『生命のスペア I was born for you』レビュー
できない君が、死ぬがよい
涙腺崩壊系の話って、みんな「感動した」って言うじゃん。だから泣かせようとすると、自然と誰かが死ぬわけよ。
死に方は千差万別だけど、一番使い勝手がいいのは絶症。絶症に責任転嫁すれば「神様ひどい」で済むからね。
だからギャルゲーにも絶症を設定に使うやつがいるわけで、ちょっと有名なのだと『できない私が、くり返す。』がある。
あのゲームを一言で言うと……クソ。
で、そのスタッフがまた新しく作ったのが、これまた絶症モノの『生命のスペア I was born for you』。
今回のゲームはどうかって?……これまたクソ。
むしろ前作よりひどいまである……

『できない私が、くり返す。』はヒロインが癌になる設定だったけど、『生命のスペア』のヒロインがかかるのは……桜紋病。
この「桜紋病」って何かというと、胸に桜の紋章みたいなのが浮かび出て、それが広がっていって、心臓が不定期に爆発しかけて、最終的に謎の死を遂げる絶症。要は突発性心臓病の助からない版って理解でいい。もちろん完全に助からないわけじゃなくて、心臓移植という手はある。
ヒロインは主人公の友人で、そのヒロインが「桜紋病」にかかった。救うためにヒロインの家は体外受精で妹を作った。将来妹の心臓を姉に移植して、姉を生かすためだ。

これがサブタイトルの「I was born for you」の意味。妹は姉のために生き、姉の心臓移植のために作られた存在。そして姉も妹が自分のために死ぬのは本意じゃない——みたいな、怨嗟と哀しみの空気。ちょっと感動した?
でもこの設定自体に無理があるだろ???
心臓移植はめちゃくちゃ難易度の高い手術で、成功率もそんなに高くない。しかも……心臓移植の大前提として、提供側が脳死してることが最低条件だろ!
妹がまだ生きてるのに心臓を摘出するのか?
お前は臓器を生きながら摘出するのか?
輪の人たちがカナダの火鍋屋の前でデモするの怖くないのか?
しかも作中でヒロインが患ってるのは明らかに心臓に関わる病気なのに、ゲーム全編を通して検査も投薬も一切なし。すぐ「もうダメ」「妹に死んでほしくない」とか言い出すし、妹は妹で「姉ちゃんが死ぬのはダメ、死ぬなら私が死ぬ、私が姉ちゃんに心臓を捧げる(左手にハンマー、右手は背中に回して)」とか言い出す。姉妹でしょっちゅう言い争いまで始める始末で、こっちはポカーン状態。

とにかく、このゲームの医学的な病気設定がおバカすぎて、物語に入り込めない。
まず、作中でヒロインが何度も突然の発作で心臓に激痛を起こす。
なんで激痛で自分の舌を噛むんだ?痛すぎて? なんで心臓が不定期に痛くなるのに心電図モニタリングもしてないんだ?日本にはもう無線の携帯心電図モニターもあるだろ? なんで一度も検査に行かない?医者のアドバイスも受けない?お前は絶症患者なのか? そして一番大事なのはこれだ:
なんでお前、自称余命いくばくもない絶症患者なのに、俺より元気なんだよ?
そう、俺は『できない私が、くり返す。』の「癌なのに毎日ケラケラ笑って死なないお喋りヒロイン」が限界だと思ってた。でもこのゲームのヒロインはその限界を突破して、毎日もっと喋る。しかも日常生活は俺より充実してる。学校行って、男口説いて、ゲームして、家族と飯食って、桜見て、ピクニックして、ハイになってやがる!しかも全部身体張って。たまに心臓が痙攣するけど大したことない。痙攣したらすぐHP全回復だし。
あ、そうそう、セックスもするぞ!
もちろんゲーム内でも一応「桜紋病は発作が起きてない時は普通の人と変わらない」的なことは言ってる。でもそう言われると余計に違和感が募る。
「相手の命の灯火が少しずつ消えていく」的な悲しさが足りなくない?ヒロインがずっとピンピンしてて、ある日突然「ガクッ」って范偉みたいに倒れるのはさすがに唐突すぎるだろ!

でもこのゲーム、本当に唐突なんだよ!!
序盤からヒロインと主人公はくっついてて、ヒロインが「偽の彼氏になって」って頼んで、最終的には本物になる。で、後半で実は主人公も「桜紋病」の患者で、桜紋病で死んだ兄がいて、家庭環境も複雑で、自分も「心臓を生きたまま摘出させられそうになった」過去があって、父親は外で女作ってグチャグチャで……
そんなことはどうでもいい。その後はヒロインと妹がゴチャゴチャ絡んで、ヒロインは死にたがり、妹は姉に死んでほしくない、二人で泣きまくって、最後はヒロインが主人公と一緒に死ぬことを選ぶ。二人の桜紋病患者が一緒に血を吐いて桜の木の下で死ぬ。妹は「この二人の分まで自分が生きる」と宣言して終わり。

正直に言うと、後半は泣かせに来てるんだろうけど、このアホすぎる「桜紋病」設定を思い出すと、とてもじゃないが話に没頭できない。「ヒロインまだ死なないの?」という暗いループにまたハマってしまう……だって彼女、元気すぎるんだもん。悲しみの兆候が微塵も見えない。たまに心臓が痙攣してもすぐ戻るし。おかげで最後ヒロインが死ぬ時も「また復活するだろ」とか思ってたわ。
要するにこのゲームは設定の時点で無理がある。はっきり言おう:
脚本家に医学の常識がほとんどない。そのせいで書かれた話が根本的に破綻してる。話の根幹が歪んでるんだから、その先を論じる意味もない。
脚本家には、もしこれからも「絶症」を書きたいなら、まず実際に絶症を患ってる患者を見るか、歴史上の絶症のWikiでも読んで、なぜ絶症が絶症たるかを学んだほうがいい。世の中には飛び降りや交通事故や殺人以外に、突然「ガクッ」って倒れる症状なんてないんだよ。でっち上げるにしてももう少しマシなもんにしろよ。
それが無理なら、他の人の絶症モノを参考にしろ。ピアノの森の満開の下なんかどうやって書いてるか見てみろよ。短いけど、ちゃんと悲しい雰囲気を作り出してる。このゲームには悲しい雰囲気なんてこれっぽっちもない……
ついでに言うと、西坂恭平は早く転職したほうがいい。この会社にいても将来がもったいない。音楽はこんなにいいのに、いつもバカみたいな話とセットになってて、いいOPとOSTが台無しだ。
あと花澤さくら、マクラ営業してない?なんでこの会社の小作品は毎回主役が彼女なんだ?鉄板もいいところだぞ!
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