『天ノ空レトロスペクト』レビュー
童話が好きだって人は、俺以外にもいるんだろうか。
童話ってのは当然、子ども向けの話だ。もう子どもじゃないのに、それでも子ども向けの話に憧れてしまう……
遠い昔の伝説、空の神様、王子とお姫様、森と木漏れ日、それから可愛い胸ぺったんの細っこい体をぎゅっと抱きしめたくなるツインテールの女の子……
だから俺は童話風の話が好きだ。ギャルゲーもそう。もちろんこれはロリコンとは関係ない。本当に関係ない。マジで関係ない。

天ノ空レトロスペクトを作ったのは、『お兄ちゃん、右手の使用を禁止します』の会社の子会社 GLace 。だからこのゲームには右手禁止の絵柄がちょっと入ってる。同じスタッフが参加してるからな。シナリオは童話風の路線で、音楽も絵もそう。童話風とはいっても学園の縁は残ってるけど、普通の学園ものよりは違う。少なくとも始まり方は。
体験版はだいぶ前にやった。だから製品版が出た時、俺はまだサクラの詩を狂ったようにやってて、このゲームをやる時間なんてなかった。全部終わってから開いたら、序盤のシナリオをけっこう忘れてた。設定は辛うじて覚えてたけど、後半に「まとめ」的な語りがないから、細かいところがはっきりしないまま進んでしまった。
それでも、このゲームの光る点ははっきりしてる。欠点も同じくらいはっきりしてる。
最大の長所は冒頭だ。「世界は猿が作った」という理論をいきなり出して、偶然の出来事や会話の中に時々出てくる「猿」という言葉で、シナリオをこの「世界は猿が作った」理論を中心にうまくつないでいく。ちょっと映画っぽい……(中国の賀歳映画みたいな)。
で、この「世界は猿が作った」理論はデタラメなのか? 実はそうでもない。面白い理論が元になってる。「無限猿定理」だ。この実験は「猿とタイプライター」実験とも呼ばれて、1920年代初頭にフランスの数学者ボレルが提唱した。ボレルはこう考えた。無限の猿が無限のタイプライターでランダムに打ち続け、無限の時間が経てば、いつか必ずシェイクスピアの『ハムレット』どころか全著作を打ち出すはずだ、と。
Wikipedia のこの定理の説明はこうだ。
「猿を一匹タイプライターの前に座らせてランダムにキーを押させ続け、押す時間が無限になれば、ほぼ必然的に任意の与えられた文字列、たとえばシェイクスピアの全著作を打ち出すことができる。」
要するに、世界には無限の可能性があって、確率がどれだけ小さくても、望む可能性は必ず存在するってことだ。だから猿がタイプライターを滅茶苦茶に叩いていても、いつか一匹は名作を打ち出す……
でも考えるとやっぱりバカバカしい。俺だけじゃなく、そう思う人はいる……
この実験の本意は、無限の時間と無限の人数がいれば、何でも生まれうるということだ。実験のおかげで猿は有名になった。2003年にはイギリスの動物園の科学者たちが、有名になった猿たちを引っ張り出して、現実では再現できないこの定理を「実験」しようとした――コンピューターとキーボードが霊長類の園舎に置かれた。残念ながら猿たちは協力せず、十四行詩なんて打たず、「S」ばかりの文字列を打ち出した。「退屈」した数学者が計算したところ、猿に最初の十四行詩を打たせるには少なくとも2000億年かかる。宇宙の寿命は150億年しかない。よし、これで猿界の『ハムレット』は俺の有限の人生では絶対見られない。2000億年も待って猿が無限に「S」を打つのを見て吐く必要もない。 —-『猿とタイプライター』(新民晩報、馬丹)
まあバカバカしいとはいえ、これはゲームだ。だから「世界は猿が作った」理論に引っ張られて、主人公と学校の「清掃部」の仲間たちは、観星台の屋上から秘密のエレベーターコードで不思議な図書館に入る。天ノ空思い出図書館だ。そこで初めて分かる。世界には本当に神様がいて、神様は世界を本を媒体にして管理している。本にはこの街のあれこれが、すべての出来事と記憶が記録されている。
図書館を管理する神様はアマホシと名乗る。神様とはいっても「この街」の土地神にすぎない。その土地神ロリのアマホシは、過去の記憶がないと言う。それどころか今、図書館にある街の記憶を記した封印された本がいくつも逃げ出して、人間界に走り、人間に憑りついたり、独立して精になったりしている。だから主人公と清掃部の仲間たちで取り戻してほしい――物語はこうして始まる。

珍しくルートロックがない。ルートは4本。幼馴染のひまり、学校の謎の先輩・深澄、後輩のしのん、そして最後に土地神アマホシ。選択肢は一つだけで、祭りで誰を探しに行くかで攻略対象が決まる。このゲーム、友好的すぎて信じられない。俺もかなり戸惑った。普通なら少なくともアマホシにはロックをかけるだろ。なのにない……oh……だから強迫観念で、アマホシのルートは最後にやった。
アマホシと深澄のルート以外は本筋とほぼ関係ない。ひまりは幼馴染で、自分から主人公に告白する。でも卒業したくないという願いを心に抱える。卒業すれば主人公と離れ離れになるからだ。だからどこかの名もなき土地神がその願いに応えて、時間が進まなくなる。最後は問題が解決して、二人は卒業する。
しのんルートも主人公に急に告白する(くそ、主人公が憎い)。その後しのんが私心を抱き、不運にも名もなき土地神に応えられて、街がめちゃくちゃになる。最後は問題が解決する。

深澄ルートでも急に告白される(お母さん!)。そして深澄はもう一人の自分が現れたことに気づく。それが前の二つのルートに出てきた名もなき土地神だ。その土地神は深澄に、自分は深澄の体の一部だと言い、深澄と合体してほしいと言う。ついでに主人公にも教える。深澄とミスミという土地神は実は天ノ空図書館から逃げ出した本で、二人に分かれたのは、その本を封印する時に何らかの理由で失敗して分裂したからだ。最後にミスミは深澄に戻って、一緒に「円角」の復活を成し遂げてほしいと言う。「円角」とは、昔この街で歴史研究をしていた哲学者の名前で、お婆ちゃん一人。すでに亡くなっている。
なぜ復活させるのか? このルートは説明がひどく不明瞭で、俺もよく分からなかった。最後まで見ても分からなくなって、結局エンディングだけ見た。結末は当然、深澄がミスミとの協力を断り、独立して存在し、主人公と一緒になる。
最後のルートがアマホシ。そう、また主人公がアマホシに好きだと見抜かれて告白される。告白の速さは光速並み。その後アマホシが過去の記憶がないことに触れ、そこにミスミが再び現れ、アマホシにキーワードを一つ見せる。アマホシは図書館で探し回り、「円角」が残した本を見つける。読んで、アマホシは自分が以前何をしたのかを理解する。

アマホシは昔から天ノ空の街の土地神だった。でもただ規則通りに仕事をこなすだけで、外にも出なかった。ある日、「井空円角」という老哲学者が間違ってこの図書館に入り込み、アマホシと出会う。井空円角はこの村と街が大好きで、いつも街を歩き回ってはすべてを楽しみ、この街の歴史まで書いていた。彼女はアマホシとたくさん話し、友達になった。そしてこの「無限猿理論」を含む多くのことをアマホシに教えた。
井空円角はさらに一つの仮説を出した。「もし世界が一冊一冊の思い出の本で書かれているなら、無限猿理論を使って、世界は実は猿が作ったと証明できるんじゃないか……」
これが冒頭の「世界は猿が作った」の一つの解釈であり理解だ。しかし二人はうまくやっていても、最後にはアマホシは神様で老いない。井空円角はただのお婆ちゃんで、いつか死ぬ。お婆ちゃんは死ぬ前にアマホシに言った。
「この街は私たち老人がずっと守ってきたけれど、結局は未来の若者たちのもの。だからあなた(アマホシ)には、この街をしっかり未来へ導いてほしい」
その後お婆ちゃんは亡くなり、二度とアマホシに会いに来なかった。アマホシはとても寂しくなり、自分は元々神様なのに人間と友達になり、友達が去る時、心がどれほど空しいかに気づく。井空円角が死んだ後、もう一人の土地神ソラミが現れ、アマホシに自分を封印するよう求める(ごめん、なぜ封印なのかどうしても思い出せない)。これは井空円角の願いのためだと言う。最後に封印する時、アマホシは友達のことを思い出して気が散り、封印に失敗。本は二つに分裂して下界に落ち、同時に自分の記憶の一部も封印して外に出してしまい、後にそばにいる小狗(多分?)になった。
これを思い出したアマホシは、自分がこの街をめちゃくちゃにした大失敗の原因だと気づく。図書館を管理する身なのに、たくさんの本をなくし、自分の記憶までなくした。そして主人公と恋愛したことを思い出すと、主人公もいつか老いて死ぬと分かり、その打撃に耐えられず、自分を閉じ込めてしまう。

最後は当然、真実の愛が無敵、口先も無敵。一行は図書館上層の天界へ行き、アマホシを救い出す。同時にソラミの本も回収し、井空円角お婆ちゃんが残した言葉を見つけ、主人公と一緒に未来へ向かうことを決め、この街に奉仕しようとする。ゲーム終了。
何というか、このゲームの最大の見どころは冒頭で「無限猿定理」をつなぐところと、中盤の各種ギャグ。それ以外は中盤から後半がひたすら退屈。長くはないけど退屈。最後の結末は完全に予想通りで、あまりにもお約束。最初はギャグやってたのに、後半突然真面目に「未来のために戦う」感じになって、子ども同士のごっこ遊びみたいだ……

あ……違う。これ自体が童話風のゲームなんだから、子ども同士のごっこ遊びで正常なんだろ……
絵はいい。実は SDCG の方が通常 CG より質が高い。通常 CG よりプロっぽくもある。音楽はメインテーマ方式で、OP と ED のアレンジばかりだ。でも OP と ED 自体がいい曲だから、減点にはならない。
CV はまあ、ひまりは遠野そよぎ、アマホシは小野涼子、しのんは秋野花、残りの深澄は『紙の上の魔法使い』の夜子の CV 。どの人も悪くない。ただ音声の録音音質がちょっと悪い。機材の問題だろうか。
とにかく、このゲームは気楽に脳みそ使わずに遊ぶ小品としてはなかなかいい。ただ不思議なのは、なぜ批評空間の点数がこんなに低いのか。理由の一つに「なぜゲームで『世界は猿が作った』なんてつまらない中二理論を出すのか理解できない……」なんてのもあった。
………………
お前、分かんないならググれよ。 無限猿定理、ちょっと検索すりゃ済むだろ。 無限猿が中二なら、2003年に無限猿を本気でテストした科学者たちは何なんだ? バカか? まったく理解できない。
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