『ハナヒメ*アブソリュート!』レビュー
社会主義科学的発展観に導かれた声豚緑化後遺症
俺は Loser だ。あらゆる意味で Loser だ。だが、俺にだって思想も主張も考えもある。
それでも世の中には、余計な世話を焼きたがる奴が必ずいる。主なやり口は、自分の意思を無理やりお前に押し付けることだ。
抵抗したい。だがお前は Loser で、相手は Winner だ。Winner が Loser に人生の経験談を説いてやってるんだ、間違ってるとは言えないだろ?
押さえつけて無理やり犯されるような、この感じ。酸っぱくて気持ちいいかと思いきや、悲しみしか湧いてこない。

「お前さ、もうちょっと基準を下げたほうがいいと思うんだよ」と、カフェで向かいに座った段大湿が、また俺に自分の中の貴重な恋愛経験を披露し始めた。「相手を探して結婚するってのは、顔だけじゃないんだぞ、知ってるか」
「でもあの女、ブスすぎるだろ」俺は力なくテーブルから顎を上げた。「伴侶ってのは長く一緒に暮らすんだぞ。誓って言うが、あれと結婚したらすぐに竹竿みたいに痩せる自信がある」
「それの何が悪い」
「で、すぐに餓死する」
「なんでだよ」
「見ただけで吐き気がして飯が食えねえんだよ!!」俺は頭をテーブルに埋めて、右手の平で机を叩いた。
「実はその女、俺の聞いた話じゃ悪くないらしいぞ」と段大湿はなだめるように言った。「しかも父親が高級幹部だって聞いた」
「お前マジでわかってんのかよ!」もう顔を上げる気すら起きない。額をテーブルに貼り付けたまま言う。「お見合いの紹介文の条件ってのは割り引いて聞かなきゃいけないんだよ。たとえば今回、自分は大学で熱力学の教師だって言ってたが、実際は専門学校の列車電力整備の講師だ。父親が高級幹部って言うなら、楽観的に見積もっても、高級幹部の運転手ってところだろ」
「はあ……お前いつもそうじゃないか……」段大湿がため息をつく。
「俺だってそう思うわ!このご時世、お見合いで俺みたいに正直でハッタリも水分もない奴なんてそうそういねえぞ」
「ハッタリがない?」
「うわ!」俺は弾かれたように頭を起こし、血走った目で段大湿をじっと睨んだ。「お見合いした女に聞いてみろよ。俺に会った奴で、まず驚かない奴がいるか?前もって写真を見て俺の情報を知ってたとしても、会った瞬間みんな驚くんだよ。要するに資料の俺より実物に期待してなかったってことだ。しかも俺は写真写りが悪い。実物のほうが写真よりマシなんだよ……」
「わかったわかった……」段大湿はうんざりした様子で「で、今回はどうしたんだ?特別にヒドいのか?」
「Overwatch やったことあるか?」
「ん?ないな。人がやってるのを見たことはあるが。どうした」段大湿は怪訝そうだ。
「Overwatch に中国のキャラがいて、メイって言うんだ」
「それで?」
「あの女な……写真だとウィドウメイカーの顔なのに、実物はメイの顔なんだよ」
「ぶっ……」
「笑うなよ!」俺は段大湿に中指を立てた。段大湿は必死に笑いをこらえて、水を何口も飲んだ。
「実はメイも悪くない……ホントに」段大湿は口元を拭きながら言う。
「メイだったらよかったんだけどな」俺の頭はまたテーブルに貼り付いた。「メイの顔立ちで、後藤麻衣の顔なんだよ」
「後藤麻衣って誰だ?」
「てめえ自分で Google で調べろよ!」
「お、おう……」段大湿がスマホをいじり始める……「これ、別に悪くないじゃないか……ほら……」

俺は一瞥して、しゃべる気にもなれず、自分のスマホを差し出した。

「おお……」段大湿は黙り込み、スマホを俺の手元に戻した。「じゃあお前はどんなのが好きなんだ。前に弁護士やってた木先生とよく連絡取ってるって聞いたが」
「こいつのことか?」俺はまたスマホを差し出した。

「はあ……」段大湿が見始める。「本当に木先生じゃないか。でもなんで日本に……」
「この人もう結婚してんだよ!」俺はぼそりと言う。「相手はプロレスジムやってる奴だ」
「木先生が結婚?」段大湿はぽかんとしている。「聞いてないぞ?」
「この人は木先生じゃねえよ。似てるだけだ。顔も声も」
「木先生じゃねえならなんでこんなの見せんだよ!お前はどんなのが好きなんだ」
「痩せてて、小さくて、痩せれば痩せるほどいい。小さければ小さいほどいい」
「お前そこはわかってないな。先輩が教えてやる」段大湿は声を潜めて周りをうかがい、俺に言った。「痩せて小さいと胸も小さいんだぞ」
「デカい乳なんか何の役にも立たねえよ!」俺は声を潜めるどころか腕を振り回して答えた。周りの客が注目し、何人かの女がひそひそ話を始める。
「じゃあお前、どれがいいと思うんだ」
「こういうのがいい」またスマホを差し出す。

「おお……確かに悪くない……」段大湿がちらりと見る。「でも日本人みたいだぞ」
「ただの例えだよ……」
「このアプリなんだ?X(旧Twitter)じゃないな……」段大湿が俺のスマホをスワイプし始める。基本的に俺は人のスマホを見られるのは気にしない。見られたくない時を除いては。「お前結構女フォローしてるんだな……みんな日本人みたいだが。おっと、エロ画像も結構あるじゃねえか」
「エロ画像」の一言がまた周りの注目を集めた。さっきひそひそ話してた女たちが、またひそひそ話を始める。
「声小さくしろよ」
「お、おう……」段大湿はスマホから目を離さない。「これもお前の条件に合ってるじゃないか?」
俺はちらっと見た……

「お前が見てるのは偽の姿だ」俺はまた別の画像を探して差し出した。「これが事実だ」

「うへえ……」段大湿は度肝を抜かれた。
「しかもな、この人娘がもう三歳超えてんだよ」
「お前なんでオバサンなんかフォローしてんだよ?」
「この人はゲーム声優なんだよ」
「なんだそれ?」
「ゲームのキャラに声を当てる人だよ」
「おお……そう言えばわかるわ!」段大湿は膝を叩いて、興奮して大声で言った。「お前が毎日やってるあのエロゲーの声だろ!」
周りのテーブルの女性陣からの視線は、もう選択的に無視している。
「どうなんだ?声はいいのか?」
「いや、最悪だ」また頭をテーブルに埋める。「っつーか、もうこいつの声は聞きたくねえ。かれこれ四ヶ月近く聞かされてんだよ」
「ならなんでフォローしてんだよ?お前マゾか?」
「てめえがマゾだ、お前の家族全員マゾだ!」
「ただの例えだって……」段大湿はいつの間にかまた俺のスマホを取って、ツイッターを眺め続けている。「お前さ、こんだけエロ画像と萌え子……おっと、オバサンか、見てて飽きないのか?」
「俺だって飽きてるわ!」
「あ、そうだ。まだ聞いてなかったな。お前いったいどんなのが好きなんだ?」段大湿はスマホを置く。「もしくはこの萌え子たちの中で、どれが一番好みか言ってみろよ。それに合わせて俺も紹介してやれる」
「うーん……」俺は一通り見て、段大湿に差し出した。

「…………」段大湿はしばらく見ていた……「これもオバサンじゃないか?」
「うわ!」また頭がテーブルから跳ね起きた。「お前わかってねえな、この人は声の補正がすごいんだよ」
「声優なのか?」
俺はうなずいた。
「でも確かにオバサンだろ?」段大湿は首をかしげる。「ていうか、さっき娘が三歳って言ってなかったか?」
「それはさっきのオバサンだ!」
「ああ……このオバサンじゃないのか」
「この人はオバサンじゃねえよ!」
「でも確かに痩せてないように見えるぞ」段大湿は怪訝そうだ。「お前痩せて小さいのが好きなんじゃなかったのか?」
「見た目で人を判断しちゃいけないんだよ」
「うわ!」段大湿が机を叩く。「最初に見た目で判断してたのはてめえだろ!」
「…………」
俺は一瞬、目から光が消え、顔をまたテーブルに埋め戻した。
「なあ……」段大湿は語気を強めて言った。「そろそろ現実を受け入れろ。いつまでも日本のオバサンの夢の中に生きてるんじゃない」
「…………」
「実際、多くの女はこれらの声優よりずっと可愛いんだよ。見た目で判断するにしても、そういう女をもっと見ればいい。おっ!この前見た女なんか、お前のスマホでフォローしてるこの人にそっくりだったぞ」段大湿はスマホを俺に見せた。

俺は一瞥して、またスマホを段大湿に返した。

「うわ!」段大湿は驚いた。「これは差が大きすぎる……」
「実際はもっと差が大きいと思うぞ」額はテーブルから離れない。「これでも肌を加工してある。小顔にしてるかどうかもわからん」
「は?」段大湿はぽかんとしている。
「す!べ!て!小!顔!美!顔!アプリ!の!せい!なんだよ!」一語一語区切って、手の平で机を叩く。きっとまた周りの女たちの注目を集めたはずだ。「俺がお見合いで会った相手はみんなこれ使ってやがるんだ。写真を見る限りは許容範囲、実物を見たら腰が抜けるほど驚くんだよおおおお!!!」
「わかったわかった……」段大湿が俺の背中を叩いて慰めようとする。
「あああああああ」俺の絶叫は止まらない。「これは基本的な信頼の問題なんだよおおおおおお」
「このままじゃお前、ホモになるしかないな」
「俺!は!ホモ!じゃ!ねえ!ぞ!ああああああああああ!!!」また机を叩こうとして、段大湿に右手を押さえられた。
「今日は随分興奮してるな……酒でも飲んだか?」
「違う!」腕を振り回す。「酒は飲んでない。チョコを何切れか食べただけだあああああああ!」
「そんなんじゃダメだぞ……」段大湿は語気を強めて……「人を見るのに顔ばかり見ちゃいかん。それに考えてみろ。顔がいい女がお見合いなんかするか?早々に奪い合いになって売り切れだ。残ってる顔のいいお見合い相手は、精神に問題を抱えてるかもしれん」
俺はもっともだと思い、少し落ち着いた。だが顔はまだテーブルに貼り付いたままだ。
「もう行こう、帰って寝よう……」段大湿が俺を叩いて、一緒に店を出るよう促した。
どうやって家に帰ったか覚えていない。気づけばもう朝の9時だった。
段大湿からのメールが残っていた。
「小顔アプリは確かにひどいけど、真実の愛を信じていれば、きっと合う人に出会える。頑張れ李大湿!」
段大湿も時には信頼できる。
今日は休みだ。何をしよう?ゲームしよう。
先月のハナヒメ*アブソリュート!に杏子ルートのAPPENDが出てたのを思い出し、さっそくダウンロードしてインストールし、プレイを始めた。
パッチは230MBもある。一人分のルートが入ってるんだからな……
だが起動して呆然とした。

おい、ルート対象じゃないキャラのボイスすら付ける気ねえのかよ?
そしてプレイを続ける。ずっと戦闘に備えていた……
だが一時間も経たないうちに、ゲームのルートが終わってしまった……

戦闘なし!
おい、このAPPEND はただの一区切りじゃないか?
しかもこの話はなんだ……
お嬢様の杏子が、家の意向でとある御曹司に嫁ぐことになる。
そして杏子は主人公の協力の下、「花嫁修業」をすることになる。要するに、主人公が杏子に家事のやり方や妻としての振る舞いを教えるという話だ。
杏子のメイドはさらに、二人は絶対に乱れた関係にならないように、夜は必ず時間通りに帰るように、と強調する。
こうして「花嫁修業」が始まった……予想通り、二人は出来てしまい、何度もやらかす。
杏子が帰りが遅くなり、時間制限を超えてメイドに叱られる。そして二人はこの秘密の関係を続ける。杏子はいずれ御曹司に嫁ぐ身だ。婚約も解消されたとは言っていないからな。
この話を終えて、俺は少し呆然とした……
なんだこの話?
主人公が他人の婚約者に手を出して……しかも初物までいただいて……
つまり。
主人公が他人を寝取った。
おい!これってNTRの話じゃねえか?
一瞬、犬にでもなったような気分になった。だが日本の評価を見ると、HCG が足りないだの、「花嫁修業」が甘くないだの、そういう意見ばかりで、このNTR要素たっぷりの話に触れている人はいない。
NTR だと気づいたのは俺だけなのか?
そういえば最近、NTR を目にする機会が増えた。
職場で既婚の女性同僚と誰かが仲良くしていると、その夫が寝取られたんじゃないかと思う。同級生の奥さんが SNS で誰かに返信をたくさんしているのを見ると、その同級生が可哀想だと思う。 …………
俺の視界はもう緑になりかけている。関連するコンテンツを見すぎたせいかもしれない……ニコニコ動画の記事エリア / X(旧Twitter) / 5ch / 茶坊チャットルーム / ダゲールの旗 / Yahoo!知恵袋…………などなど……
だがこれはおかしい!こんなに三観(価値観・世界観・人生観)が正しい俺が、蛤三篇(かの有名な三つの文章)と社会主義科学的発展観を熟読した俺が、こんな簡単に目を緑化されるはずがない!
だが仕方ない。
俺はもう、女が感情だけで男を好きになるとは信じられなくなった。金か性か、権力か裏切りか……
スマホを手に取り、段大湿に返信する。「もし俺が真実の愛すら信じられなくなったらどうすればいい?」
返信はすぐに来た。
「昨日の俺の提案、覚えてるか?検討してみろ」
どんな提案だ?覚えてない……
まあ、いいや。こういうことでいいんだ……
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