『ライムライト・レモネードジャム』レビュー
ゆずソフトのベースジョーク
2年ぶり、年始からの一連の予熱を経て、日本のギャルゲー界の雄・ゆずソフトがついに今年のフルプライスR18正統派新作『ライムライト・レモネードジャム』を世に出した。Jamはジャムにもバンドのライブにもかかる言葉で、中国語名はだいたい「スポットライトとレモネードの演出」といったところ。全員ちょっと予想外だったのが、今回まさかのガールズバンドものだということだ。
発表から発売までゆずらしさ全開で、間隔も空かず、しかも今どきの「超大作」ならまず出さないオンライン無料体験版のダウンロードまで先行公開してくれた。ここはゆずに感謝したい。オフライン体験会もやらなければ、KOLを飛行機とホテル付きで呼んで事前にヨイショさせることもせず、淡々と伝統的な宣伝を進め、発売も当然延期なし。成熟したプロジェクト管理の香りがぷんぷんする。

とはいえ正直なところ、実際にプレイするまでの評価はジェットコースターみたいに揺れ動いた。最初は「ベタすぎだろ、今回はゆず終わったか」と思ったし、中盤では「思った以上に良い、さすがゆず」と唸り、全部クリアした後はまた冷静になって、今回の新作は制作スタイルも本体も進化しているけれど完璧ではなく、新しい問題も結構増えたな、という感想に落ち着いた。
まずはみんな大好きなストーリーから。本作の主人公は「沖浪」という男(名前の由来はあの有名な『神奈川沖浪裏』、そう、散々ネタにされているあの絵だ)。子供の頃に音楽をやっていた従姉の影響でバンドを組み、そこそこ経験のあるベーシストになった。学校に上がってからもベーシストとして小さなライブハウスのステージに立っているが、所詮は遊びで、心の中では音楽の夢を諦めかけている。そんなある日、道端でギターを抱えた女の子がストリートライブをやると言い出したのを見かける。ギターが下手すぎて演奏が成立していない。主人公が助け舟を出し、女の子は感謝する。やがてこの子が主人公のクラスに転校してきて……(最初に「今回終わった」と思った理由が分かっただろう、前世紀から使い古された展開だ)。

女の子の名前は恵凪。学校に来るなり「軽音部」を作ると息巻くが、それには生徒会と教師の支持が必要で、恵凪自身の腕も普通、おまけに億劫すぎるほどの人見知り。あちこち勧誘して回っても相手にされない。最終的に見かねた主人公が、またしても手を貸すことになる。主人公の助力と恵凪自身の呼びかけで、バンドはどうにか形になる。主人公がベース、キーボードは恵凪の幼馴染である金髪の月望、ドラムは主人公がずっと組んでいる相棒、そして恵凪はギターが正直お世辞にも褒められないレベルなのでサブギター兼ボーカル、メインギターは主人公がバイト先で知り合った同級生の杏珠に回る。最初にメインギター役として声をかけたのは、一緒に音楽をやってギタリストの二見原莉莉子だったが、彼女は頑としてやらないと言い張り、バンドの宣伝やライブの手配だけを引き受けて、臨時のマネージャーみたいな立ち位置に収まる。
ともあれ、この寄せ集めバンドがこうして組まれた。やがて学校でもそれなりの影響を生み、知名度が上がるにつれてライブハウスでのライブが始まり、ついにはワンマン公演までこぎつけて、キャンパスから孵化してインディー、そしてややメジャー寄りへと歩いていく成功したバンドになる。メンバーが卒業を控えた頃には、生徒会と教師に招かれて母校で卒業ライブも行った。

攻略可能なキャラは少なくなく、全部で4+2人。本命の恵凪ルートは実のところ語ることも少ない。彼女は子供の頃から体が弱く、母親も体が弱く、母娘には確執もあり、父と母はなんと離婚までしている。「病弱な母、離婚した父、消えた夢、壊れた家庭」というテンプレ人設そのもの。恵凪が音楽をやるのは誰かに勧められたのがきっかけで、それから主人公のストリートでの助け、バンド結成、ライブ成功と続き、母との和解へと向かう。母親は結局死んでしまうが、物語は典型的な「ヒロインは前を向く」という、いかにも日本的でもののあはれな展開に落ち着く。


杏珠のルートは恵凪よりずっと良い。最初は主人公のバンドに憧れて引き込まれ、勉強もできてギターもすぐ覚える。秀才は楽器だろうが何だろうが覚えが早いという話だ。だが経験不足ゆえ演奏でミスをしては主人公たちにフォローされ、内心負い目を感じて「下手なら練習あるのみ」とネットで練習しながらその内容で自メディアアカウントを運営し、なんとそこそこの人気まで得る。挙げ句に商業バンドのスカウトに見つかり、養成系アーティスト路線で契約したいと言われる。バンドメンバーと相談した末、断りきれない条件を提示されて承諾、商業とインディーの二重生活を始める。優秀な頭脳も相まって、将来は絶対に大物だ。

月望の人設はどう見ても『K-On!』の琴吹紬を思い出させる。実際、個人ルートでもなんとなくそんな感じだ。月望の家は裕福で、母親が小さい頃からピアノを仕込んでおり、ロックやポップスを極端に嫌う。ロックは乱交、ドラッグ、タバコの精神小伙小妹がやるものだとすら思っている。そんな月望自身も反発心が強く、ロックバンドに興味を持ち、ピアノ経験者ということで自らキーボード役に志願する。やがてバンド活動が母親にバレても言い負かさず、決して屈せず、いつもニコニコしながら母親とやり合う。まさに叛逆ガール、ロック精神に溢れている。XPも。もちろん母親も月望のピアノ教師に説得され、バンドでピアノを弾くこともクラシックの修行に役立つと納得する。最後には月望もバンド活動を通じてウィーン留学のチャンスを掴み、人生とキャリアの飛躍を果たす。


莉莉子のルートはとにかく……退屈? バンドとはほぼ無関係と言っていい。だいたいが伝統的な幼馴染テンプレで、子供の頃から主人公が好きで、主人公のためにギターを覚え、バンドを手伝い、やがて使い古された「友達以上、恋人未満」の関係になっていく。そこからはありきたりな展開が続き、二人の距離を急速に縮めて、告白シーンや回想シーンをこれでもかと詰め込んで「イチャラブ」を届ける。ゆずが本作に「恋愛イチャラブ」を主軸にしたキャラを一人入れるべきだと考えて、莉莉子が選ばれたように感じる。

残りのサブキャラ二人は特に語ることもない。ツインテールの白髪、もう一つのバンドのベーシストである礫川美玖は、最初こそ主人公のバンドと「ライバル」の間柄だったが、主人公のベースの腕前が凄まじいと知って深く感服する。その後、主人公と食事をしたことが間接的に主人公の怪我につながりライブに出られなくなる、その代役としてバンドでベースを務め、やがてくっつく。商業主義を嫌い、Fuck資本、インディーバンドでいるのが好き。何より白髪の礫川美玖は人設がとにかく「坦々」としていて、ロックをやる人間らしく一直線。人の優れたところは素直に認めるし、自分の責任もきちんと取る。含蓄もツンデレも一切なく、CV石原舞が以前演じたキャラとスタイルがまるで違うので、かなり戸惑った。

もう一人のサブキャラは夏和の従姉で、完全に典型的な「年上のおばさんが萧楚南を食べる」展開。音楽づくりのため、青春と恋愛のインスピレーションが足りないからと、主人公という萧楚南を食べてしまう。展開も極めて典型的で、冒頭を見れば結末が分かる類。夏和が好きではあるけれど、年を取ったせいでED気味なのか、このルートは逆に好きじゃない。月望と杏珠の方が良い。

それぞれのストーリーとキャラを語り終えたので、次はゲーム本体について。まず制作面は前作よりさらに精巧で、あちこち狂気じみたレベルに達している。ご存じのとおりゆずのゲームシステムは以前から充実していて、ベースはKiriKiriながら大量の改修でプレイ体験は快適この上ない。欲しい機能も特性も大概揃っている。そんな『ライムライト・レモネードジャム』ではさらに拍車がかかり、従来の機能(高解像度画像、ゲームパッド対応、タッチスクリーン対応、フローチャート表示など)を維持しつつ、俺から見ればかなりニッチな特性まで追加している。たとえばゲーム内UIオプションの並び順を自由にカスタマイズでき、マウスジェスチャー操作にも対応、タッチスクリーン使用時にマウスジェスチャーを自動無効化する設定までできる。さらにぶっ飛んでいるのはTTS音声読み上げ機能を内蔵し、サードパーティAPIの設定に対応、各ヒロイン名の読み方まで変更可能で、「小帅」「小美」みたいな音声会話を作り出せる。あまりに豊富なカスタマイズ項目に、これは誰向けなんだ? 本当に使う人がいるのか? と首をかしげた。

いるかもしれない、でもごく僅かだ。とはいえニッチな需要にも応えられるのがゆず。ギャルゲーここに極まれり、という感じ。ギャルゲーのカスタマイズ項目がWindows 11より多く、KDEに迫る勢いとは、ゆずにしかできない芸当だ。特筆すべきはフローチャート機能も非常に強力で、章や分岐の流れを見られるだけでなく、ノードをクリックしてその時点の会話内容やゲームノードのサムネイルを確認でき、さらにノードの選択肢を即座に変えて物語の流れを直接変えられる。どの選択肢を間違えて対応ルートを解放できなかったのかも分かる……
ゆずのゲームはもはや攻略がほぼ要らない。フローチャートで選択肢をぽちぽちしながら、どう分岐を解放するか推理すること自体がゲームの楽しみの一つになっていて、これは極めて強力で完成されたゲームシステムがあってこそ実現できる、ゆずならではのものだ。

次はゲームのシナリオについて。冒頭で言ったように、シナリオへの態度は変化した。最初はこの「学園軽音部」の王道パターンが古くてベタでつまらないと感じたが、個人ルートに入ると少し違う見方も出てきた。主な理由は、本作の人物造形に明らかな「バンドの匂い」を感じられることだ。
前世紀末、中国で流行った青春文学といえば、大学4年を無駄に過ごしてバンドを組む話。高校の頃に読んだ多くの小説が多かれ少なかれそれに触れていた。当時の韓寒の小説や、強く印象に残っている『草样年华』、そして『毕业那天我们一起失恋』などだ。大学4年間、何もせず遊び惚けて彼女を作り、もう一つがバンドを組むこと。俺はバンドを組んだことはないけれど、そうした文学作品と、実際に大学に入ってから狂ったようにロックを聴いた経験から、バンドそのものに反骨精神が備わっていると感じる。一直線で、言いたいことは言い、坦率で率直、世俗や社会に染まらない激情だ。
最近のHip-hop界隈でよく使われる言葉で言えば「keep it real」。

そして面白いことに、ゆずのこのゲームではこの「率直」な魂がはっきり感じられる。特に金髪の月望と白髪の美玖のシナリオ。月望はお嬢様で、反発心を持ちながら母にピアノを強いられ、バンドにあこがれる。普通なら家庭内で大衝突、最悪喧嘩別れとなるところだ。でも彼女はいつも冷静にこれらの問題を処理し、母に正面からぶつかるでもなく、多くを語るでもない。バンドはやるべき時にやり、自分がやりたいことを淡々と実行する。もう一つはバンドが曲を作る際に「バッティング」し、ネット世論に「パクリ」と誤解された時の月望の見方も興味深い。彼女は主人公に本当にパクったのかと問い、主人公はパクリではなく偶然の一致で、相手が先に発表し自分が後に出したからパクリに見えるだけだと答える。他のメンバーは誤解を避けるため曲を下架しようと一致する。ただ一人月望だけが反対する。パクリなどしていないのに、なぜ後ろめたいのか、なぜ下架するのか。一曲は心血そのもの、下架して自分の努力に報いると言えるのか。柔らかく見えて内面は非常に強く、多くの不条理に直接対抗できる。さらに感心するのはその対抗の仕方が実に現実的で、無能な怒りに走ることは決してない。正直、この人設には心底やられた。
白髪の美玖の人設は独立を保ち、自分に能力があれば向上を望み、人の良さも大胆に評価し、自ら責任を引き受ける。内面も十分に強い。もはや「新世紀の優秀な女性」の標準装備で、「男がいないと生きていけない」従来の二次元ヒロイン像を完全に飛び越えている。前にMoreの一部の抜きゲーを除いて、ギャルゲーでこれほど「内心の強い」ヒロインを見たことがほぼない。

他のサブキャラはギャルゲーの伝統に戻る。莉莉子はお色気要員で、真のC位ヒロイン恵凪のシナリオも非常にベタで、ロックバンドへのステレオタイプに満ちている。杏珠の物語は実に良く書けているが、それはどちらかといえば文章力だろう。大量のモノローグで情感豊かなキャラを造形していて、従来のようにセリフで萌えを売るタイプではない。この文章力は正直ギャルゲーという媒体ではほぼ見たことがなく、ルクルが手がけた物語でわずかに見た程度。ギャルゲーでここまで書く勇気は、一つの突破と言える。
もちろん今回のゆずにも欠点はあり、むしろ明白だ。「少女バンド」を看板に掲げるゲームなのに、音楽のレベルがお粗末すぎる。同時期の「Ready to rock」「KillKISS」級のガールズバンド曲に比べ、ゆず本作のゲーム内楽曲はRGBの一曲を除けば似たようなもので、他は本当に精彩を欠く。作曲は非常に定型的で、編曲もやたら単純。ゆずが自分の音楽がダメだと分かっているのか分からないが、むしろ自信満々に感じられ、宣伝では従来の「キャラソン」路線を外してバンド曲集を一枚出している。おそらく「リアルライブ」への懸念があるのだろう。曲が複雑すぎると、出演予定の声優がついていけないと踏んだのか。ゆずはソニーでもバンダイナムコでもブシロードでもなく、そんな人材を育てるリソースはない。

でもさ……本作ってBambooを呼んでるじゃん? なんで楽器の作画指導だけ参加させて、一曲くらい書かせないの?
繰り返すが、今のところ『ライムライト・レモネードジャム』は今年最高のギャルゲーだろう。年度作品と先取りして言ってもいい(この界隈にTGAはないけど)。システムの完成度、シナリオの深さと表現、制作面を見ても、音楽が抜きん出ていなくても聞くに堪えないレベルではなく、制作には多くの工夫が見える。キャラ名すら日本の「富嶽三十六景」から来ているし、ゲームはストーリーの時間軸を一年に広げ、各メインヒロインに少なくとも9セットの独立した衣装を描き、眼鏡キャラに至っては32セットにも及ぶ。この投入はソシャゲより激しいだろ。これだけ丁寧なゲームなら、ゆずは間違いなく首位だ。

最後に個人的な感想を。日本の二次元の「少女バンド」ものが精神病と大混乱へ向かう傾向の中、ゆずの今回の『ライムライト・レモネードジャム』はむしろ非常に安心できてポジティブだ。バンド結成にありがちな悪い要素にはほぼ一切触れず、その長所だけを残している。激情、青春、奮闘、そして商業的成功を得ても自分を失わず、最後は卒業の瞬間に美しい思い出を残す。もし主人公とヒロインの「レモネード製造所」バンド結成後に無数の可能性があったなら、ゆずはその中で最も完璧な世界線を選び、目の前に差し出した。理想化しすぎだと言うこともできる。現実にバンドを組めば絶対に喧嘩するし、最悪分裂する。でもこれはゲームだ。プレイ後に生き続ける勇気をもらえるなら、それは良いことだ。毎日祥子を理解し、祥子になり、祥子を超えるわけにはいかないだろ? そうなったら、我々の社会(咽び泣き)はどうなってしまうんだ……

そうそう、ゲーム冒頭で主人公がベーシストだと分かった時から、あの古典的な「ベースジョーク」をずっと待っていたのに、待けども待けどもゲーム内にはほぼ出てこない。ヒロインが「ベースも大事だよ」と一言言うくらい。一時期は「この脚本家たちはネタを分かってない、振られても拾えないのか」と思った。でも中盤以降、最後のバンドのライブまで、CGに主人公の姿はほぼなく、単独リリースのゲーム内曲集でもベースの音はほとんど聞こえず、バンドメンバーからは主人公が追放されてもいる……ここでようやく気づいた。ギャルゲーの主人公であり、ゲーム内バンドのベーシストであること自体が、空気のような取るに足らない存在なのだ。これこそゆずが届けた、より高度でより暗喩的な「ベースジョーク」なのかもしれない。
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