『初情スプリンクル』レビュー

君が愛しているのは物語じゃなくて、人だ

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過去の自分のギャルゲー感想を振り返ると、苦笑いしたくなる。

昔の自分はいつも思っていた。ゲームがヤバいものになるには、とにかくシナリオが良くないとダメだと。シナリオが良いって何だ?つまり超展開がなきゃいけない。しかも展開が飛躍しすぎてもいけない。爆発的な展開で、なおかつ合理性を保ち、伏線は山ほど張って全部回収する。できれば人生の教訓や世界の真理なんかも少し織り込んであれば、それがヤバいゲームなんだと。

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今から思えば、当時の自分が追い求めていたのは「シナリオ重視」の中のヤバいゲームでしかなかった。でも映画館にアメリカの大作があるように、そこらへんの凡作もあるように、ギャルゲーだって「シナリオ重視」だけじゃない。

ゲームがキャラクターを十分可愛く造形できていれば、それも悪くないんじゃないか――そう考えたこともあった。ただ、そういうゲームは「シナリオ重視」のゲームより一段下に見てしまっていた。向こうは大作で、こっちはキャラを可愛く造形して萌えを売るだけの、いわゆるお茶を濁すような作品だと。『DEATH NOTE』と『ゆるゆり』を比べるようなもの、3A大作と minecraft を比べるようなものだ。普通は同じ土俵じゃないと感じる。

でも「シナリオ重視」の大作に対する妙な優越感は、やっぱりいいものじゃない。みんなゲームだし、みんなギャルゲーで、「君にとって面白い物語」を造形しているだけの話。片方は筋書きを選び、もう片方は人物を選んだにすぎない。

それに、面白い人物を造形するのは決して簡単なことじゃない。以前の自分は、キャラクターを造形するなら、物語の中で次々と選択をさせてより完成された人物にするのがいいと思っていた。でも実際に見てみると、そういう展開に恵まれる人は誰にでもあるわけじゃないし、そこで選ばれる選択も現実から切り離された空中楼閣みたいなものだ。それに比べて、見下していたお茶濁し作品のキャラ造形のほうがむしろリアルで、こんな人が身近にいそうだと感じられる。

whirlpool という会社は洗濯機や冷蔵庫を売っている以外に、エロゲーを作っている会社でもある。多くの人は「渦巻社」と呼ぶ。実を言うと、この会社は以前は印象がかなり普通だった。大半が「非人類」との恋愛劇のゲームだったからだ。クジラとヤるとか、ドラゴンとヤるとか、ロボットとヤるとか、忍者猫とヤるとか。しかもゲームのタイトルもお決まりで、漢字一文字プラスカタカナの外来語(他のゲームもそうだが、そんなに cooool だと思っているのか?)。渦巻社は非人類のヒロインを話題作りに使う以外、物語そのものの描写にこれといった見どころがなく、むしろ退屈だった。

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その「退屈」とは何かというと、日常ものでみんな仲が良くて、話し方も丁寧で、最後の展開も愛と平和、あらゆる面が政治的に正しい感じの展開のことだ。

だからこそ退屈なんだよ!

実は今回渦巻社が新作を発表したとき、自分はまったく興味がなかった。タイトルは『初情スプリンクル』、テーマは魔女、そして魔女を発情させやすい男主。どう見ても low だし、むしろ抜きゲーっぽい。初期のゆずソフトの『サノバビッチ』と似たようなものだ。前回の忍者猫といい、渦巻社もついに終わりかと思った。

でも遊んでみると、このゲームはなかなか面白かった。(このセリフ、何回か言った気がする?)

ゲームの冒頭の設定は紹介通りで、男主は性欲の強い変態。ある日街を歩いていると、謎の女に路地の隅に引きずり込まれて対峙する。その謎の女こそヒロインの冥堂羽月で、自分は魔族だと言う。彼女は男主に能力が覚醒しているのを見て、男主も魔族か、あるいは「魔石」の影響で魔族の能力に目覚めたのだと考える。ところがその時、男主の能力が突然爆発。男主の魔力の影響でヒロインが強制発情させられてしまう。能力はどうやら七つの大罪の「色欲」のようなものらしい。

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男主がヒロインをレイプしようとしたまさにその時、ヒロインは男主を突き飛ばして逃げ出した。

それから間もなく、男主のクラスに転校生がやってくる。見ればあの冥堂羽月だ。そいつは男主のところに来てこう言う。自分は魔族の家の次期当主で、ここに来て学校に通うのは表向きの姿、実際には任務を帯びている。さっきも言った通り、家の「魔石」がなくなって、このあたりで異常事態が多いから、泥棒を捕まえに来たのだと。

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冥堂羽月はとても自己中心的で、というか田舎から出てきて世間知らず。まず毎日男主の家に飯をたかりに来て、次に男主と後輩がやっている「ラーメン研究部」を乗っ取り、毎日男主に絡んで調査と泥棒捕まえを要求し、暇さえあれば精神力過剰に無駄にピリピリしている。外から見れば重度の中二病患者だ。

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でもその「魔石」はどこへ行ったのか?鍵は男主の幼馴染の姉のところにある。男主には幼い頃から知っている幼馴染の花房小春がいて、自分は男主の姉だと言い、男主のことが好き。そして小春には姉がいて、その姉が亀を飼っている。尻尾の長いやつだ。実はその亀こそが「魔石」で、以前は石の形だったのが、覚醒して亀になって逃げ出し、ちょうど小春の姉に拾われたのだ(少なくとも本人はそう説明している)。

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そしてある日、その亀がまた逃げ出して、校内をうろつき回る。これはかなりまずい状況で、何人かの女の子(全員ヒロイン)に出くわし、亀が力を発動。その女の子たちは多かれ少なかれ能力に目覚めてしまう。男主の二人の後輩や、その他いろいろな人たちも含めて。

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そしてついにある日、冥堂羽月がその亀と背後の秘密を突き止め、小春の姉に差し出せと迫る。もちろん小春の姉はそう簡単には応じない。二人は象徴的な戦いを繰り広げ、最後に小春の姉が魔石、つまりあの亀を手放す。

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ところがここで新たな問題が発生。羽月の母親から電話が来て、娘に仕事はどうなっているのか、魔石を盗んだ泥棒をぶっ殺したのかと聞いてくる。羽月は小春の姉に悪意がないことを考慮して、いくつかのことを隠した。その隠し事が羽月の母親の不信感を煽り、さらに羽月が帰省した際に男主と電話でいちゃつくことが多く、母親の疑いはいっそう強まる。その後、羽月が戻ると母親も密かに目を光らせる者をここに送り込み、娘が魔石の調査をろくにせず毎日男主と恋愛しているのを発見。母親は激怒し、流行りのネット依存の子どもの親がよく言う言葉を借りればこうだ。

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「うちの子は一番いい子だった。もともとちゃんとしていたのに、あなたと付き合ってから、すっかりダメになった!全部あなたのせいよ!」

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そして羽月の母親が娘を教育しようと出てきて、娘も母親に食ってかかる。そこからの展開は典型的な母娘の葛藤。ごたごたの末、羽月は最終的に母親に認められ、娘は成長した、魔石のことも本人がうまく処理できるならもう考えない、次期当主として十分な能力もあると告げられる。その後、羽月は男主とバカップル(?)になって仲良く一緒にいるのだった。

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全体から見ると、この『初情スプリンクル』のストーリー展開は非常にお決まりで、ほとんど見どころがない。転校生、お嬢様、不器用、最後は母娘の葛藤、そして「娘は成長して手放せなくなった」的な和解。作中で言われる「魔女」設定も実は大して役に立っておらず、むしろ二号ヒロインみおのツッコミが正しくて、どう見ても「魔法少女」で、男主のほうが淫獣だ。

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それでもこのゲームは予想を超えていた。重点はストーリーじゃなく、キャラクター造形にある。

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ヒロイン一号の冥堂羽月の造形は非常に完成度が高い。最初の出会いから、毎日図々しく男主の家に飯をたかりに来るようになり、さまざまな脅威や困難に直面したときの振る舞いまで、人物全体の特徴がよく際立っている。愛憎はっきり、ちょっと小賢しく、心が狭く、嫉妬深く、田舎から出てきて世間知らずなのに見栄っ張りで、ほんの少しナルシスト。自分は高貴な魔族の美少女だと口にする。奏雨の CV はやや普通だが、セリフがよくできているので、キャラ全体から「可愛い」オーラがにじみ出ている。

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エロゲーでヒロインを「可愛い」と思わせられたら、それだけでほぼ成功だ。そしてこの点の造形こそ、これまでの渦巻社の作品に最も欠けていたものだった。

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以前の竜のお姫様もロボットも、展開は非常にお決まりで、ツンデレを表現するにしても教科書的なツンデレだった。本作のようにさりげなく造形されたツンデレはほとんどない。同時に、以前の作品の男主はほとんどが非常に「模範的」で、正派すぎる木偶の坊みたいなやつばかり。たまに精神病のヒロインにツッコんでも大した反応もなく、どう見ても性冷感だった。本作は違う。男主は非常にエロくて、すぐに性欲が爆発し、しょっちゅうファックしたがる。そこにちょっと中二病の魔族ヒロインがちょうど出会う。他人が男主にツッコみ、男主がヒロインにツッコむ。この連鎖反応がとても面白く、ゲーム全体の日常がかなり楽しく見える。それに比べれば本筋の内容も重要じゃない。

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そう、本筋の内容も重要じゃない。細部なんてもう忘れかけている。覚えているのは男主、ヒロイン、和尚、それから可愛い男の子の話だけだ。

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そうそう、ゲームには「可愛い男の子」もいる。男主の親戚の刑部奏。ゲームの紹介では男の子とされている。見た目は可愛くて、最初はゲームが流行りに乗って特別なキャラでプレイヤーを釣ろうとしているだけだと思った。でも実際にはこの「可愛い男の子」にはルートがある。

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そう、ゲームには男の子のルートがある。前提として、まずどこかのルートをクリアしてアンロックする必要がある。

アンロック後の刑部奏のルートは、もう特別にアホくさい。

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まず男主がゲイっぽくこの小さい男の子をからかい始める。もちろんこのからかいは共通ルートにもあるが、ここではよりゲイっぽく見える。ここまではまだいい。そして男主がこの男の子に対してやることがどんどんエスカレートし、時には自分の発情能力を使って小さな男の子を発情させることまでする。理論上、男主の能力は女性にしか効かないはず。ではなぜ「可愛い男の子」に効くのか?

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だって実際は女の子だからだよ。

その後ゲームは突然、この「可愛い男の子」が実は女の子だと明かす。ただ隠していた女の子で、ある理由があって。性別の壁が破られたなら話は早い。あとは普通のお決まり展開が続く……

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結局このルート、散々引っ張っておいて……可愛い男の子じゃなくて、ただ男の子のふりをした女の子だったのか……

味気ない……いや、一瞬裏切られた気分になった。

もちろんこのルートはおまけの小さなルートで、本筋には影響しない。ボーナスとしてはなかなかいい。


全体として、『初情スプリンクル』は以前の渦巻社のゲームに比べて、質も面白さも上回っている。ヒロインを可愛く造形する点だけなら、ゆずソフトのゲームを超えているほどだ。本筋にはまだお決まりの内容が多いかもしれないが、これは大きな進歩だ。この日常のレベルを保ち、本筋の内容と設定をさらに高めて、何か新しさを加えれば、名作を作るのもすぐのことだろう。

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でも時々思う。渦巻社は必ずしも物語性に力を入れる必要はなく、キャラクターをしっかり造形するだけでもいいし、それで独自のスタイルを築くことだってできる。以前のさまざまな「非人類」設定と組み合わせれば、特色を出せるかもしれない。

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何しろ本質的に「恋愛シミュレーションアドベンチャーゲーム」なのだから、君が愛しているのは物語じゃなくて、人なのだ。

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