『フローラル・フローラブ』レビュー
「あの日、俺は天使を見た……」
Saga Planetsの去年の『花咲ワークスプリング!』(くそ、このカタカナ部分ほんと覚えにくい)については割と好印象だった。「話に大きな欠点はない」「日常会話がめちゃくちゃ面白い」「ヒロインはみんな可愛い」「音楽にも光るものがある」「絵柄も一見の価値あり」で、全方位に短所のないゲームだと思ってた。なのに同社の今年の新作『フローラル・フローラブ』には、最初からどうにも抵抗があった。
なにしろ最初は「お嬢様もの」と聞いて、ちょっと退屈だなと感じた。お嬢様と聞いて思い出すのは音符社のあの感じで、華やかな雰囲気、教養ある女性、主人公は潜入するか、あるいは御曹司として上流社会で贅沢三昧。そういう展開には興味が持てなかった。やがてゲームの正式名が公開され、キャラデザが公開され、設定が公開されて、一気に完全に失望した……
「あの日、俺は天使を見た」
そしてStoryはまたしてもありきたりすぎる展開。名門校でいろんなお嬢様がいて、とりわけメインヒロインはベタベタ感が半端ない。脚本を確認したらゆずソフト常連の籐太ときた。もうこのゲームは無視しようかとも思った……
その後OP Movieが公開された。正直に言って、OPは『花咲ワークスプリング!』と比べると数桁レベルで差がある。多くの娘を見ても特に何も感じない。濃厚な廃萌の匂い、しかも最もシンプルで乱暴な廃萌だ。
それでもSaga Planetsを諦めたくないなと思い直して、体験版をやってみたら、中にはなかなか材料があった。宗教に関する描写も少なくない。そこでふと気づいた。体験版で大活躍しているのは、あの見るからにベタベタでバカ丸出しのヒロインではなく、異国の王女あ~ちゃん(アーちゃん)だった。他のキャラは、予想通りバカに見える。

「製品版でこの宗教と王女の題材を掘り下げてくれれば、このゲームはまだ救いがあるかもしれない」
そう考えて製品版をプレイした。しかも「王女√を一本だけやって終わり」のつもりで。他のキャラにはまったく興味がないし、その人にも見せ場はなさそうだったから。
ところがどうだ。最終的には止まらなくなり、王女√をやり、他のキャラの√も全部やり、最後には夜更かししてTRUE ENDまで走り切った。
そしてプレイ中のこのゲームへの評価はまるでジェットコースター。低から高へ、高から低へ、そしてまた低から高へ……これほど刺激的な感想を抱かせ、自分で自分の顔を何度も引っぱたきたくなるゲームは初めてだ。ISLANDもそうだったっちゃそうだが、あれは脚本家がわざとテクニックを見せているのであって、このゲームとはタイプが違う。
『フローラル・フローラブ』のメインストーリーは大きく五つの部分に分けられる。まずOP前の共通線、OP後の共通線、他のヒロイン個人√、メインヒロイン夏乃の個人√、そして最後の妹・莉玖の√だ。メインヒロインに比べると、他の個人√はメインストーリーの端っこに触れるだけで、細部の説明をいくつか与えてくれるが、詳しくはない。
ゲームには√ロックがあり、すべての個人√を解放しないと最後のGrand End、莉玖の√は開かない。前作のあの意味不明な√ロックとは違い、今作の√ロックには意味がある。まあ理解はできる。
共通線:OP前
OP前の共通線は主に、転校してきた王女の護衛をめぐる話だ。王女アーデルハイト・フォン・ベルクシュトラーセ(くそ、この長い名前は王女自身も覚えられず、自分をアーちゃんと呼んでいる)はヨーロッパの宗教小国の第三王女で、突如として主人公の通う学校に留学してくる。この学校には教会があり、教会にはシスターなんかもいる。主人公は教会のために働いている。教会が言うには、王女が日本に留学してきた目的は謎だが、王女の本国はあまり穏やかではない。王女の本国には宗教派閥の争いがあり、「根本主義者」(中国語では「原理主義者」と呼ぶらしいが、要は過激派と理解してくれ)が王女を襲おうとしている。誘拐や殺害の可能性もある。日本に来た王女の安全は脅かされており、主人公に協力してほしい。学校の中に「悪意を隠している者」がいないか見極めてくれ、と。

ここで主人公の特殊能力の話になる。主人公は眼鏡を外すと、その人間に悪意があるかどうかが見える。悪意があればその人の背後に黒い羽が落ち、なければ白い羽が落ちる。主人公の特殊能力は生まれつきではない。本人の回想によれば、子供の頃に大火事を経験し、「利成」という人物に救われ、その後この能力を得たらしい。そしてその「利成」は自分を救うために死んだはずで、主人公はずっと負い目を感じている。あの大火事の後、主人公の両親に関する記憶もなくなった。おそらく死んだのだろう。残された主人公は一人になり、利成の父親に引き取られた。ちなみに利成の父親・柳蔵は、お嬢様である夏乃の家の執事だ。主人公の住む場所には、自分を妹だと名乗る斉須莉玖がいる。こいつは主人公曰く「内弁慶」で、他人が来ると隠れ、主人公一人のときだけ飛び出してくる。

で、この部分の話はどうかというと、主人公が王女の周りの怪しい人物に気づくところから始まり、あちこち注意を払い、突然日本に来てこの学園に近づく外国人たちを調査し、暗に王女を守ろうとする。だが王女はそんなことにはあまり頓着せず、どこか無関心な態度で、しかも面倒くさがる。同時に主人公は、王女が誰かを探していることに気づく。探している人が見つからず、少しがっかりしている。王女の母親は日本人で、子供の頃に日本に戻って住んでいたこともあると聞く。探している人はそれと関係があるのかもしれないが、深くは追及しなかった。
主人公は王女の過去を調べ始め、王女が子供の頃に日本に来ていたこと、そしてその住んでいた場所が自分にも馴染みのある、かつて自分が大火事に遭ったあのアパートだということを知る。しかも王女が探している人は、あの「利成」、そう、主人公を救って死んだ男性らしい。
OP前の最後で、王女の安全問題はついに爆発する。過激派が王女を誘拐しようとし、しかも間違えて夏乃を誘拐してしまい、最終的には主人公の一発の投げナイフで片づく(ゲームだからこの程度の低レベルなテロは許してやろう)。王女の安全も確保され、王女は索性、国の王位継承権を放棄すると宣言する。

つまりこの部分は簡単な護衛の話で、主人公に能力があること、王女の安全が脅かされていること、王女には日本に来た理由があり、自分の国の栄華もあまり欲しがっていないことをプレイヤーに伝え、最後に問題が爆発して主人公が解決する。他のヒロインたちはまったく空気同然で、日常もそれほど面白くない。夏乃とナナオの会話はあまりにテンプレすぎる……ギャルゲーをやり込むと、あまりに嘘くさくてうんざりするだけだ。こはねの部分も普通の教会の女の子という感じで、清水愛のあのシスター……大きな胸を晒して罪を償わせるって、この人設は問題ないのか?
共通線:OP後
OPが終わった後、私はてっきり教会と王女の争いが続くのかと思ったら、話はどんどん方向転換していった。誰に? 主人公に、だ。
ある日、主人公は道でナナオの父親、音楽プロデューサーの沢城唯道を見かける。そこで突然思い出す。この男は自分の父親だ。なぜ思い出せたかというと、主人公があの大火事で記憶を失った後も残っていた家族の写真があり、父親の姿はまさにこの男だった。

家に帰ってまた家族の写真を見返し、父親を見つけ、母親を見つけ、写真の中の二人の姿を見て、主人公は愕然とする。自分は父親にも母親にも似ていない……
「うわ、俺、両親のどちらにも似てないぞ。どこから来たんだ? 隣の旦那の子か?」
主人公は調査を始める。自分の身の上についての調査だ。過去のあの大火事の情報がすべて消されていることに気づく。新聞も、ネットも。主人公は王女に調査を頼み、王女はあの火事の情報を探し当てたと言う。ただし王女は、自分が協力する主な理由は「利成」があの火事に関係しているからだと告げ、資料はすぐ届くと伝える……
ところが突然、資料が持ち去られたという知らせが入る……見つかった資料は途中で奪われてしまった。主人公は誰かが暗に自分が真実に触れるのを妨げていると気づく。

「それができるのは、おそらく教会だけだ」
主人公は直接教会へ行きシスターを問い詰める。眼鏡を外し、シスターを見て、何を知っていて何を知らないのか尋ねる。同時に背後に黒い羽が落ちるか白い羽が落ちるか観察する……このときの主人公は能力の使い方がもう氾濫状態で、誰も信じていない。教会の人間も、お嬢様の夏乃も、誰であれ。

シスターは震えながら、少しは知っている……でも言えない、と答える。主人公は白い羽を見る。
シスターは、隠すつもりはなかった……と言う。主人公は黒い羽を見る。
主人公はシスターが嘘をついているかわかると言い、それに乗じて脅す。シスターは仕方なく、いくつかの事実を打ち明ける。実は主人公の両親はある自然災害で亡くなり、主人公自身は孤児だった。その後、音楽プロデューサー沢城唯道の家庭に引き取られたが、引き取られた後の暮らしはあまり良いものではなかったらしい。沢城唯道はしょっちゅう家にいなかったし、主人公の母親も後に自殺した(すみません、なぜ自殺したのか今もわからない。どこか読み飛ばしたかも)。主人公はいつも満足に食べられず、腹ペコで死にそうな状態で、完全に捨てられた状態だった。食べたい、生きたい、でも部屋の中でしょっちゅうネズミと目が合う。地獄のような暮らしだったはずだ。そして養母が死んだ後、主人公は唯一の養父にも完全に捨てられた……その後、教会に引き取られ、さらに後にあの火事が起きた。斉須柳蔵の息子・斉須利成が主人公を救うために死に、主人公は夏乃の家の執事・斉須柳蔵の息子として迎えられた。

(自分の日本語力のなさをツッコマざるを得ない。この段落、使役形や受身形や過去形が混ざり合い、さらに各種の省略もあって、誰が誰に何をさせ、誰が誰に何をされ、誰が誰に何をさせられて誰が誰に何をさせられたのか、読んでいて目が回った。最後は動詞と文脈から意味を推測するしかなかった。)

真実を知った主人公はひどく怒り、あの元養父に会って話をつけようとする……しかし相手は車椅子でしか移動できない障害者になっていて、しかも再婚してナナオという娘までいる。主人公も怒りが湧かなくなる……
障害のある老人を憎む必要なんてあるのか。しかも相手は自分の同級生の父親だ。

最後に主人公は、裏で隠されていたすべてのことを知る。すべては夏乃が家の権力と老執事たちを動かし、教会の人間と組んでやったことだった。目的は、主人公が嫌なことを思い出し、盲目的に憎しむのを恐れたから。
この考えはちょっと無茶だが、まあ受け入れられる……なにしろこの段落で夏乃の家の資産がえげつないと散々言っていたし。そしてこの部分の描写が共通線の最後になる。最初はかなり暗くて、とくに主人公が「何を調べても『接続がリセットされました』」のときは、敏感な情報に触れてお茶の誘いでも来たら完璧だった……でも最後の展開は妙に平坦で、ただ一群が主人公のために良かれと思ってやったというだけでは、やや牽強付会な感はある。だがそこまで求めるのは酷だ。まだ後の内容があるのだから。

この時点で物語は一人のキーパーソンを引き出している。主人公を救った「利成」だ。この「利成」という人物の輪郭が、ここにきてようやくはっきりしてくる。シスターは言っていた。人の白い羽と黒い羽が見える能力を持つ者は以前にも一人いた、それが「斉須利成」だ、と。そして斉須利成は以前、歌手だったらしい。ロック歌手だ。面白いことに、このロック歌手はオーディションや試音会のようなものにも参加していて、そこにいた審査員の一人が主人公の前の養父、音楽プロデューサーの沢城唯道だった。沢城唯道は利成に申し訳ないと言う。利成の音楽は良いと思ったのに、自分は機会を与えなかった……ずっと続けてほしいと願っていたのに、利成はあっけなく死んでしまった。
つまり王女は「斉須利成」を探しており、主人公の養父も「斉須利成」を知っており、「斉須利成」は夏乃の家の執事の息子で、「斉須利成」は主人公を救った……どうやらすべてが彼と関連している。もしかすると「斉須利成」はSaga Planetsの前作にいたあの「不知火飛鳥」のように、半ば主人公になるのかもしれない。
その後はいよいよ個人√の選択だ……
全√クリア後、全体を振り返って、個人的なおすすめ順はこうだ。
王女 → 椿姫こはね → 碧衣愁 → 朱鷺坂七緒 → 美鳩夏乃 → 斉須莉玖
ではこの順で各√について語ろう。
王女アーデルハイト
王女√はOP後すぐに飛べる。主人公が自分の過去の黒歴史を調べるのを見なくてもいい。つまりこの√は実はメインストーリーと最も関係が薄いということでもある。くそ、このゲームは王女が中心だと思ってたのに、違ったのか……

王女√は実にシンプル、でも長い……長い……長い長い長い……王女が自分の国の継承権を放棄すると決めてから、まず日本に残って学校に通うことにしたが、ずっとだらだらと日々を過ごしている。主人公が投げナイフでハイジャック犯を倒す瞬間を目撃した王女は、主人公はNinjaだと思う……ええ、忍者。日本製のゲームなのに、忍者を語るのに漢字を使わず、わざわざカタカナでニンジャと書くのはなぜか、ツッコみたい。それにカッコいいと感じ、主人公に引き続き自分のボディーガード兼付き人をやらせる。そこから長い「怠惰な王女お嬢様との日常」が始まる。基本はコメディで、実は結構面白い。前作『花咲ワークスプリング!』の日常の楽しさとほぼ同じだが、このゲームではずっとそれをやっていて本筋の終わりが見えないと少し焦る。私はずっと王女が本筋だと思っていたし、最初から王女√に直行していたから……

王女√の最後、王女は自分を守ってくれる騎士が欲しいと言い出す。でなければ国に帰って政略結婚を受けなければならない、と。要するに主人公に告白を促し、最終的には王女が主人公に無理やりキスをして、やっと主人公が木偶のようにこの申し出を受け入れる。王女は大喜びで、主人公に騎士の爵位を授け、自分の夫にすると言う。この行動が王女の国内でさまざまな反対を引き起こす。最後は当然、王女が過激派の脅威に耐え、教会で叙勲式を挙げる。その瞬間、王女の背中に天使の翼が生え、それを見た誰もが反対しなくなる。王女はまるで本当に天使の祝福を受けたかのようで、望んだ幸福を手に入れる。

本筋から最も離れているとはいえ、王女√にも本筋関連の内容がまったくないわけではない。王女は歌がうまく、その歌声は「天使の声」と呼ばれている(しかし秋野花の歌はほんとうにひどい)。王女はこの歌声が「利成」という男の影響だと語る。この「利成」は王女の母親の友人だった。王女は子供の頃よく彼と遊んでいたが、再び帰ってきたときにはもう「利成」を見つけられず、彼が死んだことを知る……

EDの後には「斉須利成」の過去まで明かされる。実は「斉須利成」は王女の母親「雅美」が好きだったが、ずっと告白できずにいた。ある日、雅美が利成に言う。「告白されたの……クラスの外国人留学生で、なんでも王子様らしいの」と。利成には一人の善悪を見る能力があり、その留学生が悪い人間ではないとわかっていたし、好きな雅美に告白できない自分もわかっていたので、そこで諦め、話を合わせる。
「あいつはいい奴だよ。考えてみれば」 「でも……あの人のこと、よく知らないし」雅美は気にしていた。 「信じろって。あいつは優しい人間だ。俺の見る目は間違わない」利成が見誤るはずもない。能力があるのだから。

最後に雅美はその外国の王子と結婚し、王子は帰国して国王になった。雅美は女の子を生み、それがアーデルハイトという名の王女だ。その後、雅美は娘を連れて帰国し、利成に会い、王女が利成と過ごした日々が生まれた……
椿姫こはね
王女√とほぼ同じで、このキャラ√は実は短い。ああ……王女のが長すぎただけかもしれない。最初から主人公は告白する……こはねと花火大会を見に行くとき、こはねもすぐ受け入れる。だが話のキモはそこではない。こはねが飼っているペット、モーセだ。こはねはモーセが子供の頃から自分に寄り添い、成長するまで一緒にいてくれた良き仲間だと言う。ある日突然モーセが消える……主人公とこはねはあちこち探し回る……

探した末に、モーセは別の小さな女の子に寄り添っていたことがわかる……こはねと主人公はその女の子に家族がなく、とても孤独だと知る。こはねは昔の自分を思い出す。自分もかつて孤独を感じ、そのときモーセが目の前に現れた。そして今、自分には主人公という伴侶がいる。もしかしたら本当に、モーセはもっと寄り添いを必要とする人々のもとへ行かせるべきなのかもしれない。

最後に主人公は冗談めかして、モーセは母親みたいだ、いつもそばであなたを慰めてくれる、と言う。そして主人公とこはねは本当の家族になり、幸福を得る。

実はこの√もただの告白√で、本筋からは王女よりさらに遠い。ただし王女ほど「ずっと日常を延々と」ではない。とてもテンプレで、標準的だ。
碧衣愁
クソ清水愛の個人√。プロレス界の移動式トレーニングダミーこと清水愛はもう結婚したらしいが、旦那は毎日彼女とプロレスするんだろうか……

この√はこはね√の付属物みたいなもの。やはり主人公が突然シスター碧衣愁を好きになり、教会で激しいパコパコまでやる。ぱっと見、主人公が神職者をレイプしているのかと思った……もちろんシスター自身も半ば押し切られる形ではあるが。

最後は当然、シスターと在校生の交際が発覚し、罰を受ける。主人公は自分から説明し、自分とシスターは大した関係ではなく、ただの友人で、今後は注意し、あの線を越えることはない、と言う。

越えない? 越えるに決まってる!
最後の結末は、主人公と碧衣愁が暗に付き合い続けるというだけ。しかも永遠にそうやって暗に付き合い続けるんだろう……表向き、シスターと在校生の恋愛はやはり許されないから。
朱鷺坂七緒
ようやく本筋に近い話が来た。この√は実は共通線のOP後、あの最後の部分に直接続く。主人公が自分の過去を確かめた後、かつての養父への憎しみを捨て、新しい生活を始める。ここからの話がなかなか面白く、なんと三角関係が始まる……朱鷺坂七緒と美鳩夏乃がどちらも主人公に興味を持ち始める。後者は最初からベタベタし、前者はツンデレで、前半は主人公を嫌っているように見せ、後半は主人公の過去を知って同情から気にかけるようになる。

三角関係の話は少し長く続く。ある意味、白学っぽいと言えなくもない。最後は二択を迫られ、選んだ方がその√になる……
朱鷺坂七緒の√は本筋に近いと言いつつ、実は本筋とはそれほど関係がない……近いという程度だ。主人公が前の養父をさらに許し、朱鷺坂七緒と母親の関係を改善する手助けをする話。朱鷺坂七緒は菓子やスイーツ作りが好きで、それは金に困っていないのに町の菓子店でバイトしていることからもわかる。だがお金持ちのお嬢様が将来菓子作りをしたいというのは、少し格が下がる話だ。朱鷺坂七緒は母親とも父親とも衝突している。主人公と付き合い始めてから、朱鷺坂七緒の母親は、朱鷺坂七緒と主人公の関係に反対はしない、ただし自分の将来をもっと考えなさい、と言う。将来本当に菓子作りに進むなら、多くの支持を得られるのか。しかも主人公とも離れ離れになり、本当に遠距離恋愛を続けられるのか、と。

最後の結末は当然、主人公と朱鷺坂七緒が一緒にすべてを乗り越える。両親を呼び、誓約書を書き、永遠に一緒にいると約束し、両親の理解も得る。主人公はかつての養父を許したとも言い、もう責めもしないし関わりもしないと言う……

要するにHappy Endってところか?
美鳩夏乃
最初からどうにも抵抗のあったヒロイン。だってあまりにバカで……ベタベタしすぎで。CVが中村繪里子だと知ってはいる……でもまったくピンと来ない。自分は中村繪里子の厨のはずだと思ってたのに……
でもこの個人√は確かに分量が一番大きい……

主人公が夏乃と七緒の二択で夏乃を選んだ後、二人の交際は順調に進む。だがすぐに、主人公はシスターと話す中で、夏乃の家の環境が普通ではないことを知る。夏乃の家の当主は夏乃の叔母、美鳩深春。

「美鳩深春はやり手の女でね。最初はただの普通の女だったのに、最後には美鳩家の実質的な一家の主になった。なかなかのものだよ」
しかも主人公は知る。美鳩深春の強引な操作の下、美鳩家の家業はますます大きくなり、手を伸ばす場所も増え、教会までが美鳩家の援助を受けている。ましてや執事である主人公の家の地位も、美鳩家の助けを受けている。

主人公はこの美鳩深春に好奇心を抱かずにいられない。何が彼女をそう強くしたのか? そこで王女に調査を頼む……
調査で奇妙な点が見つかる。美鳩深春の夫はすでに外に愛人を作っているのに、美鳩深春は黙って受け入れ、それについても問い詰めもせず知らん顔をしている。そして王女はもっと重要なことを主人公に告げる。

「美鳩深春はどうやらあなたと夏乃が付き合っていることを知っているみたい。それで二人を別れさせようとしている」
考えればわかる。主人公は貧乏な若造で、夏乃はお嬢様。二人の恋が成立するはずがない。美鳩深春はあんなに強引なやり手で、主人公が勝てるはずもない……
ある日、主人公が学校の駅前に来ると、美鳩深春が車で乗り付けてきて、降りてしばらくぼんやりしたあと、また車に乗って帰っていく。何かを探しているような様子だった……
主人公は、美鳩深春もそこまで話の通じない相手ではない、別の一面があるはずだと考え、話をしに行こうとする。

美鳩深春に会ってみると、この女は想像以上に底が知れなくて、言葉の裏の羽根がほとんど見えない。本音なのか嘘なのかも分からない。美鳩深春は主人公に、自分はお前のことが好きだと言う。だが、夏乃はまもなく家の舞踏会に出て社交界デビューする。デビューすれば、より多くの家や政略結婚の話が持ち込まれる。そうなれば、お前の出る幕はなくなる、と。
主人公は、自分も舞踏会に参加できるよう頑張ると言う。自分はもう子どもではない、大人なのだから、大人の権利を勝ち取るべきだ、と。
「いいわよ。子どもじゃないなら、そのときは大人のやり方で、欲しいものを手に入れなさい」
意外にも美鳩深春はあっさり承諾した。

主人公は万全の準備をした。舞踏会に参加し、美鳩家の一族に認められるため、あらゆる作法や知識を学び、最後には美鳩深春の意地悪な試練も突破して、舞踏会への入場資格を手に入れる。
だが、それでも足りない……美鳩深春が立場を表明する。
「美鳩夏乃を連れて行きたいんですって……なら、ここは挙手で決めましょう。ここにいる人間で、賛成の者はいる?」
美鳩家の人間はほぼ全員が反対……これも予想通りだ。
「少数は多数に従う。これが大人が問題を決めるやり方よ」
美鳩深春は意味深に笑った。
「それとも、あなたたちは大人じゃなくて、まだ子どもなのかしら?」

「それにね、人間はそもそも不平等なの。生まれたときからゴールラインに立っている人間もいる。あなたたちの間の差は埋められないわ」

主人公は、最後のダンスを夏乃と踊らせてほしいと美鳩深春に頼む。美鳩深春は承諾した……
その後、主人公は美鳩家を去り、二度と夏乃に会えなくなる……
夏乃は軟禁され、主人公は諦めようとする。美鳩深春もまた夏乃のもとを訪れ、自分の過去を語る。
美鳩深春が学生の頃、夏乃と同じ学校に通っていて、そこでバンドのギタリストに恋をしたのだという……彼が歌う曲と歌声が好きだった。まるで天使の声のようで、歌には愛と平和への美しい憧れがあふれていた……美鳩深春はCDを買い、ライブにも通った。

そのギタリストこそ……「利成」、斉須利成。
「あのときは好きで好きでたまらなかった……」と美鳩深春は言う。「でも結局、告白する勇気はなかった……それに彼には好きな人がいたみたいで。雅美っていう女の子……」
その後、美鳩深春は利成がうまくいっていないことを知り、自分もこの気持ちを心の奥に封印した。死んだ心が再び動くことはなかった。
美鳩深春はやがて結婚した。夫をあまり愛しておらず、夫も自分をあまり愛していなかった。美鳩深春は夫が外で愛人を作ることさえ黙認し、その代わりに弁護士を立てて夫に家の決定権を手放させた……そして自分が一家の主となった。
「ときどき昔のことを思い出すの。利成への恋心も含めてね……でも、それが何になるの……人は現実を受け入れなきゃいけない」
美鳩深春は意味深に言う。
「美鳩夏乃は美鳩家の次期女当主になる可能性が最も高い。美鳩家の家業はもう大きくなりすぎて、多くの家や家に関わる人々があなたの未来と密接につながっている。私たちはみんな、この家という巨大な船に乗っているようなもの。当主は舵取りよ。この船は大きすぎて、乗っている人間が多すぎる。舵取りは勝手なことをしてはいけないし、この船を沈めてはいけない……」

「でも、世の中に沈まない船なんてない……」
美鳩深春はため息をついた……
夏乃も、叔母である美鳩深春の苦労が分かったような気がした……だが自分も諦めきれない。何しろ子どもの頃、主人公と「駆け落ち」したことがあるのだから。
ここでゲームは回想シーンに入る……
主人公が子どもの頃、教会に救助され引き取られたばかりのころ、偶然美鳩家に連れて行かれ、そこで美鳩夏乃と出会っていた。

当時の主人公は貧しい子どもで、世間知らずで、腹も減っていた。美鳩家のうまいものや値打ちものを目にすると、自分のポケットに詰め込んだ。頭の中にはただ一つ、「金が欲しい。金があれば……何でも手に入る」という考えしかなかった。
夏乃はそんな主人公を面白く思って、気にかけるようになり、よく救助施設に遊びに来た。主人公はその頃、養母が亡くなっていて、自分も養父に見捨てられていた……
「そんなに俺のこと好きなら、駆け落ちしようか?」
と主人公が提案する。

「いいねいいね」
夏乃は幼くて意味も分からず、承諾した。
主人公は夏乃をかつての養父母のアパートに連れて行った。鍵はまだ使えたので、ドアを開けて入る。電気は通っていなかったので、ろうそくに火を点けた。何本も点けると、部屋はそれなりに明るくなった。
「これからここが俺たちの家だ」

こうして主人公と夏乃の「駆け落ち」が始まった……実態はお世辞にもそんなものではなく……夏乃は夜になると帰ってしまうので、駆け落ちにもならない。せいぜい秘密基地で一緒に遊ぶ程度のものだった。
しかし主人公には金も食料もない。部屋でろうそくを点けているだけではどうにもならない……
ある日、主人公は街をぶらついていた……駅前で弾き語りをしている斉須利成を見かけ、少し迷ったあと、斉須利成の前に置かれた稼ぎの入った缶を奪って、そのまま走り去った。
自分はきっと夏乃に褒められる。たくさん金を持って帰ったのだから。主人公はずっと、金が一番いいものだと信じていた。

ところが夏乃は怒り、金を返してこいと言う。主人公にはさっぱり分からない。二人は口論を始めた……そのとき突然地震が起き、部屋中のろうそくが倒れて火事になった。
主人公は夏乃を先に行かせ、夏乃は泣きながら外へ助けを求めに行った……そして主人公は突然の火の中に閉じ込められる。もう死ぬと思ったとき、斉須利成が現れた。夏乃が呼んだのだ。斉須利成は主人公を抱きしめ、そのまま炎に包まれた……

斉須利成も主人公も死んだはずだった……しかし天使の出現が結末を変えた……夏乃は空に天使を見た……天使に主人公を助けてほしいと懇願する……
「運がいいわね……」
天使は承諾した。

その後、炭になるほど焼けていた主人公は救い出され……生きたまま蘇った……だが斉須利成は戻らず、そのまま死んでしまった。主人公は覚えている。斉須利成は自分を助けるとき、リクか何か、誰かに助けてくれと頼んでいた……その後の記憶はもうない……
これが、主人公が斉須利成に救われ、斉須利成が火事で死んだ理由。
この回想は実は寄り道のようなもので、夏乃ルートの結末とはあまり関係がない。どちらかといえば本編の謎解きに関わる部分だ。
主人公は美鳩深春の言葉を思い出し、彼女は実はそれほど悪い人間ではない、主人公と夏乃のことをそこまで反対しているわけでもない、ただ多くのことに身動きが取れないだけなのだと気づく……
「大人が問題を解決する方法は二つ。一つは力、もう一つは少数が多数に従うこと」
主人公は一つの方法を思いつく……試してみることにした。
夏乃ルートの最後で、主人公は再び夏乃と「駆け落ち」を選ぶ。ただし今回の「駆け落ち」は、二人で教会に行き、たくさんの友人や親族を呼ぶというもの。二人はそのまま教会で、シスターの祝福のもと結婚しようとする。
美鳩深春は一族を率いてすぐに駆けつけ、反対を表明する。

そこで主人公は機転を利かせ、その場で意思表示を求める。結婚に賛成の者は手を挙げてくれ、と。美鳩家から来た人数は明らかに主人公と夏乃の友人・親族より少ない……少数は多数に従う、ここでは主人公の勝ちらしい……

美鳩深春は依然として反対し、これは無茶だと述べるが、主人公の長い演説の末、どうにかこの叔母を説得する(実のところ彼女は最初からそれほど悪い人間ではなかった)。叔母個人としては支持を表明……家の当主が支持すれば……他の人間の反対はもう意味をなさない。面白いことに、このとき王女が「主人公に地位がない、貴族じゃないって言うなら、今ここで爵位でも授ければ済む話でしょ……」と言い出す。

最後は当然ハッピーエンド。
しかし、あの回想で語られた通り、このルートの要点はやはり回想の最後に現れた天使にある……

天使の姿は誰か……それは主人公の妹を自称する少女、斉須莉玖。
Grand End:斉須莉玖
全ルートクリア後に解放されるInformalnote、つまり最終エンディング。
最初に、主人公は今の自分の状態を語る。最初から、主人公は王女の護衛依頼を引き受けず、自分の過去の身元を調べようともせず、夏乃やその友人と遊びに行くこともしていない。つまり他のルートの物語は一切起きておらず、主人公は一人そこに住み、自分を妹だという斉須莉玖を見ている。
主人公はときどき考える。なぜ莉玖はこんなに人見知りなのか。ふと気づく。他の誰も、莉玖という人間の存在を知らないのではないか……
莉玖は「だって私はあなたの天使だから」と言う。主人公は莉玖の存在の理由を疑い始める。

実際、他の個別ルートを進めても分かるが、この莉玖という人物は出番が驚くほど少なく、誰かが主人公の家に来ると消えてしまう。完全に人を避けており、夏乃以外にはほとんど誰も莉玖を見ることができない……
主人公は自分の部屋で四本の羽根を見つける。莉玖は説明する。これは主人公をこの世につなぎとめる「鎖」で、主人公と何人かの可能性を表しており、壊してはいけない、と。
主人公は夢を見るたびに、斉須利成に関する断片的な夢を見るようになる……話はどんどん鮮明になっていく……
斉須利成は子どもの頃から音楽が好きで、特に愛と平和をテーマにした音楽を好んだ。ロックが好きで、バンドを組んだ。
なぜ斉須利成がそれほど「愛と平和」を好むのか。それは彼のそばに守護天使がいたからに違いない……斉須利成も、なぜ天使が自分のそばにいるのか分からない。天使は言う。天使は人間と契約を結ぶもので、前の契約者が死ぬと次の契約者を選ぶ。たまたま天使が選ぶとき、斉須利成が教会に洗礼を受けに来た……それで選ばれた。

天使に守られるということは、誰の善悪も見えるということ。黒い羽根、白い羽根、いろいろなものを見てきた。斉須利成は長い時間をかけて、人の姿を見慣れてしまった。ほとんど誰にでも黒い羽根があり、本当に純粋な人間は世の中にほとんどいない。
斉須利成のバンドはすぐに問題を抱える……メンバーの一人が言い出す。「いつまでも愛と平和のロックなんて先がないんじゃないか? 今はポップスがトレンドだ。俺たちもポップスをやろうぜ」

斉須利成は反対する。Rock and Roll は単なる音楽ではなく、一つの生き方でもある……俺たちはロックバンドとして集まったんだ。盲従してはいけない……
すぐにバンドは喧嘩別れし、斉須利成が一人残された。そのとき、斉須利成が想っていた女性、雅美が彼を訪ねてくる。
「私に告白してくる人がいるの……」
斉須利成は雅美が好きだった……しかし口に出せない。自分は彼女に申し訳なく、ふさわしくないと思っていた。
王女ルートの最後で語られた通り、斉須利成は雅美を海外の王子に譲った……
再び雅美に会ったとき、雅美は自分の娘を連れて戻ってきていた。今回の帰郷は実質、腹を立てて実家に帰ってきたようなものだった……雅美の夫は国の高官で忙しく、雅美の気持ちを顧みることがほとんどなかったのだ。
斉須利成は雅美に再会し、やはり心が動くのを避けられない。雅美も、夫に構ってもらえない状況に、斉須利成へのときめきを感じ始める。
そのとき、斉須利成は雅美の背中に黒い羽根を見る……それは雅美が裏切ろうとしている証で、夫を、結婚を裏切ろうとしている。雅美は斉須利成に近づく。あと一歩踏み出せば、あの国の王子は間違いなく寝取られる。

斉須利成は雅美にキスしたい衝動をこらえ、こう言う。「ご主人を信じろ。彼は善良な人間だ。ただ忙しいだけだ。怒らないで、彼はきっと分かってくれる。それに、今彼には君がそばにいる必要があると思う」
斉須利成は結局雅美を諦めた。雅美が去る前、雅美の娘、つまり後の王女はしばらく斉須利成のもとに滞在した。おそらくこのとき、王女の歌声は斉須利成の音楽に影響を受けたのだろう。
「私にはよく分からないけど、利成の音楽は本当に素敵だった」
去る前に雅美は利成に言う。
「将来、あなたはきっと有名な歌手になる。海外であなたの歌声を聴ける日を楽しみにしているわ」
「あはは、そうだといいな」
雅美が去ったあと、斉須利成はふと、自分がもう三十歳になっていることに気づく。
「ああ、学生の頃は三十歳ってかなりのオッサンだと思ってたのに……実際になってみると自覚がまったくないな」

三十歳、無職。天使は、オーディションを受けてみてはどうか、レコード会社に連絡してみてはどうかと勧める。何しろ音楽がそれほど好きなのだから。
ようやく東京のレコード制作会社が斉須利成のオーディションを受け付けることになった。利成は新しい曲を作りたいと言う。天使は、オーディションはもうすぐだ、練習する時間はないと言う……
斉須利成は構わないと言う。時間は作ればいい……そして斉須利成は昼間バイトし、夜は眠らずに音楽の練習を続け、自分の歌を書き、疲れてはよく道端で倒れて眠った……天使には、なぜそこまでするのか分からなかった……
最後のオーディションがやってきた。斉須利成は大勢の音楽家の前で、新しく作った曲を歌う。内容はいつも通りで、旋律は美しく、歌詞は相変わらず「平和だ、愛だ、素晴らしさだ、生活だ~」といったもの。

音楽家たちは、悪くはない曲だと言う……しかし「花がない」……つまり、これといった魅力がない……
そこにいた音楽家の一人が沢城唯道だった。彼はこの歌に少し心を動かされていた。というより、審査員はみんな心を動かされていた。だが、この歌はあまりに目立つところがない。今の音楽業界では、「良い」だけでは足りない。「売り」が必要で、「売り」がなく「迎合」しなければ、いい値段では売れない……

斉須利成はこうして落とされた。去ろうとする彼を、沢城唯道が呼び止める。
「これから音楽をやめるつもりか?」 「とんでもない……Rock And Roll は生き方なんだ……」 「君は……ぜひ続けてくれ。今後も、次の機会も諦めないでくれ」
斉須利成はもう見抜いていた。審査員全員の背中には白い羽根があった。彼らは自分の音楽がいいと分かっている。しかし……この世界は、良いものが売れるわけではない……
面白いことに、沢城唯道はその後アメリカのハリウッドに進出し、一連の新しい音楽を作り、その多くが利成がオーディションで歌った旋律に似ていて、好評を博した。ただ歌詞は流行りの歌詞に変えられていた……誰も彼を盗作だとは言わない。彼はプロの音楽家だし、何しろ斉須利成という人間の存在を誰も知らないのだから。
結局、斉須利成には何も残らなかった……金も、仕事も、恋も、音楽も、何もかもなく、ただ天使だけがいた……
天使が茶化すように言う。私のどこが不満なの?

「もう天に帰れよ、俺のそばにいないでくれ。俺は何の役にも立たない」
「契約はあなたが死ぬまで解除されない。それまではずっと続くの」
斉須利成は天使の由来を知りたいと言うが、天使は話そうとしない。ならば自分で教会へ調べに行く。教会の老シスターは話そうとしない。斉須利成は、それならここでボランティアをさせてくれ、子どもたちに自分の歌を歌ってやる、聴いてくれる人がいればそれでいい、と言う……
斉須利成の歌は好評だったが、すぐに教会の老シスターも、もう来ないでほしいと言い出す。斉須利成にはよく分からない。誰の蛋糕に触れたというのか。
老シスターは一冊の日記を取り出した。そこには、天使が以前契約した人間についての資料が記されているという……
「あなたが去るなら、これらのことを教える」
斉須利成はその日記を読んだ。その後、残ったのは怒りだった。これまでのところ、天使は契約者に利用されるばかりで、神職者が天使の契約を得て、教会で他人の善悪を見通すことを宗教の神力として使い、宗教を運営してきた……彼らは天使をそれほど尊重しておらず、多くの人がこの神力によって苦しめられていた……
誰の善悪も一瞬で見えるというのは、決して良いことではない。誰にでも善と悪がある。しかし、親友が自分に嘘をついたのを見てしまえば、たとえそれが取るに足らない嘘でも、信頼を失ってしまう。多くの神職者がその重圧に耐えられず、この善悪を見通す力に耐えられなくなり、自殺したり、狂ったりした。まともな最期を迎えた者はほとんどいない。斉須利成にも、多少は理解できた。自分も善悪のせいで多くの人間を許し……そして多くの人間を逃してきた。

最後には何も持たず、駅前で弾き語りをするしかない斉須利成。
そこへ小さな男の子が現れる。背中は黒い羽根でいっぱいだった……
「気をつけて、あの子は優しくないわ」
天使が警告する……
「なあ……ここは一つ賭けをしよう」
と斉須利成は言う。
「あの黒い羽根でいっぱいの男の子にも、優しい心はある。きっと善良な人間になる」
「あんな状態でまだ善良ですって?」
天使は信じない。
「やってみようぜ。誰にでも善い面はある。今黒い翼だからって、悪い奴だって決めつけちゃいけない」
そのとき、男の子が突然、斉須利成の前に置かれた稼ぎの入った缶を奪って走った……
「あ…………」
斉須利成は呆然……
「早く追いかけて!」
天使が促す。
斉須利成は男の子を追いかける……あの金がなければ、今日は飯も食えないかもしれない。男の子はあるアパートに駆け込み、そのとき突然地震が起きた。アパートから火が出て、一人の女の子が飛び出してきて、出くわした斉須利成に助けを求める……
その女の子が幼い頃の夏乃で、金を奪った男の子が幼い頃の主人公、アパートは二人が幼い頃「駆け落ち」した場所だった。
斉須利成は飛び込んだが、火はもう大きすぎた。主人公を抱きしめただけで、外へ出られなかった。死ぬ前に、自分の後悔したことをいろいろと思い出す……
「もっと早く雅美に告白しておけばよかった……」 「あの審査員たちにもっと強く出ればよかった……」 「もっと早く…………」
斉須利成はそれでも笑った。自分は結局、それほど強くなれない人間だ。優しさだけを貫いた結果が、何も持たないことだった。
そのとき斉須利成は天使の名を呼び、天使に助けてほしいと願った。
天使は斉須利成の声を聞いた……斉須利成がすでに死んでいるのを見た……そして主人公の男の子も炭になっていた……天使はこれまで多くの人間と契約し、人間の醜さを見てきた。聖職者たちは自分と契約し、自分を利用して異端を排除し、さまざまな宗教戦争を起こし、時には血の海を作った。そして自分は傍観する以外、何もできなかった。
天使は人間が嫌いだった。人間は偽善的で醜い。自分はかつて魔女として処刑された。天使として人間界に降りても、人間は自分にほとんど良いことをしてこなかった。斉須利成は例外だった……
天使は斉須利成の言葉を思い出す。「賭けをしよう」。
斉須利成と賭けたというより、天使自身の好奇心だった……確かめたかったのだ……

天使は夏乃の肩に触れ、夏乃は天使を見た……
「天使様、あの人を助けてください」
「運がいいわね……」
天使は自分の翼を犠牲にして主人公を蘇らせ、身体を修復した。天使自身も翼を失ったことで人間になり、天使と主人公は契約を結び、主人公はそれによって誰の背中にも天使の羽根が見えるようになった……
そして天使もまた人間となり、斉須莉玖と名を変えて主人公と一緒に隠れて暮らし、普段は主人公に自分は妹だと言っている……しかし言葉遣いはまったく妹らしくない。
天使が夏乃に触れ、主人公と契約したため、夏乃と主人公以外には、ほとんど誰も天使の存在を見ることができない。

同時に、主人公にはいくつかの記憶が浮かび始める。アーデルハイト王女の護衛の問題、こはねが自分のペットを見つけられない問題、七緒と両親の家庭問題、そして夏乃と自分の叔母の間の問題……
莉玖が説明する。これらはすべて、他の世界での主人公の「可能性」であり、主人公をこの世に安定してつなぎとめる「鎖」だ。主人公にこれらの可能性があるからこそ、天使による復活が成功したのだ。主人公はこの世界で「必要とされている」から。

主人公はこのとき少し莉玖のことが好きになり、告白する。莉玖は、何バカなこと言ってんの、あたしたち無理だから、と言う。
主人公は夢の中の導きに従い、それらの可能性を一つずつ断ち切っていく……なんというか、告白しないまま、王女の背後にある組織を見つける手助けをし、こはねのペットを見つける手助けをし、七緒の両親の問題を解決し、沢城唯道が利成の音楽を盗用したと責め、さらに夏乃の問題を解決し、最後に夏乃の叔母に利成のアルバムを一枚贈った。
主人公は誰も愛さず、自分は莉玖が好きなのだと言う。

莉玖は少し慌てる。これらの「鎖」がなければ、主人公はすぐに消えてしまう。それに最も重要な因果が主人公の養父だ。養父が死ねば、主人公がこの世界に存在する理由は完全になくなり、天使の延命もなくなり、主人公は元の通りに焼け死に、天使も消える……
天使は天からの告げを感じ取る。主人公の養父は明日死ぬ、と。
主人公は、最後の一日ならデートしようと言う……
デートは楽しかったが、それでも莉玖は天使として、主人公を生き延びさせたいと思い、こっそりあの「可能性」の羽根を取り戻し、自分の代わりに主人公が死ぬようにしようとする。天使の命一つで、人間一人の命を代われるのだ。

最後、天使のリクは主人公によって炎の中から救い出される……そしてリクは天の昭示に背いた罰として天使の身份を剥奪され、周囲の人々に彼女の姿が見えるようになる。

天の憐れみか、最後には主人公の養父も病死せず持ち直し、リクも人間として主人公と一緒に暮らすことになる。
主人公はリクを連れて実の両親の墓参りに行く。それは自然災害の犠牲者のための集団慰霊碑で、リクはしばしば斉須利成のことを、彼とかわした賭けのことを思い出す。

リクはもう負けていた。かつて黒い翼に満ちていた主人公も善良な人間になり、自分も彼の愛する人になった。
そしてゲームはエンディングを迎える。
『フローラル・フローラブ』というゲーム、最初に王女√をやった時は削除しようかと思うほどだった。一番望んでいたのが王女√なのに、あれがこうなって……最後もああなって……しかもめちゃくちゃ笑える……あの時点で評価をつけるなら間違いなく20点。シナリオライターはゆずソフトが送り込んだスパイで、この会社を潰そうとしてるんじゃないかとすら思った……
その後の√も上の空でプレイしていた。まあ「花がない」状態だったし。でも夏乃の√に入って「利成」というキャラの背景が明かされ、最後に天使が現れて、ようやくこのゲームの裏にある物語がただ事じゃないと気づいた。

ゲームは宗教の話やら様々な宗教的設定、天使そのものの由来に多大な篇幅を割いていて、一見難解に見える(日本人も「真面目すぎて読めない」と言うんだから、中国人が見たら尚更だ)。最初はイキりかと思ったけど、実際に天使が出てきた時、これらが全部伏線だと分かった。(イキり伏線ではあるけれど、無意味なイキりよりはよっぽどマシだ。)
ゲームは斉須利成という「お人好し」キャラの造形に極めて力を注いでいる。善良で、美好を憧れ、光を好み、守護天使の加護もある……なのに結末はどうなった?金なし、愛人なし、地位なし、大好きな音楽すらできず、最後に残ったのは天使一人だけ。
誰もが利成はいい人だと言い、利成のやることは正しいと言い、利成の音楽はいいと言う。でも誰も彼のように生きようとはしない。皆は天の光を仰ぎ見て光の素晴らしさを語り、そのまま闇へと走っていく……皮肉な話だし、このゲームのテーマ——美好と光への憧れ——を示してもいる。それが『フローラル・フローラブ』が宗教や教会と関わることを恐れなかった理由でもある。

斉須利成というキャラは社会の現実をいくつも語っている。あなたは自分の夢のために信念を貫きたいか?そして……人は誰でも心の奥に善良な一面があると、信じることができるか?
ゲームの中で夏乃の叔母は悪役だが、心の奥では利成の美好さや若き日の青春を気にかけている。沢城唯道は悪役だが、利成が与えた音楽的震撼を覚えている。王女を人質にしようとしたあの男も悪役だが、同じように王女のために忠誠を尽くす。利成の貯金箱を盗んだ主人公も悪役だが、最後には天使に感化され、正義の人間になる。

ゲームの最後は黒い翼と白い翼の観察で総括される。誰にでも黒い翼があり、誰にでも白い翼がある。黒い翼を見たからといって、その人を否定してはいけない。誰もが美好だと信じること。
斉須利成はそう生きた。そして彼が死んだ後、その信念は主人公へと受け継がれた。
正直に言うと、『フローラル・フローラブ』は後半の展開こそ素晴らしいものの、前半の欠点は明らかだ。最大の短所は日常会話で、あまりにlow、逆張りレベルのlow。各キャラの顔譜化が露骨すぎるし、ヒロインの夏乃の仕草は馬鹿すぎて、どう見てもお嬢様には見えない。前作の空森若葉のほうがよっぽどお嬢様らしい。『フローラル・フローラブ』発表時の設定はどう見ても廃萌えゲーで、廃萌え好きの萌え豚を大勢引き寄せたはず。多くの萌え豚は体験版をやって「なんかおかしいぞ」と気づき、製品版でクソつまらない共通√と一部個人√を見て逃げ出しただろう……最後までGrand Endを走り切った人だけが「ああ、なるほど」と感じられる。細部の設定に多少の不合理はあれど、伏線の回収はおおむね的確だからだ。

ちなみに主人公の設定も、前半は完全に失敗だ。本来なら『はつゆきさくら』の河野初雪のような小悪党の気質を持つべきなのに、まるっきり受けキャラにされてしまった。後半で主人公の過去を知って初めてこの性格を理解し、ようやく一つの感想として成立した。一部は脳内補完だけど……はあ……。もちろんゲーム音楽と作画は文句なし、いつも通りの水準だ。
でも前述の通り、このゲームへの評価はジェットコースターのようだった。最初は20点台スタート。夏乃の個人√が始まって70点くらいの出来だと思い、他の√をやって60点に下がり、最後にGrand Endを走り切って斉須利成の経歴に少し感動し、シナリオが伝えたいことを感じ取って、このゲームは立意(テーマ性)で80点の水準はあると思った。

「人間はみな過ちを犯す動物だ。しかし自分の過ちを認めるのは難しい」
多くのことは繰り返しの過ちが悲劇を生む。天使のかつての契約者もそうだった。このゲームへの自分の評価も、どうやら同じようだ。
愛と平和を伝え、夢を謳う物語とは、きっとこういう感覚なのだろう。仕事を始めて間もなく30になる身としては、斉須利成の経歴を見て感慨に浸らずにはいられない。
前半は笑えるし、中盤の感情描写も普通、主人公の造形も失敗。でも斉須利成という成功した造形が物語の核心にあるから、この立意と合わせれば高い水準に達するはずだ。少なくとも「廃萌え」の範疇は超えている。少なくとも自分は最後の√を感動しながら走り切った。
そういえば斉須利成は自分はロックをやっている、愛と平和を謳うロックだと言っていた。それで思い出すのが、自分が最も好きな欧米のバンド、Skilletだ。このバンドのロックスタイルはChristian Rock、つまりキリスト教ロックと定義されている。ロックでありながら、歌詞は愛と平和、人生の反省や美好を謳っている……
最初にこのバンドを聴いた理由は、歌詞が聞き取りやすかったからだ。後から思えば、愛と平和の内容は昔から聞き取りやすかった。Marilyn Mansonを聴いてみろ、あの暗い作詞が聞き取れるわけがない……
Skilletの歌詞は生活について語ることが多く、愛と平和についてのものもある。
Stay up late and we’d talk all night In a dark room lit by the TV light Through all the hard times in my life Those nights kept me alive
We’d listen to the radio play all night Didn’t wanna go home to another fight Through all the hard times in my life Those nights kept me alive
斉須利成が自分の歌は生活の酸いも甘いも思い出し、愛と平和を謳っていると言うのを聞いて、思わずSkilletを連想した。音楽は確かに人の心を動かす。斉須利成もそうだったのだろう。ただ斉須利成は架空の人物で、Skilletは今も生きている。
ああ、そういえばこのゲームで本当に気になったキャラはやはり脇役だった。でもこのゲームで斉須利成が極めて大きな分量を占めているのは間違いない。彼の過去がほぼ全ての√を繋いでいて、彼こそがこの物語の核心だ。主人公とヒロインたちの幸福は、彼の肩の上に立って得たものだと言わざるを得ない。
ゲームのキャッチコピーは……「あの日、私は天使を見た……」
誰にでも守護天使がいる。本当の天使かもしれないし、あなたを守るために現れた誰かかもしれない。
主人公にとっての守護天使は、きっと彼の周りで気にかけてくれる人たちなのだろう……
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