、この会社の傘下には ωstar という「分社会社」があって、その ωstar がどんな「大作」を出しているかは、分かる人には分かるだろう。ああいう「大作」の人気と売上を考えれば、FAVORITE の収入も悪くはないはずで、少なくとも倒産まではまだ distance がある。だがどうやら FAVORITE はそんな座して食うだけの状況に満足できず、さらなる発展を目指したらしい。2021年にひっそりと長年使ってきた旧ロゴを捨て、より分かりやすい新商標に変更。さらにその下にこれまた分かりやすいスローガン「The Next Generation」を掲げ、同時に新作『ハッピーライヴ ショウアップ!』を発表した。この新作には従来の「F社」ファンの多くが困惑した。司田はメイン絵師じゃなくなったし、シナリオも企画も漆原雪人の名前がない。設定もあらすじもどう見ても「普通」で、女の子たちが舞台でパフォーマンスをしたいというだけの話なのだ。
こんな変化に失望した古参ファンも多いだろうが、同時に好奇の目も向けられた。新世代を掲げる FAVORITE は、本当にこのまま凡庸になっていくのか?

ゲームの舞台はロシアの極東地域、中国と日本に近いウラジオストク。主人公は日本人のアキト。他の登場人物は、ある親族を訪ねてきた一人を除いて全員ロシア人だ。主人公は設定上「魔法使い」ということになっているが、ここでいう「魔法使い」はたぶん多くの人が想像するのとは違う。このゲームの世界観では、俺はむしろ彼を「奇術師」と呼びたい。主人公はその「魔法」で破壊や支配なんて一切しない。むしろ小さな「人形」を操って、パフォーマンスじみたことをやるのに使うのだ。(しかもこの「魔法」に関する設定はゲーム全体を貫いている)主人公は日本人でありながら、故郷での過去を一切語ろうとしない。自分の日本語名すら口にしたがらず、ただ「アキト」と名乗るだけ。通っているのは芸術学校で、そこに集う人間の大半も芸術パフォーマンスのために生きている。学校で出会ったのは赤毛の少女ソフィア、そして中国人を自称する緑髪の少女「劉卯」(ルー・マオ)。ソフィアは主人公の「魔法」を羨み、自身にも「魔法」の才能があることから、先生になってほしいと頼み込む。「劉卯」は「大道芸人」を自称し、自分の夢を追って学校に来た。その後一行は学校をぶらぶらするうちに他のヒロインたちと知り合う。人気の令嬢でヴァイオリニストの「カーレンティア」、バレエに打ち込む「クラリス」、そして誰も活動していない空っぽの部活の社長「ペチカ」。彼女たちが集まり、学校で開催される公演に向けて出し物を練習することになる。

正直、この面々の得意分野がバラバラすぎて、一緒に一つの出し物を練習するなんて無茶もいいところだ。だがそこは賢明なる主人公、あるアイデアを思いつく。いわば「神々の帰還」的な寸劇を組み、出演者それぞれが別の神を演じ、自分の得意なパフォーマンスで表現するというもの。かくして我々は実に「独特」なステージを目にすることになる。一人は火の玉を転がし、一人は軽業を披露し、一人はバレエを踊り、一人はヴァイオリンを弾き、しかも全員が同じ舞台で一緒に演じるのだ。どう見ても奇妙な出し物だが、「ネタ」としての効果が良かったのか、評価は悪くなかった。パフォーマンス中に大きな困難があったわけでもない。主な難点は「火の玉」を操るソフィアが自分の「魔法」をうまく制御できないことで、もちろんこれは主人公の助けで克服し、公演は大成功。ロシアの芸術の都「サンクトペテルブルク」への遊学のチャンスまで得るのだった。

そして OP 2 とともにゲームは第二部へ。主人公とヒロインたちは列車に乗り、ロシア東部から西部への長い旅を始める。各ヒロインとの恋愛線もここで兆しを見せる。
ゲームには個別ルートが五本、五人のヒロインに対応する形で存在し、さらにもう一本隠しルートがある。ただ正直に言えば、このゲームの「本命ヒロイン」は間違いなく宣伝画像でセンターに立つソフィアだ。ソフィアの個別ルートだけが最初から最後まで物語を貫き、主人公の過去を明かし、あの「謎の隠しキャラ」の物語もつなげていく。

長い列車の旅の中で、主人公とソフィアの距離は少しずつ縮まり、やがて二人は告白して恋人同士になる。そしてここからがソフィアの内面世界に入り込む始まりだ。主人公は、ソフィアが「魔法」に強い好奇心を抱きながらも、その内側で拒絶していることに気づく。理由は、幼い頃から「才能」があるとされて「魔法」を学ばされてきたのに、不器用なソフィアはその才能をなかなか発揮できず、それを責められ批判され、自責の念にかられてきたからだ。だがある時、主人公とソフィアの「魔法の授業」の中で、二人は魔法を通じて心を通わせる。主人公はソフィアの内面を見、ソフィアも主人公の過去を見た。そこでソフィアはようやく、なぜ主人公が日本からロシアへ来たのか、そしてなぜ故郷のことを一切語らないのかを理解する。

主人公は幼い頃から両親に「魔法」を学ぶことを強要されていた。才能があったために「魔法のパフォーマンス」で少し名が知れ、それが両親の「早すぎる成長」を加速させた。両親は彼から普通に学校へ通う権利すら奪い、無理やり極東の地ロシアへ送り、さらに高度な魔法の修行をさせた。だがそれで主人公は苦しみ、「魔法」への憎しみを抱くようになる。良いロシア人の師匠に出会い、師匠の導きで全てを受け入れはしたものの、それでも「魔法」を好きにはなれず、ただ平凡な学校生活を送りたいと願った。結局主人公は自分の「魔法のキャリア」を捨て、芸術学校で普通の学生になることを選ぶ。その後ソフィアに「魔法」を教えたのも、ソフィアへの信頼と同情からだった。
ソフィアは主人公の過去を見て、自分の内面の問題なんて主人公に比べれば屁でもないと痛感する。そして二人は理解し合い、傷を舐め合い、あらためて「魔法」の力を認識し、自分の中にある「魔法」の力を受け入れていく。「魔法」への姿勢も変わり、パートナーのために輝く「魔法使い」になりたいと願うように。最終的に二人は結ばれ、魔法を愛する娘をもうけるのだった。

誰か一人を攻略した後、主人公は隠しキャラのミヤビを攻略できる。ミヤビは日本から遥々ロシアまで主人公を追ってきた。幼い頃、二人は「魔法」の学びの中でライバルであり友人であり(しかも密かな想いもあった)、主人公がロシア遊学の途中で消息を絶ったため、ミヤビは日本を発ち、主人公の両親を説得し、彼を日本へ連れ戻そうとする(ついでに自分と結婚させようと)。

もちろんこのルートは詳細な内容があるわけではなく、主人公がミヤビを拒まず、ついでに一発やったというだけで、本質的に主人公がロシアに残る結末は変わらないように見える。「隠しルート」というより「チャージ特典」みたいなもので、後半であれだけ目立つ活躍をしておきながら、実にもったいない。
ミヤビ以外で俺が気になったのは、あの中国人「劉卯」だ。ソフィアを選ぶと、劉卯は主人公と一緒に学校へ戻るのをやめ、旅立って自分の「大道芸人」の道を追う。もちろん彼女を攻略する方を選んでも、特に見どころはない。劉卯はウラジオストクで中国人夫婦の養女になった娘で、本人が中国人かどうかは定かではない。養父母が中国人なだけだ。しかも劉卯は自分の中国名が気に入らず、中国語を学ぶのも嫌で、両親はそれを咎めず、彼女はずっとロシア語で話し、名前も自分が気に入った「卯」の字を使っている。つまり表向きは「中国人」でも、中国語は話せないし中国の身分も認めていない(実に乳華である)。

劉卯の話は実にシンプルだ。幼い頃に高IQの中国人夫婦の養女になったが、彼女の知能は明らかに養父母にも他の兄弟姉妹にも劣り、試験は普通、あらゆる面で普通。両親は何も言わなかったが、彼女ははっきりと劣等感と両親の目に浮かぶ失望を感じ取っていた。やがて引きこもりになり、偶然「大道芸」で楽しさを見つけて、その道に進んだ。
そうして劉卯の物語でも主人公が心理カウンセラー役となって彼女の心の迷いを解決し、ゲームは結末を迎える。
正直に言って、今回の『ハッピーライヴ ショウアップ!』は物語の構造がかなり「変」だ。共通ルートは二部構成で、第一部は部活を組んで公演を目指す話、第二部は長距離列車の旅、そして第三部で各キャラの個別ルートに突入する。おかしいのは、あるキャラの個別ルートに入ると第二部の長い旅が意味を成さなくなり、ただ時間稼ぎにしか見えないことだ。また各キャラの物語にもあまり関連性がない。ミヤビとソフィアの二人はメインストーリーと密接につながっているが、他のキャラの個別ルートは異常に独立していて、特に「カーレンティア」と「クラリス」の二人は、第二部から丸ごと消しても影響がない。この点は FAVORITE の過去作と比べてもあまりに杜撰で、かつての「F社」は比較的まとまった物語構成を持っていたはずだ。今回の新作はどちらかといえばキャラ売りの作品に近い。

だが何事にも裏表がある。今回の新作は多くの点で光るものも見せている。まず何より、異国情緒あふれるロシア文化の空気。このゲームは「日本語」で「ロシア語」をゲーム内の第一言語として扱うという独特なことをしている。つまり作中ではキャラが皆日本語で喋っているが、実際にはロシア語を話している設定だ。日本から来たミヤビの日本語がたどたどしいのは、実は彼女のロシア語がたどたどしいことを表している。これは他の異国設定ゲームのように単に言語を置き換えるだけではなく、細部で表現されている。たとえば主人公が「日本」と言う時は「にっぽん」ではなくロシア語発音の「ヤポン」だし、「中国」も「ちゅうごく」ではなく「キタイ」と言う。正直、今になってロシア語で中国を指す発音がずっと「キタイ」だったと知って納得した。ロシア人は中国人をずっと「キタイ人」だと思っているのだ。ましてや作中でよく出てくる「ハラショー TV」みたいな、誰でも分かるロシアネタの数々である。

このゲームをプレイしていて、正直ずっと複雑な気持ちだった。実のところ、このゲームに際立った長所はそう多くない。物語面ではソフィアのルート一本しか戦えず、その戦える物語も「家族や親との葛藤、自分の才能と内面の矛盾」といったよく描かれる類のもので、最終的な結末も「自分自身との和解」というお決まりの展開だ。それなのに俺はこのゲームを「なかなか良い」、「同時期の他のゲームよりずっとマシ」と感じてしまう。ロシアの背景が生んだ独特の魅力なのか、それとも同時期の競合がひどすぎただけなのか、自分でも分からない。

ともあれ、俺個人としては FAVORITE の今回の変化を認めている。何しろゲームのテンポが心地よく、気づけば先へ先へと進みたくなる。以前の「くどくて長い」作品に比べれば、このゲームはずっと「読みやすい」。加えて難解すぎない舞台設定と展開、そこそこの音楽、新鮮味のある世界観。これが『ハッピーライヴ ショウアップ!』が俺を惹きつけた最大の要因だろう。
淡々とした恋愛物語が好きなら、そしてあの日系の「ヨーロッパ中世」架空設定に飽きたなら、この極東の地で繰り広げられる遊学芸術恋愛劇は見逃せないはずだ。
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