『ウチはもう、延期できない。』レビュー
延期とは関係ない
Sonoraというブランドは最初、どちらかといえば「今どきの若者」に寄せたノリを作ろうとしていた気がする。1作目が「ソシャゲ課金」ネタ、2作目が「二次元アイドル」ネタ。どれも今どきの若者が大好きで流行っている題材だ。ギャルゲーメーカーが新ブランドを立ち上げて新規ユーザーを取り込みたいなら、そういう動きは至って普通だ。
ところが3作目で様子がおかしくなり、「エロゲーショップを開く」みたいな妙にコアな話題を出してきた。そして今回の4作目で完全に解き放たれた。エロゲープレイヤーにはお馴染みで、若者は全く興味を持たないあの領域、「エロゲー開発」へと踏み込んだのだ。
『ウチはもう、延期できない。』
タイトルは、今のエロゲー開発会社の現状の一部をそのまま表している。コロナで人手不足、金も足りない、斜陽産業に追い打ち、開発はたびたび延期、発売日は飛びまくる。もはや業界の日常だ。
このゲームのテーマは発売前から想像できた。Sonoraの前作エロゲーショップゲーのノリからして、エロゲー制作会社の日常をギャーギャー笑い飛ばしつつ、前作のエロゲーショップや一部アイドルキャラをカメオ出演させる。仕事が忙しい描写も少しはあるけど、すぐに危機を脱して最後はハッピーエンド……。
で、このゲーム……本当に想像通りだった。

主人公は親戚の伝手でエロゲー開発会社にこき使われに来て、さらに親戚の取り持ちで、俺が見ても売れないだろうなと思うような企画をやらされる。最後は会社の女子社員と恋愛して付き合う話。
ストーリーは絶対的な一本道じゃないし、内容そのものも特に語るべきことはない。タイトル通りなら主眼は「延期」で、「延期」については本作でも一応の説明がある。
「延期」なんて大したことない、今回終わらなかったら来月完成させて売ればいいじゃん、と思うプレイヤーも多いだろう。その点についてゲーム内でいろいろ説明してくれる。たとえば開発時には宣伝費をかける。今年7月発売と宣伝して金も使ったのに、結局延期したらその金はドブに捨てたようなもの。さらに開発はローンを組むことも多く、1日延びるごとに社員の給料を払う金がかさみ、ローンも発売で返せないまま大きな資金の穴になる。だからエロゲー開発もソフト開発と同じく、延期は可能な限り避ける必要がある。
ここまででこのゲームのテーマはほぼ終わり。残りの内容はタイトルとはほぼ無関係だ。ソフト会社の開発日常はかなり描写していて、登場人物がいかに忙しいかを伝えようとしているし、宣伝では「ここに入る者は一切の希望を捨てよ」みたいな標語まで出していた。だが正直に言う、このゲームの開発陣がどれだけ大変か、俺には全然伝わってこなかった。むしろ現実離れしすぎている。

エロゲー開発会社に美少女がそんなに揃っているわけがないし、あんなに優しくて話の通じる上司もいない。まして開発前の忙しい時期に外でデートする暇なんてない。実際の日本の開発会社は搾取と996と、ありとあらゆるオフィス政治で溢れているはずだ。
個人ルートでも、俺にはよく分からない描写があった。森谷実園が演じる主絵師の個人ルートでは、主絵師が彼氏を公表したら多くの「熱狂的ファン」から攻撃され、そのファンたちを「気持ち悪い」と非難する場面がある。

問題は、R18主体のギャルゲー開発会社にとって、主な客はまさに「エロ画像」を見たがる「気持ち悪いオタク」なんじゃないのか。しかも多くの女性絵師は宣伝の際に自撮りをちらっと載せたり、露出趣味を匂わせたりして、オタクを引き寄せようとしている。
はっきり言えば、ゲーム内でわざわざ気持ち悪く描かれている「熱狂的なオタクファン」こそ、お前らの製品の主要顧客だろ。自分の作品で自分の主要顧客を貶すなんて、これは行為芸術か、それともある種の自惚れか。
『ウチはもう、延期できない。』をどう評するか、かなり考えた。業界の話にしようかと思ったが、このゲームは業界についてあまり語っていない。
ゲーム開発の視点で語ろうかと思ったが、このゲームは開発についてもあまり語っていない。問題が起きてもいつも一行で済ませてしまう。

題材や企画の面から語ろうかと思ったが、このゲームは企画の考え方についてもあまり触れていない。内容は『創作彼女』より少ないくらいだ。あっちは少なくとも題材と創作の壁について議論していた。本作はというと、問題が起きたら一息ついて、誰かに励まされれば全部解決。その間の過程はまったく語られない。
とあるクソサイトで「エロゲー制作を見るなら『創作彼女』はただの暇つぶし、本物は『延期』だ」と皮肉っている人がいるが、俺から見れば全く根拠がない。このゲームは「エロゲーを作っているっぽい」雰囲気を演出して、無理やりタイトルに合わせてエロゲー制作班の要素を少し足しただけで、実は「エロゲー制作」とは大して関係ない。『New Game!』がゲーム制作とあまり関係ないのと同じで、本作でも本当の「ギャルゲー制作」の苦労や楽しさは感じられない。分かるのは「ゲーム延期」がもたらす雪崩式の影響が想像以上に深刻だということくらい。
残りの内容も、悪いとは言わないが、あまりに凡庸だ。せいぜいネタを少し挟んだ普通のオタクの妄想恋愛劇で、「延期」とは関係ない。
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