『Clover Heart's』レビュー
Clover Heart’s は2003年の古いゲームで、Alcotの初期作品にあたる。これが10年後に記念作としてClover Daysが出された。
今見ても、2003年の古いギャルゲーとして Clover Heart’s の光る点は確かに多い。時代を超えてる部分すらある。

Clover Heart’s のヒロインは双子の姉妹だが、面白いことに主人公も一人ではなく双子の兄弟で、物語は南雲白兎と南雲夷月の二つの視点に分かれている。
恋愛ルートは比較的わかりやすく、双子姉妹の玲亜と莉織がそれぞれ白兎と夷月と結ばれ、双子と双子の恋愛結合が成立する。まあ無難で便利な展開だ。

二視点なだけに、話は二本の主軸で進む。まず南雲白兎と玲亜のルート。こっちはオーソドックスで、大体は最初にロシアから双子の姉妹が家に転がり込んでくる展開から始まる。主人公の父親の友人の娘だそうで、色々あって一緒に暮らすことになる。
で、会って早々双子の玲亜が白兎に興味津々で、毎日べったりくっついて、くっついてるうちに一対になる。以降の話はやや当然の流れで、告白あり甘々ありエロあり。玲亜ルートの中盤で幼馴染のちまりが突然割り込んでくる。彼女は主人公と子供の頃に結婚の約束をしたと言い張り、ちまりと玲亜の口喧嘩バトルが始まる。対立ではあるがギャグ寄りで、最終的に主人公は玲亜を選び、二人は結ばれる。

正直、南雲白兎と玲亜のルートは大きな波乱がない。ちまりが出てきても玲亜と白兎の関係に大した影響はなかったし、ちまりのルートがあるかどうかも攻略を見てないからよくわからないが、たぶんない。何せ出てくるのが唐突すぎる。いきなりぽんと出てくるし、その時点で主人公はもう玲亜と付き合ってるから、奪っても意味がない。

白兎ルートの見どころも一応ある。それは色々と面白い遊び方……つまりカップル間の遊び方だ。
南雲白兎は気が弱くて温和な性格で、玲亜は積極的で小悪魔。だから玲亜が白兎をいじめる姿をよく見かける。昼間に勃起した彼氏を奇襲したり、彼氏に女装を強要したり、用もないのに彼氏に自分を押し付けたり、着せ替えプレイをしまくったり。白兎も白兎でなかなか強く、彼女に押されながらも時々妄想を繰り広げる。たとえば玲亜が痴漢にXXOOされる妄想とか……

こういう要素が2003年当時刺激的すぎたのかはわからないが、少なくとも今でも色あせていない。だからこの辺の要素では確かに Clover Heart’s は一歩先を行っていたと思う。
もう一つのルートは兄弟のもう一人、南雲夷月と莉織のルート。南雲夷月のルートは最初から度肝を抜かれた。何しろいきなりヤってるから。
誰と? 先輩と。
ここで南雲兄弟の関係を軽く説明しておく。二人の仲は良くなく、冷戦状態にある。白兎は温厚だが、兄の夷月は反抗的で、毎日外で遊び回って家に帰らない。白兎ルートの最後で、兄との仲が悪い理由が明かされる。
かつて兄弟は母親と一緒に火事に閉じ込められた。家が崩れるか何かの瞬間に、白兎が兄を引っ張って救い出し、夷月と自分を救った。動かせない母親は諦めた。
だから夷月はずっと白兎を母親殺しの犯人だと思っている。白兎は、あの時兄を助けなければ母親も兄も全滅だったと考えている。二人はそれで衝突し、冷戦になった。
夷月が毎日外で遊び回って家に帰らないなら、どこにいるのか。夷月ルートの冒頭で、夷月と先輩の円華の話が明かされる。
先輩の円華には弟がいて、幼い頃からよくしてやり、弟も姉を慕っていた。成長するにつれ、その弟の姉への感情は姉弟のものではなく恋人に向かうものになっていく。毎日姉に付き合ってくれと迫り、軟らかくいかないと硬く出る。姉の両親が用事で一ヶ月遠出することになり、弟は姉を強姦しようと企む。姉が逃げれば弟は途中で待ち伏せし、路地でまさに手を出そうとした瞬間、外をうろついていた夷月が助けに入る。円華は夷月に感謝し、両親のいない一ヶ月の間自分を守ってほしいと提案する。円華はそれを夷月に「契約」と呼んだ。
夷月は承諾するが、先輩の円華は続ける。
「契約なら、代償を払う必要がある……」
代償とは何か。先輩の体だ。夷月はそれを断らなかった。こうして二人はセックスフレンドになった。夷月は自分が先輩を好きかどうかよくわかっていなかったが、先輩からそう求められて悪い気はしなかった。
夷月ルートの冒頭はそんな話だ。夷月のルートは白兎より幅が広い。ロシアの双子が来日する前から白兎ルートの最後まで、長いうえに白兎ルートと平行していて、夷月の視点から白兎側の進展も見える。
夷月は最初、外で遊び回って先輩を守り、先輩と適当にヤって肉欲を晴らす日々を送る。先輩の円華も毎日夷月に弁当を作り、夷月はそっけなく食べる。
「まるで先輩に飼われてるみたい」と同級生の飛鳥凛は夷月と円華の関係を評した。
円華は学校の人気者で、そんな彼女が夷月に近づくのを多くの同級生は理解しない。だが夷月がヤンキーすぎて、周りも何も言わない。
問題が変わるのはロシアの双子が来てからだ。姉の莉織は家族を大事にする人間で、一緒に住むなら家族だと考え、夷月がしょっちゅう家で飯を食わず外で遊び回るのを許さない。ともかく家で家族と飯を食うべきだという。
強引な莉織は夷月を家に引き止めて飯を食わせ、夷月が殴ろうが怒鳴ろうが、家で飯を食えと主張し続ける。
莉織に押し切られた夷月は従うしかなく、そのうち家族と一緒に過ごす生活が好きになっていることに気づく。何かと気にかけてくれる莉織にも妙な感情が芽生えていく。
先輩との週一の保護とセックスは続き、先輩の弟も繰り返し先輩を付きまとう。夷月は守り続ける。ある日、先輩が夷月をホテルに呼び出してセックスする。夷月は嫌気がさし、先輩の体をいつも占有するのは良くないとすら思う。
ここで話は絶妙に動く。先輩の円華が自分から夷月を誘い始める。もう明らかだ。先輩は代償のため体を使っているのではなく、本当に夷月が好きだからそうしている。
夷月は自分を気にかける莉織と、守るべき円華の間で何をすべきかわからなくなる。
「このままでいいのか?」とある日、飛鳥凛は夷月に問う。
夷月はあれこれ考え、先輩に言いに行こうと決める。もう肉体関係は持たないと。
先輩の円華も莉織と夷月の親密さに気づき、夷月に告白しようとする。好きだと伝えようとして、その前に夷月が先に言ってしまう。「もう肉体関係はやめよう」と。
「守るのは続ける。でも、そういうことはもうしない」
「どうしたの? 私に飽きた?」先輩は理解できず、振られたと思って悲しそうに泣く。

その後の展開は普通の三角関係の終幕だ。夷月は先輩との「契約」を終わらせ、先輩も夷月の助けで影から抜け出し、自分から弟と話して恋をきっぱり断る。弟も姉への身の程知らずな要求を諦める。
実はここで円華のルートを選べるが、そのルートはかなり……おまけみたいなものだ。セックスは多いが、弟はずっと夷月を恨み続けるから、良い結末とは言えない。
以降は白兎ルートと同じようなもの、つまりイチャイチャとセックスだ。ただ莉織は内にこもる性格で夷月は強引、これが白兎と玲亜の逆で、属性を変えたという感じだ。
双子兄弟が双子姉妹を攻略してこのゲームは終わり、だと思う?
違う! このゲームにはゾッとする裏設定がある。
夷月ルートの最後でゲーム全体の隠れた主軸が明かされる。いくつか挙げよう。
1、玲亜と莉織はロシアの双子姉妹で、両親はロシアで働く科学者。
2、南雲夷月と南雲白兎の父親は日本の外交官で、この外交官と玲亜たちの両親は仲が良い。
3、玲亜と莉織の両親は謎の組織に殺された。ある金属ハイテクを研究していたからだそうだ(たぶん)。
4、両親を殺された玲亜と莉織は、主人公の父、つまり日本の外交官によって密かにロシアから日本へ連れてこられた。
5、主人公兄弟の住まいには執事のロバートとメイドしかいない。二人はただ者ではない。
6、莉織曰く、両親はマフィアのような謎の組織に追われていた。
そして夷月ルートの最後、謎の組織が再び日本の主人公の家を襲う。標的は玲亜たち双子のようだ。
そこで……

そこでメイドがエージェントに早変わり!
もみ合いの末、襲撃してきたロシアのマフィア(まあそういうことで)はプロすぎて人数も多く、姉の莉織が捕まる。彼らは無駄話もせず莉織にパスワードを尋ねる。莉織は知らないと言い、時間を稼いでいるとメイドが隙を突き、姉妹も兄弟も救い出す。
そのパスワードとは何か。
実は莉織はある曲を吹奏するのが好きで、夷月には母が死ぬ前にいつも教えてくれた曲だと言っていた。後でメイドが説明する。その曲の音符を書き出したものが、莉織の両親が残した研究資料のパスワードだという。
ここで僕は完全にゾッとした。これ、マジでスパイドラマじゃねえか?
玲亜と莉織の両親はロシアの科学者なのに、なんで日本の外交官と密接なんだ? 二人はスパイだろ?
両親を殺したのはマフィアじゃなくてロシアの公式エージェントだろ? 研究したハイテクを奪われるなら口を封じるに決まってる。
玲亜たちを襲いに来たのもエージェントだろ? でなきゃプロなわけがない。エージェントが聞いたパスワードも研究機密だろ?
執事のロバートもメイドもエージェントだろ? でなきゃあんな戦闘力ないし、外部に援軍を頼めない。
さらに厄介なのは、この展開が全くのデタラメじゃなく、前のほうから伏線や暗示が見つかることだ。スパイものの描写も程々で、中二病のイキリ展開よりずっとマシ。あれこれ考えてもいいし、考えなくてもいい。日本人が政治展開を書くとコメディになる呪いを完全に断ち切っている。
この一点だけでも、Clover Heart’s のシナリオの面白さは Clover Days を完全に圧倒している。前者はこんなに玄妙なのに、後者は幼馴染を描く古典的王道シナリオでしかない。オタクを驚かせないようにしたのか、Clover Days の英国の双子もこのぶっ飛んだ展開を捨てている。
多くの説明で Clover Day’s と Clover Heart’s は関係ないと言われるが、そうでもない……
まず共通人物がいる。

飛鳥凛と西園寺先生は同じキャラで、一人は学校に残り、一人はまだ学校で教師をしている。
次に復刻された人物がいる。

円華は Clover Heart’s での遭遇が悲惨すぎたからか、Clover Day’s では属性も外見も復刻され、完全な個別ルートまで得ている。
では Clover Heart’s というゲームをどう見るべきか。
言えるのは、このゲームの時代を考えれば確かに Clover Day’s より上だということだ。シナリオの深い配置が優れているだけでなく、主人公は Clover Day’s の主人公より真面目で面白みは減ったが、話は安定していて、茶化しが多すぎない。これも当時のギャルゲーのシナリオの特色の一つで、玲亜ルートは恋の甘さを、莉織ルートは恋の苦さを強調し、それぞれ良さがあり、性格の重複も少ない。
全体の話だけでなく、Clover Heart’s のシナリオ構成もテーマに寄り添っている。各人のルートは四つの章に分かれ、Clover(四つ葉)の四枚の葉に対応する。各章に新しいOPがあり、とはいえそのOPはあまりに粗末で、当時のAlcotは金がなかったんだろう……
ゲーム内には選択肢が多く、間違えてもアンロック用の小物がもらえる。収集要素があり、ほとんどの選択肢を試して初めて真の100%に到達できる。これは今では珍しいし、当時のギャルゲーがまだ模索期で、制作者がこれをGameとして見ていたこと、今のVisual Novelではなかったことを示している。
10年後の Clover Day’s は記念作品として、Clover Heart’s の表現方法を多く継承している。OP2もそうだし(OP3 OP4はないが)、ゲーム内のキャラの独白、つまり Clover Heart’s の日記もそう。ゲームの背景や場所、OPの絵コンテも旧作と一致し、旧OPも元の歌い手を呼んで録り直しており、確かにオマージュの意味が込められている。
Clover Heart’s の絵柄がダサい、OPの歌い手が音痴だと思うかもしれない。だがそれは10年前の話で、10年後に仁村有志の絵柄がこんなに進化するとは誰が思っただろう。10年後に真理絵の歌唱力が長足の進歩を遂げるとは誰が思っただろう。
歳月が人を前へ進ませる、とはこういうことだろう。
Clover Day’s をやってから Clover Heart’s という旧作に戻ると、どこか歳月の味を味わう気分になる。
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