『旧手表 + 幻觉』レビュー
国産ギャルゲーについての個人的な意見
みんな知ってる通り、最近の日本エロゲー業界は終わりかけていて、8月にしたってロクに張り合える大作が一本も出なかったもんだから、退屈しのぎに別のゲームを漁るしかなかったわけだ。
そんなとき、たまたまとあるブログで『幻觉』ってギャルゲーを絶賛してるのを見かけたんだが、面白いことにその制作元「灰烬天国」の前作『旧手表』がSteamでなかなか好評らしい。
Steamの国産ギャルゲーは、あれこれネタに走って自爆した連中を除けば、たいてい評価は高い。まあ『旧手表』は特にシナリオ面で高評価だったし、なにより俺が暇で暇で仕方なかったってのもあって、『旧手表』+『幻觉』のセットを購入してプレイ開始。まずは当然『旧手表』からだ。
ゲームのボリュームは長くも短くもないってところか。正直に言うと、『旧手表』は俺の予想をはるかに上回ってきた。昔触った「オタク濃度が高すぎて吐き気がする」ようなゲームどもに比べれば、『旧手表』にはある程度本物の「国産ギャルゲー」の片鱗があったし、長所も短所もはっきりしてる。だからこの記事ではこのゲームと続編、そして今ぞくぞく出てくる「国産ギャルゲー」について思うことを書いてみる。今回はあらすじ紹介もなければ、激しいツッコミもしない(国産ギャルゲーをディスると叩かれるらしいんでな)。ただの随筆で、思いつくままに書く。

まずは長所から。『旧手表』の背景画は上海をモデルにしてるっぽいし、物語の語り口はちょっと「タイムリープと輪廻」めいた趣向を取り入れている。立ち絵に関してはそこまでケチをつけるところはない。不快感を煽るような「オタク用語」を無理に詰め込んでいないし、テンションの上がるOP、それにめちゃくちゃ面白くてやり込み甲斐のあるミニゲームもある。CVは一部のキャラが光っていて、科学やコンピューターにまつわる部分も大きな穴はない。ラストの結末の持って行き方もなかなか面白くて、「ありきたりじゃない形」でハッピーエンドを実現してる。

もちろん、長所を語ったら短所からも逃げられない……。
まずこのゲーム最大の諸刃の剣、それが物語の展開と設定だ。読んでてそこそこ面白いし、脳内侵入とかはサイバーパンクっぽくもあるんだが、どうしてもこれらの内容は某「科学アドベンチャーシリーズ」を連想させてしまう。Chaos HeadとChaos Childはもう名前を出してるようなもんだろ。特に終盤で追加される「ごく一部の人間が世界を支配する」って設定なんか、某「三百人委員会」を思い出さずにいられない。ネットに転がってる攻略記事ですら、後半の決戦前に「非実在少年」のBGMを合わせろとツッコんでる始末だ。どうやら脚本と企画は本当に5Pb / Magesのゲームが好きらしい。別に「脳内侵入」や「人工知能」みたいな題材を書くなとは言わないが、せめてここまで模倣の痕跡を露骨にするのはどうなんだって話だ。

展開がやたら見覚えあるって話以外に、声優の演技も我が国のレベルが日本とまだまだ差があることを物語っている。さっき一部のキャラは上手いと言ったが、それ以外の多くのキャラは思いっきり浮いてる。声優の力量不足のせいもあれば、録音やポストプロダクションの処理がダメなせいもある。とにかく聞いてて……このキャラと他のキャラで声の音量が揃ってないんだよな。国産ギャルゲーの制作陣は本当に資金がカツカツなんだろう、プロの録音技師を雇ってチェックさせるなんてとても無理そうだ。セリフ回しは「ベテランオタク」の決まり文句の罠にはあまり嵌まってないものの、多くの箇所はやっぱり気まずい。脚本には、普段二人で話すときに本当にそんな言い方するのか、一度自分で考えてみてほしい。

もう一つ特筆すべきはゲームエンジンだ。みんなご存知Unityを採用していて、これが日本の同エンジン作品と同じ問題を引き起こしている。リソース消費がとにかくデカい。文字主体のギャルゲーが、まさか長時間CPUを100%占有し続けるなんて信じられない。これは完全にエンジンのせいじゃなくて、プログラマー本人の問題だろ。俺も少し事情を聞いたことがあるんだが、業界でギャルゲーを作りたいとなると、プログラマーを募集しても来るのはUnityを学んだ奴ばかり。小規模プロジェクトなら、当然プログラマーが得意なツールでやるしかない。Unityを使うのは仕方ない選択なんだろう。だが、これを使うのはさすがに大袈裟すぎる、鶏を割くに牛刀をもってするってやつで、しかも最適化もできてない。なぜそこまでする。オープンソースのRenPyだって別に難しくないだろ、Pythonを学んだプログラマーも少なくないし、RenPyだってDDLCみたいな「名作」を生み出してる。しかもエンジン自体の性質のおかげでクロスプラットフォームも楽だ。なんでUnity一本にしがみつく必要があるんだ? それに制作陣に普段からギャルゲーを遊んでる人間がいるのかも疑問だ。Backlogすらまともに見られないって、このゲームシステム自体がもう失格だろ。

なんだかんだ書いたが、個人的には未来の「国産ギャルゲー」にはそれなりに期待している。少なくとも『旧手表』は俺に少しの希望、少しずつ良くなっていく希望を見せてくれた。どこで見たか忘れたが、我が国はゲーム作りにおいてある意味金に困ってないし、声優もプロ揃いだと聞く。多くのソシャゲやネトゲ、『World of Warcraft』や『王者栄耀』なんかの声は実際かなり良い。ただし、そういう声優には比較的「まとも」なセリフと優秀な音響監督の指導が不可欠で、それがほとんどのギャルゲー制作陣に欠けているものだ。

どんなギャルゲーが本当の「国産ギャルゲー」と言えるのか、俺も考えたことがある。まず我が国の特殊な環境で、18禁も際どい表現もタブーだ。場合によっては「高校生の恋愛」すら言及できない。日本のギャルゲーのような制作環境なんて到底ない(もちろん日本の高校ギャルゲー設定も大半はデタラメだが)。ギャルゲーを決めるのは原画、音楽、シナリオ、システム、この四つに尽きる。そして原画、音楽、システムの面では我が国のレベルはすでに世界一線級だ。だが、まさにそのシナリオがほとんどのギャルゲー制作者を縛り付けている。国産ギャルゲーを作りたいと願う人間の頭の中が、なんでどいつもこいつも「中国で起きる日本式ギャルゲーの物語」ばかりなのか、完全にローカライズした思考でゲームを作ろうと真剣に考えたことがないのか、不思議でならない。そういえば中国大陸でのHip-hop音楽の発展を思い出す。あれはアメリカのストリートギャング発祥で、濃厚な暗黒の匂いをまとっている。初期のHip-hopにはドラッグやギャングの要素があったが、Hip-hopが中国に入ったとき、中国にはそういう要素がなかった。だから「Hip-hopの中国化」が起きた。ただGangstaだのCocoだのを中国語に翻訳するだけじゃなく、精神の通じ合う点を見つける必要があったわけだ。
ギャルゲーも同じだ。日本にはああいう学校文化がある(大半は現実離れしてるが)、しかし中国大陸にはない。実は大陸だって、よく書けた青春文学がなくはない。たとえ郭敬明が書いた学園小説でも、気まずい日本丸パクリよりはマシだと思う。当時の青春ネット小説をギャルゲーにしたってなかなかいいんじゃないか、なんて考えたこともある。なにも「ねえ」だの「気になる人」だの、こっちで「〜なんだよ」あっちで「大っ嫌い」だの、中途半端に日中混ざった言葉を使う必要なんてないだろ。普段同級生とどう話してるか、思い出してみろよ。

実は『旧手表』に希望を見て、「灰烬天国」の次回作『幻觉』でもっと変化を見られるかと期待していた矢先、このゲームはまた元の木阿弥だった。さらに頭のおかしい設定の寄せ集め、完全に日本式の「生徒会組織」、そしてさらに「オタク」な口語表現。変わらなかったのは相変わらずCPU使用率が張り付くシステムとミニゲーム。正直、このゲームはちょっと遊んですぐ続ける気が失せた。しかも当月の新作発売も重なって、そのまま放置。Steamの返金も面倒だからしなかった。国産への支援ってことで。


もちろん『旧手表』の続編として、『幻觉』は原画のクオリティが明らかに上がっていて、どのキャラも日本のギャルゲーの主流画風に近づいている。まあこれが長所なのかは俺にも分からんが。しばらく遊んだ後、俺は『幻觉』が『旧手表』より大きく後退してると思ったんだが、『幻觉』はなぜか多くの好評を集めている。みんなキャラが可愛ければ、あの難解で人語を話さないシナリオなんか気にしないのか、それとも俺がもう若い連中と断絶してるのか。それどころかネットでは『幻觉』を絶賛する記事をたくさん見かけた。しかも作者はみんなギャルゲー業界の「大V」たち。よく読んで分かった。こいつら全部ステマじゃねえか。褒め方がどれも薄っぺらくて、無理に持ち上げてるレベル。読んでるだけで「私はステマです」って顔に書いてあるようなもんだ。メーカーの宣伝費って出るのかね?

一人は俺が記事を書いてる雑誌のリーダー的人物でもある。紙媒体の現状を考えると名前は出さないでおく、あまりにも気まずいからな。
ここまで来るともう他に言うこともない。ただ一つの感想だけだ。もし今後、国産ギャルゲーでステマ記事を書く人がいたら、俺に声をかけてくれ。少なくとも俺の書く記事はそこまで気まずくはならないはずだ。よろしく。
(実は時々思うんだが、もし当時の『草样年华』シリーズをギャルゲーにしたら、多くの日本作品を余裕で蹴散らせるんじゃないか。郭敬明の『夢里花落知多少』だって、今のこれらの魑魅魍魎よりはマシだ。今の国産ギャルゲー制作者は頭に穴が開いてるのか薬でもキメてるのか、なんでそこまで執着して日本作品を再現しようとするのか。「日本式」じゃないと売れないからか?)
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