『Parquet』レビュー
酸柚子はアリか?
年初に知人から、今年ゆずソフトが新作を出すと聞いていた。
そして先日、本当に発表された。ただ予想外だったのは、それが全年齢作品だったこと。ゆずソフトは子ブランド「ゆずソフト Sour」、つまり「酸っぱい柚子」を立ち上げた。まあ柚子は元々酸っぱいだろ、というツッコミは置いておく。
何より重要なのは今回発表された作品、『Parquet』。
多くの柚子厨は新作がまさかの「全年齢」と聞いてメンタルをやられたようだが、俺は別にいいと思った。柚子には物語をちゃんと語る力がある。少なくとも『千恋万花』は良かった。あの低レベルな「発情」や「売肉」テーマを捨てて、シナリオ重視に舵を切るのもアリだ。叙事と演出がしっかりしていれば、これを機に大きく方向転換するのも悪くない……
もちろん、「叙事と演出がしっかりしていれば」、だが。
で、このゲームは実際「しっかり」しているのか?

舞台はサイバーパンク的な未来。人類は BMI(Brain Machine Interface)と呼ばれるデバイスで脳を制御できるようになり、他人の記憶やスキル、知能、学歴を購入して自分のものにできる。主人公は捨てられた実験体で、脳に「天才たちの記憶」を集約され、超天才に仕立て上げられるはずだった。もちろん失敗し、市場に流出。ある会社の社長に買われ、会社を黒字にしようと期待されるが、主人公には能力はあっても信頼には欠け、結局ほったらかしにされて街をぶらつくことになる。
序盤の焦点は、記憶の縫合で作られた改造人間という主人公の特性の紹介だ。

ぶらついているとヒロイン・城門ツバサに出会う。付き合ううちに、この金髪ヒロインが夜になると別人・茨木リノに変わることを知る。性格も一変し、記憶も共有されない。調べると、一人の体に二人が宿っているらしい。昼は城門ツバサ、夜は茨木リノ。後に物語は、なぜ二人が同じ体にいるのかを明かす。茨木リノは貧乏で、働くしか能がなく、生活費に困って自分の体を実験機関に売った。何の実験かは不明だが、その結果もう一つの人格が生まれ、昼間の時間を失って夜だけ目覚めるようになった。

一方の城門ツバサは、自分がなぜ茨木リノの体にいるのかもよく分からないという。覚えているのは、かつて BMI 研究、記憶移植に携わっていたこと。事故で死に、目覚めたら他人の体で生きていた。

ここから長い日常パートが続く。二人の女主の昼夜切り替えなど、水増し感がハンパない。後半になってようやく終盤へ。街で「今日の小美女」という BMI 記憶カードが売られているのが見つかる。中身はとあるカフェの娘の日常を盗撮したもので、しかも不思議なことに、盗撮映像は被害者の一人称視点のようだ。被害者の BMI データ漏洩が濃厚。主人公は「この BMI は Wi-Fi もネット接続もアプリもない。マルウェアが入り込む余地はない。漏洩するはずがない」と言い、調査に来た警官も首をかしげる。そこではたと主人公が閃く。
「あ~、この BMI には専用プロトコルのネットワークがあって、サーバーと通信してるんだ。そこから漏れたのかも」
(ここでツッコまずにいられるか)
調べると黒幕は黒髪の女だった。元は城門ツバサの友人で、二人とも BMI 研究をしていた。子供の頃いじめられた経験から心が歪み、社会への復讐を始めた。BMI に細工をして楽しむ愉快犯で、城門ツバサの記憶移植も彼女の仕業。城門ツバサは死ぬ間際に恐怖し、死を恐れるあまり彼女の誘惑に乗り、精神移植で他人の体に侵入した。すべては城門ツバサ自身が望んだことだった。

そして黒髪の女が主人公を誘拐して演説している最中、主人公が突然覚醒。自分が改造人間だったことを思い出し、謎の超能力で黒髪の女の BMI を操り、義肢で自分を殴らせる。女が倒れると警察が来て、問題は解決。

城門ツバサも記憶を取り戻し、死の恐怖から茨木リノの体を奪ったことを後悔する。その後主人公はめちゃくちゃに探し回り、黒髪の女の背後にあるもう一つの組織、自分という縫合改造人間を生み出した組織を見つける。自分が失敗作として市場に流れたなら、他にも失敗作がいるはず。主人公はもう一体の改造人間を見つけ、それを器として城門ツバサの記憶を茨木リノから移植。二人の女主はようやく顔を合わせて話せるようになり、ゲームは終わる。
まず言おう。このゲーム、ツッコミどころが多すぎる。
1、まずテンポが悪い。序盤の展開はまだいい。「ダブルヒロイン」設定をゆっくり紹介していく。だが中盤、定番の「クリスマス」日常水増しが始まる。シナリオ重視の全年齢作品として、これは本当に不要。こういう日常が好きな人もいるだろうが、その日常も書けてない。脚本に瀬尾順の支えもない。過去の柚子作品と比べても魅力が薄い。終盤の展開もあまりに雑。特に主人公が「もう一つの失敗作」を見つけるくだりは数行で終わる。移植ってそんなに簡単なのか? しかもあのボス戦、突然ボスに自分を殴らせるというアホ展開は本気か?

2、ゲームに常識がない。BMI(Brain Machine Interface)という名前からしてアホすぎる。Brain Modification Interaction かと思った。脚本は英語の単語もろくに知らないんだろう。後半の「ハッカーがどう侵入したか」の説明には笑った。現代の AR デバイスがオフラインだと言い、ハッカーのデータ制御方法について主人公の理論は「アプリストアもない、マルウェアも入れられない、だから侵入もできない」。その後突然、Bluetooth のような専用ネットワークプロトコルがあって侵入可能だったと思い出す。脚本は今の技術を分かってるのか? 二人の警官もアホの見本だ。調査するだけでなく、ハイテク犯罪に遭遇すると「我々警察はこれに詳しくない」という理由で、主人公のような赤の他人に解決を頼む。日本の警察にサイバー課はないのか? P2P で海賊版アニメや漫画を落としてる奴らはどうやって捕まえてるんだ? だから大阪の黒シャチオタクが毎日海賊版アニメを見ても強制送還されないのか?

3、制作に誠意が全く感じられない。まずアニメーション。柚子の OP は 2D アニメが伝統だ。今回の全年齢作品ではその「伝統」が進化し、2D が 3D になった。しかもかなり粗い 3D。例えるなら……『カスタムメイド3D2』で作ったような感じ。むしろ完全にカスタムメイドで作っただろ。小品だからスライドショー OP でコスト削減するのは分かるが、こんな粗い 3D で気分を悪くさせることはない。アニメ以外にも、全年齢なのに主人公に CV をつけない。背景やキャラの動きも過去の柚子作品の影が見える。端材を少し変えて出しただけに見える。一部の女主 CG も、以前の没 CG の色を変えただけっぽい。このゲームが「巨費を投じて」開発されたとはとても信じられない。2500 円でも儲かると思う。

4、一番金をかけたのは女主の CV かもしれない。若木民喜先生が愛する東山奈央を起用。東山奈央が悪いとは言わないが、このギャルゲーでは声に特徴がなさすぎる。二人の女主の性格の違いも際立たない。一人二役なのに区別がつきにくい。これで意味があるのか? 新冠にかかった仙台のオバサンにやらせた方がマシだ。過去の柚子作品は「声がエロい」女主 CV で好感度を稼いでいた。全年齢でも女主 CV が十分誘惑的なら柚子の殺傷力は発揮できるはずだ。だが……このゲームは非常に健全。健全すぎる。性冷淡レベルに健全。話は冗長で引き込まれず、音楽もダメ、OP も美味しくない。唯一の伝統的強み「エロ」も捨てた。この新作に何が残ってる?

最後にタイトルの問いに戻ろう。柚子は実は全年齢初挑戦ではない。昔の『天神乱漫』には全年齢の PSP 版があった。エロ絵はないが、あのゲームは良かった。特に CV の演技はエロ絵の助けを必要としなかった。その全年齢版で抜いたなんて絶対に言わない。対して今回のゲームは、柚子が「自らの武器を捨てた」のに実力も出せていない。それでも「地雷」レベルではない。Steam でよくある、中国語同時発売の詐欺作品の平均レベル。特別な展開も、欲しいものもない。「中国語同時発売」だけがある。

そう、皆も分かってるだろう。Steam で配信されるギャルゲーは、中国語同時発売さえすれば、たとえシナリオが某列車のようにクソでも、結局は好評になる。一部が低評価で荒れても、それはXのいわゆる大 V が扇動した結果。ほとんどのプレイヤーは思考停止のゾンビで、皆が良いと言えば良い、皆が悪いと言えば悪い。
では今回の酸柚子「ゆずソフト Sour」はアリか?
俺はナシだと思う。でも Steam では多くの人がアリと言うだろう。もっと安ければ、なおさらアリだ。
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