『ソラコイ』レビュー
ソラコイ、空は確かに空っぽで恋だけが残った……
学生の頃、作文でイキりたくて、いつも大ネタを仕込もうとした。最初は淡々と書いて、最後に急展開を入れて読者に驚きを与える、みたいな。
でも普段の作文では先生がそんな機会をくれなかった。「有意義な一日」とか「有意義な出来事」とか「家の掛け時計」とか、そういうお題しか出ない。どれも健全で前向きな内容を書けと要求されるから、道でおばあさんが道路を渡るのを手伝ったら、渡り終わったとたんにそのおばあさんがニヤついてズボンを脱ぎ、実はおじいさんでした、なんて書けないし、家に掛け時計があって、最後に話をひっくり返して実はその掛け時計はバイブでした、なんて書くわけにもいかない。ところがある日の試験で、話題作文が出た。これで超展開のチャンスが来た。お題は「人と人の間の偽善をどう表現するか」だった。
よし書くぞ、と意気込んで、いかにも道徳的な偽善者を書いて、最後にとんでもない展開でその偽善者が実は陰険で悪辣な小人だったとバレる、という筋書きを練り始めたところで、問題に気づいた。
原稿用紙が足りない!
残りが半ページもないところで、ようやく話が動き出すところだった……
しかも試験用紙には書き足せる余白なんてない。あれこれ考えた末、私は結末の展開を圧縮に圧縮を重ね、最後は数行でざっと終わらせた。出来上がった文章は意味不明そのもの。最初は真面目くさった奴が、最後に突然クソ野郎になる。しかもその間の説明はたった一文だけ……
先生は嘲笑うような目で私を見て、次からは勝手にこんなつまらないものを書かないで、もっと議論文を書いたほうが堅実だよ、と慰めるように言った。
先生の言葉づかいはとても婉曲で励ましに満ちていたけれど、その目は明らかに、イキりに失敗した人間に向ける目だった。
もちろん何年も経った今、文章の字数を気にしながら書く必要もない。ただ、あの頃の先生の目と態度を、自分も体験することになるとは思いもしなかった。
ソラコイは新興ブランドChelseasoftが送り出した新作だ。発表時から最大の売りとして押し出されたのは何かと言えば、キャラデザインだった。
宮坂みゆ姉妹の最近の絵はそこそこ人気らしい。絵柄がとても幼くて、しかも最近はごちうさを描くのに夢中で、当然ながら新しいファンもたくさんついた。もちろん宮坂みゆ姉妹はとっくにGalgameの原画をやっているわけで、ソラコイもその本業の延長線上というわけだ。
私がこのゲームをやった理由は、ひとつは宮坂みゆ姉妹の絵柄目当て。もうひとつは設定が少し面白かったから。

主人公には幼馴染のヒカリがいたが、ある日突然、ヒカリとよく似た少女ソラが目の前に現れる。ソラも自分こそが主人公の幼馴染だと言い張る。こうして主人公は、よく似た顔でどちらも自分が幼馴染だと主張する二人の女の子の間に、わけもわからず挟まれてしまい、そこから物語が始まる。
この謎はなかなか面白い。絵柄はヌルゲーっぽい雰囲気を漂わせているけれど、少しは展開しそうな気配もある。だからひとまずゲームを始めたのだが、これが始めてみると大変。まったく耐えられない。何がどうというわけでもなく、とにかく話の展開が…………つまらなすぎる。
正直に言えば、白湯みたいな日常ゲーはたくさん見てきた。でも、白湯でありながらここまで気持ち悪くさせられるのは初めてだ。毎日の話は、幼馴染のヒカリとソラが主人公を引っ張り合って言い争うだけ。
「早く私とデートして!」 「いや! 私とデートして!」 「私は幼馴染よ!」 「いや! 私のほうが!」
正直、ゲームの日常シーンの大半は、この二人が出てくれば会話がこうなる。二人が出てこない話はそう多くないから、共通ルートで見せられるのは、よく似た顔の女の子二人が延々と言い争う姿ばかり。喧嘩は天地を揺るがし、海も枯れる勢いだ。で、突如現れたソラという女の子は何者なのか、ソラとヒカリのどちらが本当の幼馴染なのか、そういう謎に対する説明はあるのか?
ない!

そうして中盤、ようやく本筋らしきものが顔を出す。主人公が自分のハーレムメンバーと恋愛映画を撮ることになり、最終的には学園祭で上映する、という映画撮影の過程が始まる。もちろん撮影中も幼馴染二人は言い争っていて、それを「対決」と称している。日本人には早く「言い争い」という言葉を覚えてほしい。見ていて笑えて仕方ない。話は相変わらずつまらないし、謎は相変わらず誰も気にしない……おっと、物語にはすでに伏線らしきものが出てきている。主人公がしょっちゅう理由もなく疲れて、すぐ寝てしまう、というやつだ。

あ、書き忘れた。主人公は留学の資格を得たとも言っていて、学園祭のあとに留学するらしい。二人の幼馴染はそれを聞いて名残惜しそうにしている。
話は続く。主人公は相変わらず疲れて寝てばかり、幼馴染は言い争いを続ける。そしてついに学園祭。ゲームのタイトルがソラコイだから、私はソラをヒロインに選んだ。ルート選択はごく単純で、告白もしたし、セックスもした。もう終わるはずだ。あのソラという幼馴染がどこから湧いてきたのかも忘れかけていたころ、突然ゲームが強引に回想シーンを差し込んでくる……
回想の内容は、主人公が死にかけていて、ヒカリが病床で手を握り、学園祭で恋愛映画を撮る約束も、留学から帰ったら恋人同士でいようという約束も、何も果たせない、と語るものだった。
そして回想は乱暴に終わり、主人公が撮った映画が学園祭で上映される場面になり、上映が終わるとそのまま乱暴にEDが流れる。正直この時点で私は意味がわからなくなっていた。この場面は何を言いたいんだ?

EDのあと、最後の場面が来る。ヒカリが上映し終わった映写機の前に立ち、自分が愛した主人公が撮った最高の映画だ、でもこの気持ちはもう伝わらない、とひとりごちる。
終わり……
おい、あの時の私の気持ちがわかるか? しばらく呆然として、ようやく何の話だったのか理解した。つまり主人公はとっくに死んでいて、死ぬ前にヒカリと留学して戻ってくる約束をし、映画を撮る約束もしていたのに、どれも果たせなかった。残された幼馴染のヒカリが、ひとりでそれを成し遂げ、映画を学園祭で上映した、という話だ。
つまりゲーム序盤のヒカリだのソラだのは、すべて主人公が脚本を書いた映画の中の話で、現実なんかじゃない。主人公はとっくに死んでいる。ゲーム全体が一本の映画で、それだけのこと。映画の中にだけヒカリとソラという二人の女の子が存在する。
そういえば、と気づく。ゲームのキャラに名字がないのはなぜか、名前が全部カタカナなのはなぜか。現実じゃないからだ。ただの映画の話で、「小光」「小空」みたいな名前で十分。名字なんて必要ない。
全体として見れば、このゲームは悪くないはずなんだ。前半にあれだけ大きな爆弾を隠しておいて、最後にプレイヤーに大きな驚きを与えるはずだった。でもなぜか、結末に来て喜びはなく、驚きだけが残った。
どう言えばいいか、ずっと追いかけていた女の子がずっとそっけなくて、諦めかけたところで向こうから電話がかかってきて、突然ホテルに行こうと言い出し、パンツを脱がせてみたら中から大きなチンポが飛び出してきて、しかもそのチンポが口に突っ込まれて精液をぶっかけられる、みたいな感覚……
いや……この比喩はよくない。忘れてくれ。
つまりこのわけのわからないゲームは、昔私が書いたあの大イキり作文と同じだ。アイデアは悪くない、枠組みも悪くない、でも……とにかくテンポが最悪。しかもこのゲーム、前半は何も言わず、日常はクソほどLowで、最後の2分で慌てて展開するって一体どういうことだ……

とはいえこのゲームから得た知識もある。世界初の吸血鬼映画は1922年制作で、しかもかなり伝説的な色合いがあるらしい。ただ、これはゲーム本編の話とはあまり関係ないよな……
もっと吐血しそうになったのは、11区の住人たちはこのゲームをなかなか高く評価していることだ。口々に感動したと言っている……
まあいい。私は感動しなかった。顔にぶっかけられた感じだ。要するにCGは少ない、音楽はひどい、シナリオは催眠、最後のいわゆる超展開は意味不明……ああ……もういい。とりあえずタオルを探して顔を拭いて、新年を迎えるとするか……
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