『彼方の人鱼姫』レビュー
遥かな人魚姫と青春のうつ病少女
世間の大方の予想どおり、『彼方の人魚姫』の制作陣は『ユキイロサイン』、さらにはもっと前の『アオナツライン』からのスタッフそのままで、原画から脚本まで同じ面々だ。だから本作にも、その「継承」された「青春の空気」が当然漂っている。
もちろん「青春の空気」と言うのはちょっと違う。『ユキイロサイン』以降、このシリーズのシナリオの方向性は「青春」から「矫情(いじいじした感傷)」に変わってしまったんだ。『彼方の人魚姫』の発売を知ったとき、俺は嫌な予感がした。この「矫情」が本作でも続くんじゃないかって。ただ今回は「学園」から「ファンタジー」に変わったから、そこまで酷くはならないだろうと思っていた。
だが、それは間違いだった。

『彼方の人魚姫』の話は俺の想像よりずっと単純だ。攻略ヒロインは三人:藍魚、日輪、そして葵。ゲームは序盤でいきなり「藍魚は人魚姫だ」という設定をドンと出してきて、物語の謎がどこにあるのか全然わからなくなる。
普通、「ヒロインは人魚」みたいな設定は隠しておいて、最後に明かすか、せめて何かどんでん返しを入れたほうが面白いもんだ。なのにこのゲームは最初からベラベラ教えてくれる。まったく馴染めない。サスペンスのかけらも残してくれないのかよ。
実際、ゲームもあんまり謎を残そうとはしていない。共通√はひたすらこうだ:藍魚が人魚姫として陸に上がり、みんなと暮らし始める。そんな展開のまま、日々の日常が延々と続いて、物語の終わりが見えない。しかも日常描写の中で、わざと各ヒロインの胸の内をチラ見せしてくる。まるで全員が許されざる罪を背負っているかのようだ。でもそれが何なのか、ゲームは頑として口を割らない。

共通√が終わるまでわからなかった。十年前、綾音という少女がいて、彼女は今の三人のヒロインの親友だった。彼女が最初に人魚と出会い、みんなに紹介しようとしていた矢先、事故で溺れ死んだ。藍魚はその綾音を助けようとして自分も巻き込まれ、海底で生きる能力を徐々に失い、陸に上がらざるを得なくなって、綾音の代わりに生き始めた。日輪と葵に至っては、それぞれ勝手に脳内補完して、死んだ綾音に申し訳ないと毎日意味もなくセンチになっている。実際は綾音と屁の関係もないのに。
物語の続きが気になるだろ?綾音の細部が掘り下げられて、十年前の未完の話が補完されるんじゃないかって。

もちろん、そんなわけない。このゲームのシナリオはここでほぼ終わりで、後はヒロインを攻略するだけ。しかも各ヒロインの個別√もほとんど中身がない。
例えば葵√は最初こそ綾音への罪悪感をそれっぽく書いているが、その後は葵が絵本を作って先生になりたいという話に変わる。日輪√はもっと酷い。彼女は突然、主人公と人魚の仲を必死に取り持とうとし始める。ただ自分が主人公を好きで、でも告白できなくて、最終的に人魚に指摘されてようやく主人公と付き合うことになる。
唯一メインと少し関係あるのは人魚姫の個別√だ。最初は普通の恋愛なのに、主人公の告白を藍魚が拒否する。理由は綾音に申し訳なくて恋愛する資格がないから。もちろん綾音は絶妙なタイミングで千里を超えて声を届け、藍魚の心の荷を下ろさせる。そして主人公は人魚姫と結ばれ、二人はあらゆる体位を試し、お姫様は妊娠までしてしまう。
最後は泣かせようと「人魚姫は海に帰らなければならない」別れのシーンまで入れてくる。だが ED アニメが終わったら、いきなり主人公の娘が出てくる。つまり何だ、人魚姫の別れは永遠ではなく一時的なもので、すぐ戻ってきたってことだろ。
要するにこのゲームのシナリオは一言で言える:十年前に少女が事故で溺れ死に、一匹の人魚と二人の少女が、それぞれ自分のせいだと思い込み、罪悪感でいっぱいになる。だが主人公と恋愛して本垒まで行けば、その罪悪感は霧散し、すべてが最高の結末を迎える。

時々、主人公のデカチンには加持でもかかってるんじゃないかと思う。万病を治し、心の病まで治すとは。
今回のゲーム最大の問題は矫情すぎること。話の中身はスカスカで、日常を積み重ねるだけで繋いでいる。それなのに各ヒロインの個別√は驚くほど短く、脚本家がもう何も書けないのがバレバレだ。各ヒロインが罪悪感を抱く動機そのものは理解できる。繊細な少女の感受性豊かな反応とか。でも脚本家にそれを書ける力量がないのは明らかで、最終的な仕上がりは共感ではなくギャグになっている。以前の『ユキイロサイン』でヒロインがわけもなくドアをぶっ叩いていたのを思い出す。知らない人が見たら、Instagramの「仙女」が天降ってきたのかと思うだろうな。

とはいえ、本作のヒロインたちの繊細な心を理解するのは難しくない。彼女たちを全員、重度のうつ病患者だと思えばいい。うつ病患者の大きな特徴は、物事を割り切れず、ちょっとしたことで激しい心の痛みを感じること。これは本作の、しょっちゅう意味もなくセンチになるヒロインたちの反応と完璧に一致する。もし彼女たちが普通の人間なら、彼女たちか脚本家のどちらかがアホだとしか思えない。だがうつ病だと思えば、脚本家にもヒロインにも同情の目を向けるだけだ。どうせうつなんだから、何をわけのわからないことをしても理解できる。感情の高ぶり、考えすぎ、衝動的な自殺、全部説明がつく。
次は U35 先生、このうつ病脚本家と組まないでくれ。移るから。
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