Omarchyをちょっと触ってみた
最近いちばん話題のLinuxディストリビューションといえば、やっぱりRuby on Railsの作者DHHが自ら手がけたOmarchyだろう。
名前を見れば分かる通り、これはArch Linuxベースのディストリビューションで、同時にOmakase的な「個人の好みに合わせた一皿」の匂いも漂う。作者が自分の好みで一式を組んだもので、こちらはそれを理解して受け入れられるかを試すしかない。体験として共鳴できれば、それはもう最高なわけで……
要するに、この代物は「人を選ぶ」。
ところが、そんな「人を選ぶ」ものが最近めちゃくちゃ勢いがあって、業界のあちこちの大物がこぞって持ち上げ、さらに本物の金の寄付まで集めている。ある会社なんかはFlathubへの寄付をやめてOmarchyに投げてる始末。ユーザーもどんどん増えていて、使った人はみんなカルトにでも入ったかのように「Omarchyこそ未来、MacOSを完全に代替できる」なんて暴論を吐く。余計に気になってしまう。見た目はただタイル型デスクトップをプリセットしただけの普通のArch Linuxなのに、なんでMicrosoftを殴ってAppleを蹴り飛ばせるんだ?
というわけで、使っていないマシンを引っ張り出してOmarchyをインストールし、浅く広く味見してみた。

インストールと設定
Omarchyを入れたのは以前も使っていたあの低スペックChromebook、Lenovo Chromebook Flex5だ。まずは構成をおさらいしよう。
| 部品 | 構成 |
|---|---|
| CPU | Intel Celeron 6305 |
| RAM | 4GB |
| SSD | 256GB NVME |
| Screen | 1080P with touchscreen |
まあ見るからに貧弱である。特にメモリが極小。
ただ、Omarchyのインストールディスクを作ってしまえば、この低スペックでもインストールは速かった。2分もかからずに終わる。Omarchyはデュアルブート非対応と言われているが、実は自分でパーティションを切れば対応している。少なくとも自分が入れたバージョンは対応していた。とはいえシングルディスクを丸ごと消すのがおすすめで、公式も暗号化を有効にするよう勧めている。
インストールが終わるとシステムは紫を基調としていて、インターフェースは非常に簡潔。デスクトップには何もなく、上部バーがあるだけ。

インストール中に強く印象に残ったのはアートデザインだ。そう、このシステムのデザインは非常に「ギーク」、いや……「ハッカー」的。文字のアニメーションがどれもかっこよくてシブい。しかもそのかっこよさはエフェクトの積み重ねではなく、確かな設計と美意識に基づいている。まだインストールが終わってシステムに入ってもいないのに、デザイン性の点だけでもOmarchyには十分goodをあげたくなる。
システムの基本操作
システムに入ると、OmarchyはWiFi、アップデート、さらには……AI Agentのアカウントまで、いくつかの基本設定を尋ねてくる。
ここで触れておきたいのが、Omarchyは自らを「AI駆動」システムと称していて、主要なAI Agentのサポートを内蔵していること。AIにシステム管理を手伝わせることができる。もちろん自分にはまだその気はないし、いわゆるAI Agentにログインしなくてもシステムの使用には影響しない。
デスクトップに入ったら、そこからこのシステムの操作方法に慣れていくしかない。タイル型デスクトップを使ったことがある人ならすぐ馴染めるかもしれないが、もともとタイル型が好きではない自分としては、鼻をつまみながら使うしかない。
ただOmarchyにはクイックマニュアルが用意されている。Super+スペース(SuperはWinキー)を押せばメニューが素早く開き、中のLearnを探せばシステムのショートカットをすぐ学べる。

タイル型デスクトップに従来のランチャーなんてものはない。コマンドを手動で入力して素早く起動するか、このSuper+スペースのメニューから自分で探すか。メニューにはプリセットのアプリもあるが、面白いのはプリインストールではないこと。選ぶと自動的にFootターミナルエミュレータが開いてインストールが始まる。
ポップアップするウィンドウの管理もショートカットで操作する必要がある。コアな組み合わせキーはほとんどがSuper始まりで、全画面、分割、複数ワークスペースの分割など、それなりの学習コストがかかる。
システム設定にはほとんどGUIがなく、設定ファイルを直接開いてエディタで自分で調整する。かなり不親切に見える。ソフトウェアパッケージの更新もArch Linuxと同じで、Archlinuxcnのミラーに変えることもできるし、AURなんかも使える。基本はArchと同じ道筋だ。ただOmarchyは「ノートPCユーザー」が使いそうな小機能をかなり統合している。電力切り替え、音量、スクリーンショット、画面録画、ダークモード、通知、天気などなど。
だから……このOmarchyは、タイル型デスクトップ管理をプリセットした美化版Arch Linuxに見える? ある意味その通りだ。
いわゆる「簡単な設定」
OmarchyがAppleに匹敵すると持ち上げる記事の多くは、このシステムの設定が簡単だと言う。しかし自分の体験からすると、カスタマイズは全然簡単じゃない。むしろかなりハードコアだ。新人が全員vimみたいな画面を開いてシステムパラメータを調整できるとは思わない。上部のタイトルバーに簡単なフォントや輝度の調整はあるが、あれだけでは足りなすぎる。たとえば自分はタッチパッドの「ナチュラルスクロール」を使いたいのに、Omarchyのデフォルトは普通のスクロールだ(スクロール方向すら一致しないのにMacOSに対標するとか言うなよ)。どう設定するのかしばらく分からなかった。

その後、Omarchyを好みの形に素早く設定する方法を紹介する動画を見るまで分からなかった。その方法は意外なようで、当然でもあった……
そう、AI Agentを使うのだ。これがOmarchyが最初からAI Agentアカウントへのログインをしつこく求める理由。これはAIに操作・管理されるシステムなのだ。設定を変えたい、マルチタッチスワイプの操作を変えたい、そう思ったら自分で設定ファイルをいじる必要はない。AIに伝えれば自動で直してくれる。
確かに速いし便利だし、バカでも使える。まさに本物の「TNT」感がある。何かのソフトを入れたい、フォントを変えたい、なんてのも全部AIに任せられる。なにせシステム設定はすべて設定ファイルで動いているから、AIは素早く理解して書き換えられる。
これがOmarchyのイノベーションだと言うなら……確かに驚かされる。従来のOSに慣れた人が、突然こんな「人の言葉が分かる」Omarchyに触れたら、「ヤバい」と叫びたくなるのも無理はない。
でもね、友よ。代償は?
代償は、AIアカウントのAPIにお金を払う必要があること。だが2026年だぞ、Tokenの山を持っていない開発者なんているか? AIを使わないやつがいるか? だからその層にとっては、この体験は確かに滑らかだ。中国のユーザーが国内AIモデルのAPI接続を提供していて、Deepseekの太った魚で自分のPCを操作することもできる。
しかしシステムの主導権をAIに渡したくない自分みたいなユーザーにとって、このシステムは使っていてかなり苦痛だ。スクロール方法ひとつ変えるのに設定ファイルを編集しないといけない。システム全体にGUIがほぼなく、マウスとタッチパッドがむしろ余計にすら思える。もともとタイル型デスクトップを使っているNerdはみんなこんなふうにPCを使っているのか? 少なくとも自分は無理だ。ドキュメントをひたすら見比べながら、ターミナルで中国語サポート、中国語フォント、Fcitx5などをインストールした。正直なところ、これはArchをベースにタイル型デスクトップをデフォルトにした派生ディストリビューションにすぎず、他の部分は普通のLinuxと何も変わらない。ウィンドウ管理だけSuperの組み合わせキーを覚える必要がある……
ハードウェア互換性
続いてハードウェア互換性について。Omarchyは標準的なArch Linux派生ディストリビューションだが(最初はUbuntuベースだったとも聞くが、もう昔の話すぎて触れない)、最新版のアップデートでOmarchyは独自カーネルを使い始めるらしい。彼らは専用カーネルがすごいと謳っている。
The Omarchy kernel is tuned to keep the desktop responsive and multitasking smooth, even under heavy load or memory pressure. It improves gaming compatibility, enables smoother gaming on supported AMD HDMI displays, speeds up common Btrfs file operations, and refines power management. It also fixes everyday hardware frustrations, including missing audio, unresponsive touchpads, display freezes, and slow startup or resume on affected machines.
ただ自分から見れば、サードパーティのパッチをいくつか当てただけじゃないかと思う。特にMacユーザー向けに最適化されているし、CachyOSのカーネルより攻めているかはまだ様子見だ。
Omarchyのハードウェア互換性は正直普通だ。たとえば自分のChromebookのタッチスクリーンは使えない(システム自体が非対応なのかドライバの問題なのか分からない)。システムにはHibernate機能が搭載されているのに、これも使えない。OmarchyはLinuxでSecure bootを有効にすると休止できない大問題を解決したのかと思ったのに?
ハードウェアサポートはLinux自体の恩恵にあずかっているだけで、互換性が特に優れているわけではない。ただDHHはOmarchyのターゲット層(たとえばMac Boi)向けに意図的に最適化して、性能が良く互換性も素晴らしいという印象を与えているのかもしれない。しかもOmarchyはCachyOSと同じく攻めの「スナップショット起動」を採用していて、システムレベルの自動リストアを実現し、システムが非常に安定していると感じさせる。
性能最適化と言うなら、Omarchyはもともとデスクトップが十分に簡素で負荷も小さいから、速いのは当然だと思う。それに……これを使うのはプログラマーが大半で、本気でゲームをやる人なんていないだろ? SteamのProton問題に遭遇したら、AI Agentに委託して解決できるのか?
なぜ好評なのか
ここまで見てきて、Omarchyはタイル型デスクトップとAI Agentサポート、そしてスナップショットと暗号化を一通りプリセットしたArch Linux派生ディストリビューションで、他に何も違わないと思う。このタイル型デスクトップを自分で消してGnomeとGDMに替えられるのか疑問だが、理論上は可能だろう。ただ自分はやらなかった。
しかもOmarchyが誇るタイル操作は、他のモダンなデスクトップでも自分で設定すれば実現できる。Gnome-shellにはプラグインがあり、KDEにもショートカット設定がある。Windows 11にだってPowertoyがある。本当にショートカットでデスクトップと複数仮想デスクトップを操作したいなら、Omarchyを入れなくても自分で設定すればいいし、学習も少なくて済む。ちなみにGnome-shell自体が複数の仮想デスクトップショートカット操作をサポートしていて、Omarchyのショートカットと一一対応させることすらできる。その気になればGUIをクリックせずショートカットで操作して同じ効率、いやもしかしたらそれ以上を得られる。AI Agentだって実は他のディストリビューションでも使える。特に設定ファイルで変更するDEならなおさらだ。

では、なぜこんな「そこそこ」に見えるディストリビューションがこれほど騒がれているのか? 自分の考えでは、ネット上で最も声の大きい層の痛点を正確に突いているからだ。たとえば普段Appleを使っているユーザー層、そして普段からAIを鼓吹し、AIに全賭けし、AIを追いかけるネットの「脳アップグレード人」たち。彼らはハードコアユーザーでもなければ、手間をかける精力もないが、先進的で前衛的で「クール」なものが好きだ。OmarchyのようなAIと深く結びつき、アートデザインが際立つOSは、彼らに新大陸を発見したかのように「ヤバい」と叫ばせやすい。しかしよく見ると、この連中は適当に古いPCを見つけて入れてみただけですぐ持ち上げ始める。「Android毎日観察」を書く人たちと同じで、Appleはやっぱり彼らの生活なのだ。こんなハードコアなシステムは誰にでも合うわけじゃない。
皮肉なことに、AI Agentをシステムに統合するのはMicrosoftがとっくにやりたがっていたし、Appleも推進しようとしている。しかし彼らがAIと叫ぶたびに膨大な罵声を浴びる。逆にOmarchyのように本当にシステム設定をAIに丸投げする代物は、AIで修正しないと逆にめんどくさすぎるのに、褒められまくって未来だの何だのと言われ、MicrosoftとAppleを倒せるとまで言われる。本当に面白い。
誰がOmarchyに向いているか
流行に乗って持ち上げる連中を除けば、Omarchyが本当に向いているのは大体いくつかのタイプだ。まずは心から「タイル型デスクトップ」が好きで、でも自分で設定・調整するのは面倒な人。Omarchyは英語環境での「箱を開けたらすぐ使える」をほぼ実現している。自分で一式組むとダサいことこの上なく、半日も弄らないと使えないかもしれないが、Omarchyは2分で使い始められる。
もう一つは全キーボード操作のCLIプログラマー。複数のCLIでプログラミングする操作はOmarchy下では確かに効率が高い。内蔵のAI AgentもVibecodingには加点要素で、素早く作業して時間を節約できるのが最大の強み。おまけにスナップショットバックアップがあるから、PCがアップデートで壊れてもいつでもロールバックできる。手間をかけたくない人にとって、これが最大の「安定」だ。
そしてOmarchyの「美学」が好きな人。冗談じゃなく、Omarchyの配色一式と壁紙、さらにはスクリーンセーバーまでもがオシャレ指数MAXで、今の先端的美意識にも合っている。ちょっとしたヴェイパーウェイヴ風で、コーヒーを一杯、Lo-FiなBGMを流せば、手元のPCが魔法に満ちているようにすぐ感じられる。

普通のLinux日常メインユーザーとして、自分はOmarchyを使わないだろう。でもなぜ流行るのか、なぜネットで声が大きいのかは理解できる。正直に言えばOmarchy自体に魔法はなく、ただのインテグレーターだ。最も独特なのは配色と壁紙くらい。理論上、本当の意味での普及や大衆化は無理だし、Appleを殺すなんて論外。GUI中心の今、純キーボード操作を広めるのは本質的に歴史の逆行だ。そして誇るAI Agentは他のところもやっているし、しかもGUI付きで出しているから、お前よりずっと使いやすい。たとえばOmarchyを持ち上げつつ、狂ったようにOmarchyのVibeプラグインを入れて、最後にはDockやサイドバーやウィンドウを追加して、無理やりKDEの姿に変えてしまう人をよく見る。これもタイル型デスクトップが万人向けではないことを裏側から示している。
もちろん、Omarchyが大量の資金調達を得た後、自分たちが開発したコア最適化、たとえば本物の休止の実現やWayland下の性能最適化などを上流に還元する気になれば、「嘉豪」印象から抜け出せるかもしれない。
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