『仄暗き時の果てより』レビュー

お前の妹の果てより

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実は以前は呉一郎先生のことをそんなに気にしていなかったんだが、去年のサクラノモリ†ドリーマーズで興味を持った。

で、呉先生は一年も経たないうちに新作を出してきた。仄暗き時の果てより、しかも宣伝画像を見る限りまたホラー路線。怖い話が大好きな俺にはたまらない刺激だ。前作は高開低走(序盤は良いが終盤失速)だったけど、最後はまあまあだったし、今回はさすがに教訓を生かしてくれるだろうと思ってプレイ開始。

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正月気分の中でこんなホラーゲームをやるって、我ながらヤバいと思うわ……

終わった。で、どうだったかというと……前作サクラノモリ†ドリーマーズが高開低走なら、今作はもう……後半の展開が火爆しすぎてる。

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攻略可能なヒロインは三人。主人公の探偵上司、島で出会った乾駒子という女の子、そして主人公の妹・御城由乃。

だが実際のところ……使えるのは妹だけ。他はどうでもいい。なので無駄話は抜きにして本題に入る。

ゲーム冒頭の序章は、主人公が私立探偵の助手として故郷の島に戻り、ある家族から行方不明の女の子を探してほしいと依頼される話。

面白いのは、この家族が探している女の子は家族の子ではないってこと。この家の娘は杏子といって、五年前に山の中で無残な死体で発見されている。しかも首なし。この杏子が、主人公の元カノだったりする。

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主人公と上司の探偵は首をかしげる。自分とこの家に何の関係もない人間を、なんで探すんだ? そして主人公は杏子の惨死を思い出す。杏子と付き合い、杏子も承諾してくれた。ある日夏祭りで、杏子は主人公を山に呼び出し、自分から「やろう」と言ってきた。一発やった翌日、杏子は山で死んでいた。しかも首なしで……

だから主人公はこの島の山には絶対何かあると睨む。妖怪? 怪獣? それとも殺人鬼? そして調査が始まる。

もちろん調査なんて何の役にも立たない。ある晩、山で怪しい怪獣みたいなものを発見して主人公は逃げる。三日目か四日目か、主人公は島全体がおかしいことに気づく……そう、そこら中ゾンビだらけなのだ。

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そう、噛まれたらこっちもなるあのゾンビ。物語は『Left 4 Dead』のノリになり、主人公は探偵上司を連れて逃げ回る。だが逃げ切れず、島全体がゾンビになり、主人公も最後はゾンビに囲まれる。

つまり序章はバッドエンド。序章が終わると、主人公が目を覚ますと島に来たばかりの頃に戻っている。なんと勝手にタイムリープしていた。3Daysみたいな時間遡行で、しかも記憶も引き継いでいる。

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記憶を引き継げばこっちのもの。主人公は二周目状態で再調査を始める。すると、依頼のあの女の子がとある家の地下室に監禁されているのを発見する。監禁していたのは、ヒロインの一人・乾駒子の義兄。表向きは外科医だが、実は殺人鬼の変態で、女の子を誘拐して地下室に縛り付け、あれこれ責め立てていた。

しかもこう言う。「この子は本当に特殊だ。どう切っても死なない」

主人公は何度もタイムリープして、ようやく依頼人と合流して女の子を救出する。依頼人は意味深長なことを言う。

「早くあの子を救い出せ。明日までに救い出せなければ、この島は終わりだ」

主人公は一周目のゾンビ危機を思い出し、依頼人が内情を知っていると確信する。

そしてさらに何度かタイムリープし、あの外科医の変態を片付け、女の子を救出。最後に主人公は女の子を脅して、依頼人が何を知っているのか問い詰める。

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依頼人は仕方なく話し始める。本物の妻に会わせてやると。そして家にいる奥方は別人を装わせたものだと告げる。

山奥の防空壕の下で、主人公は依頼人の本当の妻と対面する。怪獣……いや、どちらかというとバイオハザード3の追跡者みたいなもんだな?

そしてさらに下には、棺桶のような水槽がいくつも並び、死体のような人間が何人も横たわっている。救出したばかりの女の子が自分から水槽によじ登り、あの棺桶のようなものに飛び込む。

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依頼人が説明を始める。自分の妻は、地球上に存在する「古きもの一族」で、この種族は人間より優っており、人間も彼らが創造した……食料としての存在だ。つまり、妻はずっと人を食べないと生きていけない。若い頃は人間の姿を保てたが、年を重ねるにつれ人間の姿を維持できなくなり、狂い始め、本来の怪獣の姿に戻ってしまった。

依頼人は妻を深く愛しており、怪獣になっても愛している。「古きもの一族」として数千年を生きてきた妻は、もう捕食の仕方を忘れており、つまり人を殺せるかも分からず、食べることもできず、飢え死にしそうだった。

そこで依頼人が研究したところ、ウイルスのようなものができたらしい。人間に感染させると一日か二日でゾンビになり、ゾンビは妻に楽に食べられる。食べるものがあれば妻も命を繋げる(+1s)。つまり黒幕はこの依頼人だった。

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なぜあの女の子を救う必要があったかというと、その子はすでに感染していて、まもなくゾンビになる。連れ戻して妻に食わせるべきだったのだ。救出しなければゾンビがうろつき、ウイルスをばら撒いて終わり。依頼人もそこまで大きくしたくはなかった。こうして一周目の悲劇が生まれた。

ここで主人公はもっととんでもない問題に気づく。この依頼人、自分の元カノの父親だ。ということは元カノも怪獣だったのか? 元カノも死んで、首もなくなって、まさか母親に食われたのか?

主人公は再びタイムリープし、元カノが殺される前の時点に戻る。すると元カノはあっさり認める。自分は半分怪物の血を引いているが、半分は人間の血だからすぐには飢えない。だが怪物の血を持つ自分が主人公を愛してしまい、愛するほど歪んでいった。そして主人公はどのルートでもこの元カノを選ばず、他の女を選ぶ。だから最後は歴史の筋書き通りに杏子を殺すしかなかった……

探偵の女上司を攻略しても、島で出会った乾駒子を攻略しても、結末は同じ。主人公はタイムリープで彼女たちの過去の個人的な問題を解決し、自分は杏子を殺し、依頼人も妻に食われ、全ての悲劇が終わって幸せな生活を送る……

やや牽強付会だが、まあ筋は通っている。ただ何かが引っかかる。こんな大ごとが、これで解決?

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もちろん、これがトゥルーエンドではない。トゥルーエンドはもっと歪んでいる。

トゥルーエンドは妹・御城由乃のルート。最初は他のヒロインルートと同じで、殺人鬼を追い、依頼人の探す女の子を探す。だが物語が終盤に差し掛かったところで、妹は自分に違和感を覚える。

五年前に杏子を殺したという記憶が、どうもおかしい。

さらに別の記憶も蘇る。自分には……兄がいない。時々父が「もし男の子だったら、康一と名付けていた」と言う。康一とは主人公、つまり妹の兄の名前だ。

つまり、妹だけがいて兄がいない。物語が進むにつれ、主人公も奇妙なことに気づく。自分の妹はとっくに死んでいて、ある日キノコ狩りに出て崖から落ち、木に引っかかって死んだらしい。だが今、確かに隣に妹がいる。間違いなく。

つまり、妹だけがいて兄がいない世界と、兄だけがいて妹がいない世界が存在する。

そこでゲームは強引な種明かしの連続に入る。最後の最後まで、妹が滔々と語る。

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この島には神力があり、古の神が宿っているらしい。妹もその一人で、どうやってか憑依されたか何かで、彼女にも神力が備わった。学校で「杏子」という子に出会い、二人は意気投合し、なぜか惹かれ合う。杏子は怪物の血筋、妹も神力の血筋だからだろう。時々妹は、自分に兄がいたらどうだったかという話を聞く。そこで妹は自分の能力で、「兄の存在する世界」に跳んだ。

そして神力を持つ者として感情を感じられない妹は、身体は杏子のような怪獣と同然だが、愛や感情を得るために、兄の存在するある世界線で杏子を殺し、杏子の頭を食べ、杏子の記憶と一部の感情を手に入れた。これで序盤の主人公の元カノ惨死の説明もつく。

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杏子は納得いかず、妹に問う。あなたは誰なの、と。

妹は言う。自分は「XXXに宿る混沌」だと。理解できないなら、この言葉なら分かるだろう:

いつもニコニコあなたの隣に這いよる混沌、ニャルラトホテプです♪

そう、妹はニャル子みたいな神話の怪物。少なくともこのゲームではそうだ。

杏子はまだ分からず、妹と主人公、つまり彼女の兄との関係を問う。

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妹が言うには、自分の母親が妊娠して出産するとき、女の子と男の子の確率はそれぞれ50%。男の子なら主人公、女の子なら自分。そして自分には能力があるから、「母親が男の子を産んだ」世界に跳んで、その男の子の妹になった。不合理なら何度もタイムリープして細工をし、自分の存在を合理的にした。

つまりこのゲームは、妹が自分の神力で「母親が男の子を産んだ」世界線に跳び、その男の子の妹を演じ、その過程で何度もタイムリープして自分の存在を正当化する話。

同時にその男の子(主人公)もまた、自分の妹や元カノやその他もろもろのハッピーエンドを求めて、絶えずタイムリープしている。

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兄妹がそろってタイムリープしている。だから主人公に時空を超える能力があるのも説明がつく。主人公は別世界線の妹そのもので、本質的に同一人物。つまり妹ルートの結末で主人公は自分で自分をヤっている……


CGのクオリティは文句なし。ゾンビが実に気持ちよく描かれている。ただ怖くはない。サクラノモリ†ドリーマーズにあったあの恐怖の雰囲気が欠けている。音楽は……やはりサクラノモリ†ドリーマーズと同レベル。システムも同じ、moonstoneの家宝のエンジンだが、まあ悪くない。

ただ、このシナリオが……

シナリオについては本当に言葉にしづらい。まず結末の展開が爆発的すぎるし、しかも速すぎる。だが最後に妹が海辺で杏子と交わす会話でもう何度もBoomした。次に、このゲームの用語がおかしい。和製漢語がそこら中にあって、読んでて頭が爆発しそうになる。最後に、このゲームはまた前半の雰囲気を全部「意味なし」にしてしまう。前半はずっと殺人鬼だゾンビだウイルスだと思ってたのに、蓋を開ければ全部ハズレ。ある男が怪獣の妻を生かすために仕組んだことだった。その怪獣の妻に驚いていると、怪獣の妻もまたハズレで、妹が絶えず時を超えて歴史を変えている。同時に、別の妹の兄も絶えず時を超えて歴史を変えている……

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呉先生の今作の出来は個人的に……少なくとも語りのテンポではサクラノモリ†ドリーマーズに劣る。前半の共通ルートの内容は、これが日本のゲームだってことを忘れさせる。どう見ても香港のB級ホラー・カテゴリIII映画、まあ田舎のオバケ映画みたいなもんだ。サクラノモリ†ドリーマーズのように恐怖の雰囲気を作るのとは違い、仄暗き時の果てよりはハードボイルドな路線にホラーの要素を放り込む感じ。ゾンビ、血しぶき、触手、怪獣などなど、むしろ俺にはあまり怖くない。もちろん、これを食らう人もいるだろうが。

ゲームの描写は散漫で、何度もタイムリープが絡むので読んでてすごく飛躍している。しかもトゥルーエンド以外は大した面白みもない。考えてみれば、ホラー映画のくせに主人公は好き勝手にセーブ&ロードできる。画面はゾンビと怪獣だが、展開はバイオハザードのノリに近い。しかも最近バイオハザード7が流行っているし、それを見たいならバイオハザードをやればいいじゃん? このテキストゲーム、とてもじゃないがあっちのインパクトには敵わない……

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だから一時はこのゲームを諦めようとした。だがトゥルーエンド後半で突然大きな爆弾が投下され、どうしていいか分からなくなった。

このトゥルーエンドはほぼゲームの本質を変えている。主人公が時を超える理由は一応説明されるし、妹が存在する理由も描かれる。しかも自分で他の世界線に跳んで自分をヤるという、なかなか斬新な題材を出してきた。

だがそこまで。呉先生はすごい枠組みを作ったが、やはり書ききれていない。せめて次回は……ああいうB級ホラー映画みたいな内容はもう書かないでくれよな?

「この狂った島で、自分の運命を追う者よ」妹の最後の言葉がまだ耳に残っている。だからこのゲームは『仄暗き時の果てより』じゃなくて、『お前の妹の果てより』にしたほうがいいんじゃないか。

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