『神様のような君へ Extended Editon』レビュー
神様のような君へ
CUBEが2020年に『神様のような君へ』というゲームを出した。主人公が凄腕ハッカーで、AIロボットと過ごす話だ。
画はいいし売れ行きもそこそこだったが、シナリオには引っかかる点が多かった。一番ひどいのは、主人公が「ハッカー」なのにハッカーらしい意識が全然なくて、巨大テック企業のAIネット接続ロボットを平気で同居させ、プライバシーを全く気にしないこと。それに多くの√が「唐突に終わる」感じで、ヒロイン1号のはずのツクヨミは1号の扱いを受けず、「シャーロック・ホームズの再来」を名乗る探偵は脳内チップ頼りでおバカになるわ、兄の復讐に燃える女ハッカーはひたすら無能にキレてるわ、設定は悪くないのに全体として「あと一歩」の物足りなさがある。
その後、このゲームがSwitchとPS4に移植されるという話が出て、しかも新キャラまで追加されるらしい。これは意外だった。大体10年くらい前にはギャルゲーの全年齢移植+新キャラ追加なんてお決まりのパターンがあったけど、最近じゃまず無理だ。業界はもう終わりなので。CUBEがこんな逆張りをするとは、よほど監督の原画に自信があるんだな。
追加キャラの内容も見たけど、大したもんじゃないというか、ただのモブの話を足しただけだろう。さらに移植版で原作の一部シナリオが改稿されたという話もあった。これもまあ想定内だ。原作には「知的障害者をレイプする」みたいな政治的に正しくない描写があったし、直すのは当然。
俺が気になるのは新キャラ追加の「全年齢版」をどう買うかで、最初はSwitchカートリッジを買うつもりだったんだ。ところが6000円以上する上に値下げもしてない。貧乏人としてはさんざん迷った挙げ句、諦めた。ただ、追加キャラのCVがエロゲー常連の人だと知った時点で、そのうち金を払わずにタダで遊べるだろうという予感はあったね。

そして案の定、CUBEは新キャラ入りバージョンを、かつて『Your Diary』でやったのと同じように逆移植という形で『神様のような君へ Extended Editon』として発売した。追加キャラの話だけでなく、そのHCGまで入っている(CVを見た時点で分かってた)。なので早速この追加部分をチェックしに行ったわけだ。
見てびっくり、このゲームは全然単純じゃなかった。というか、2年前に出たゲームと比べると、この「拡張版」こそが「正式版」に近い。
追加キャラは俺が想像したような、どうでもいい小話を足しただけではなく、むしろゲームのテーマを昇華して締めくくるものだった。しかも追加された内容の多くは原作シナリオの改稿に基づいていて、その改稿がテーマをより完全な形で表現している。

改稿部分:
- 原作ではツクヨミ√の最後、自爆した彼女が月から再生産されると知った男主が、仮想世界で一度会って終わりだった。拡張版ではツクヨミの後日談が追加され、二人は再会してより楽しい生活を送るようになる。
- 新たな敵役が追加された。朝倉霧香√でチップ移植を施した敵役の女医・伊澄くろえの兄で、名前はなく単に伊澄博士と呼ばれる。
- 神無月愛彩梨√が正式に追加されたが、内容は薄く、恋愛要素が増えて元の単純さはなくなった程度。
- 黒鳳玲音√は改稿され、特に「自分に銃を突きつける」というアホな展開は残っているものの、シナリオはそこまでアホではなくなった。
- 探偵ラナ√は丸ごと書き直された。元は彼女の脳に疾患があり、Sチップを埋め込んで知能を確保していた。そのSチップ開発企業がチップで人体実験をしていたことが発覚し、ラナの姉が大義滅親で開発企業を告発。その結果ラナの脳内チップが効かなくなり、ラナは徐々に知的障害へと退行し、最終的に後天的なリハビリでどうにか回復するという流れだった。新版のラナ√では脳内チップの名前がコードネーム「シャーロット」の研究プロジェクトに変わり、機能も「知能」から「記憶」へと変更された。つまりチップを失ったラナは過去の記憶を失う可能性があり、姉ソフィアが開発したプロジェクトもこの「シャーロット」チップの課題になった。この課題は医学院の伊澄博士に師事している。新たに加わった伊澄博士はゲーム内で繰り返しテレビに登場し、「シャーロット」チップが人間の記憶操作にどれほど重要かを説き、未来の人類はこのチップで無限の記憶を保存し、真の幸福を実現できると語り、広く大衆にプロジェクトへの参加と体内へのチップ移植を呼びかける。だが実際の伊澄博士の真の目的は「シャーロット」チップの普及を通じて大多数の民衆の「集合記憶」を操作すること、要は洗脳なのだ。最終的に伊澄博士の陰謀は打ち破られ、ラナの脳内チップで失われた記憶も姉が開発したサードパーティ製ファームウェアによって救われ、ゲームは大団円を迎える。
- 書き直されたラナ√がゲームの正統√とされ、元のラナ√も残されている。ゲームメニューのextraから入れる。

追加√部分:
「拡張版」として新キャラが追加された。園村葉月だ。
この√は他の全キャラ√をクリアしないと解放されない。
「園村葉月」はバスケ部の選手で、いつもヘッドホンを着けている。明るい性格で、男主がキーホルダーを探してやったのがきっかけで知り合う。だがすぐに男主は「園村葉月」の違和感に気づく。どうやら二重人格らしい。ある時はとても明るく、ある時はとても暗い。暗い側の人格は「N」と名乗り、二人の人格は互いを知らない。しかもこの「N」はハッカー技術に詳しく、自ら進んで男主の前に出て、他のキャラ√で起きる問題を解決してくれる。敵役の伊澄博士の集団洗脳計画や、伊澄博士の妹・伊澄くろえが脳内チップで患者のプライバシーを覗き見する問題などだ。

男主はおかしいとは思ったが、二重人格は珍しいことでもないので特に何も言わない。だが「N」の強さには疑念を抱く。何しろ「園村葉月」という明るい表面の人間がハッカーには見えないからだ。さらに「N」は「園村葉月」の人格の代わりに男主に告白し、二人をカップルにしようとする。これで男主は「園村葉月」と「N」が「人格」の関係ではなく、実際に二人の人間が一つの体にいるのではないかと疑い始める。
「園村葉月」と付き合って間もなく、彼女は昔とても内向的だったが、「性格変換」というアプリをダウンロードして使ってから明るくなったと聞かされる。しかしハッカー技術に詳しい男主は、性格を変換する「アプリ」なんて存在しないと知っている。男主もそのアプリをダウンロードしてみたが、中身のないただの娯楽ツールだった。

やがて「園村葉月」との交際が深まるにつれ、二人の関係はどんどん順調になり、何もかもが妙に都合よく進む。男主がツクヨミを冷落してないか心配すれば、ツクヨミは工場送りで修理だと告げる。ラナの健康を心配すれば、ラナは海外留学すると言う。後輩の生活を心配すれば、彼女は元気にやってると言って二度と現れなくなる……。気づけば男主の交友関係には「園村葉月」一人しかいなくなっていた。ここで男主は違和感を覚える。これらはあまりにもタイミングが良すぎる。調査を始めると、周囲の女子が去った理由が全て「N」の裏工作によるものだと分かる。彼女は他の女を男主から遠ざけるため、様々なメールや電話の情報を偽造していたのだ。さらに調査を進め、男主はついに「N」の正体に辿り着く。それは男主自身が何年も前に書いた「自動侵入AIプログラム」で、元の名前は「ノラハム」。侵入任務完了後に自動消滅するはずが、なぜか生き残っていた。この取りこぼしがインターネット上に逃げ込み、ネットを通じて自己学習し、ますます強大になり、伊澄博士のサーバーへ自己侵入して「精神制御」の能力まで手に入れた。生き延びるため、それは「性格変換」アプリに寄生し、「園村葉月」がダウンロードして起動したことでヘッドホンから脳へ入り込み、彼女の体のもう半分になったのだった。

「N」はすでに強大だが、それでも創造主である男主を恐れている。正体がバレて削除されるのを恐れている。だから密かに男主と「園村葉月」の恋をまとめ上げ、男主が恋に溺れて自分を忘れることを望んでいた。同時に「N」には自分の計画があった。目標もまた「精神制御」能力で世界の覇者になること……。

もちろん男主は「N」の正体に気づいており、「園村葉月」の携帯に仕込んだ地雷コードで「N」を捕獲。彼女の体から分離し、「園村葉月」を救って真の恋人になる。

男主は高度な知能を持つ「N」を削除せず、ネットから切断した自宅のPCに閉じ込めて、再び人類を傷つけないようにした。だが「N」の脅威は去ったものの、AIとしてネットの中でここまで自己成長し、一時は精神操作で人間を操るまでになったことを思うと、やはり背筋が寒くなる。
『神様のような君へ』の「拡張版」では、シナリオの拡充と改稿によって、タイトルにある「神のような君」を様々に解釈している:
- 一つ目は男主。ハッカー技術でネットを縦横無尽に駆け、常人にはできないことをやってのける、ある意味「神のような人」。
- 二つ目はヒロインのツクヨミ。インターネットのビッグデータを背景に、知らないことなどない万能AIロボット。これもまた「神のような人」。
- 三つ目は敵役の「伊澄博士」。治療の名目で大多数の民衆を騙して体内にチップを埋め込ませ、チップにバックドアを仕込んで人間の記憶を改変・操作し、大規模な強制洗脳で民衆の思想を操り、「神のような人」になる。
- 四つ目は男主が創ったAI「N」。伊澄博士の精神操作技術を自己学習したが、直接洗脳するのではなく、周囲の環境を操作して人の思想にじわじわと感染・影響を与え、相手が気づかぬうちに操る。しかも自分は正体を隠したまま、裏に潜む「神のような人」となる。
以上の四種の「神様」、どれが一番怖いだろうか。

この四種は現実にも全部いると思うが、一番怖いのは四つ目で、しかも今最も一般的だ。皮肉なことに、ゲームの中で一番怖いこの「神様」は、男主が創り出し、ネットの中で自己学習して成長したものだ。「伊澄博士」のように民衆を騙して大規模洗脳するのと比べ、「N」のように同温層を創り出し、人を徐々に視野狭窄にし、井の中の蛙であることに気づかせず、操られていても気づかせず、見えざる手に少しずつ操っていく奴のほうが一番怖い。
そう考えると、普段ネットで見る様々な情報、ビッグデータの演算レコメンド、ニュースの選別、小さなコミュニティの形成の裏には、「N」のような奴らが動いていると言われても不思議じゃない。

もし男主がゲーム内で、自分の恋愛が順調すぎることを異常に思わず当然だと受け止めていたら、おそらく永遠に「N」が創った同温層に溺れて目覚めなかっただろう。ネットにハマる大多数の人と同じように。
これが今回の『神様のような君へ』「拡張版」で一番拍手を送りたくなったところだ。物語を語りながら、多くの考えさせられる内容を引き出している。AIがツクヨミのような夏和小よりも最高な彼女を連れてきてくれるなら、当然「N」のように君を電池にしようと操る邪悪な力も生まれてくる。ネットは諸刃の剣、AIも同じだ。多くの作品が未来のロボットは思想を持ち人類を支配すると示唆してきたが、ゲームの結末はハッピーエンドでも、俺たちの未来にバッドエンドがないとは限らない。

そう考えると、ゲームのタイトル『神様のような君へ』もより深い意味を持つ。「神のような君へ」、ここでの「君」はもう美少女ロボットだけを指してはいない。
「拡張版」のゲーム品質が大幅に上がったことを考えると、原作のシナリオはむしろプロトタイプに見える。まだこのゲームを遊んでないなら、拡張版だけやればいい。原作はくそくらえだ。
コメントは中国語の本家サイトで受け付けています。このミラーは閲覧専用です。