『お兄ちゃん 右手の使用を禁止します2』レビュー
お前の妹はお前の妹じゃない、お前の兄貴はやっぱりお前の兄貴だ
かつて神ゲーと呼ばれた作品がある。それが『お兄ちゃん 右手の使用を禁止します』だ。このゲームは、話題性、宣伝、売り文句、そしてシナリオや画風のいずれを取っても光るものがあった。日本語が分からない人でも、このタイトルを見ればいろいろ想像が膨らむというもの。あの魔性のOPも相まって、当時としては一つの高みに達していた。見た目はどう見ても抜きゲーなのだが……
実は抜きゲーじゃなくて純愛ものだと思う。しかも各ヒロインにルートと専用EDまで用意されてる。抜きゲーにそんな待遇はない……
『お兄ちゃん 右手の使用を禁止します』を作ったのは Galette。妹控げー専門の会社の子ブランドなのだが、この会社は……なんというか、わりと不運だ。
まず分かるのは Galette と GLace という二つのブランドだ。Galette は妹ゲーを出すための専門ブランドで、GLace はシナリオ重視のゲームを出すためのブランド。ゲームの内容から見ると、会社の重心はどうやら後者にあるらしい。何しろ抜きゲーを作るのは、金を稼ぐために仕方なくやっている苦肉の策にすぎないんだから。誰だって高尚なのがやりたいだろ……
でもこの GLace が出したゲーム、ちょっと悲惨なんだよな……
前に出た「恋神」とかいうやつはやってないから知らん。俺がやってみた『Timepiece Ensemble』は、ひと言でいうとクソだった。その後 GLace が新作『天ノ空レトロスペクト』を大々的に宣伝してたんで、やってみた感想は……まあ悪くない。序盤の設定はなかなか面白いんだが、ゲーム後半は問題だらけ。もっと悲惨なのは、俺はまだマシだと思ってるのに日本人はそう思わなかったらしく、批評空間でボロクソに叩かれて地雷扱い。その後このブランドは完全に終わったらしく、別名義で細々と続けるしかなくなって、『甘夏アドゥレセンス』を出した。このゲームも……多少は取り柄があるものの、全体的にはやっぱりクソだった……
つまり、GLaceというブランドは評判を築くことに注力したシナリオ重視の作品を作っているはずなのに、最初から今に至るまで、たとえ看板を変えても、出したゲームはすべて地雷と叩かれている。まったく評判なんてものはない。
では GLace は名作を出したことがあるのか? ある! 『1/2 summer』だ!
だが残念なことに、この『1/2 summer』の発売は Alcot のブランドに割り当てられてしまった。後に GLace に戻されたものの、もう誰もこれが GLace 作品だと覚えていない。
だから業界の大半の評判では、GLace のゲーム=地雷……
話は二つに分かれる。Galette は妹属性ゲームの抜きゲーブランドとして、『お兄ちゃん 右手の使用を禁止します』の大ヒットの勢いに乗ろうと『お兄ちゃんティーチャー』を出したが、評価はイマイチ……そして事件が起きた。
何かって言うと、『お兄ちゃん 右手の使用を禁止します』を作ってた連中——絵師、音楽、OP歌唱、企画、脚本まで——が全員逃げ出して、新しい会社を立ち上げて、また妹ゲーを作り続けてるんだよ。
そして Galette はほぼ人がいなくなった……年明けに『ちっちゃな花嫁』というゲームを出して、私は深く傷つけられた。もう完全に人がいなくなり倒産するのかと思った矢先、『お兄ちゃん 右手の使用を禁止します 2』が下半期に発売されると発表した……
うわ、かつての看板タイトルがまた引っ張り出されて続編かよ。しかも気になるのは、このゲームの元絵師が全員逃げたのに、どうやって新作を出すつもりなんだ?

で、いざゲームが発売されてみたら……吹いた。原画は全部別人に変わってるし、CVも一人として前作と同じじゃない。もはやこのいわゆる「2代目」ってのは、Galetteが倒産前に一発稼いで逃げようとしただけなんじゃないかとすら思う……復活したLassと同じパターンだ。
だから「まあ適当に見てみるか」くらいの気持ちでこのゲームを始めたんだけど、期待値を下げすぎていたせいか、思ったより悪くない……少なくとも前にやったあの花売りのクソゲーよりはマシだ。
このゲームは第一作の続編にあたる。第一作では、主人公が妹を守ろうとして右手を負傷し、その後、妹たちに「看病」を口実にさらに悪化させられてしまった……

二代目はというと、主人公が冒頭で「右手はだいぶマシになった」と言ってくる。妹たちとの毎日を過ごす中、主人公の父が「また女の子を二人連れてきた」と宣言。今日からこいつらが主人公の「新しい妹」だと言う。一人はまなみ、もう一人はななみ。
主人公の父親がどうやってまた妹を二人も連れて帰ってきたのかは詳しく語られないが、この二人はすぐに役どころへ馴染んでいく。やがて主人公は、この妹たちがなかなかの来历の持ち主で、現実では国民的アイドル(まあ、そういうことにしておこう)だと知る。しょっちゅう変態やらオタクやらストーカーやらに付きまとわれ、ある日ついに、二人はストーカーに拐かされてしまう。

俺たちの主人公、つまり二人の妹の兄貴は、飛び出してMB自転車に乗り、誘拐犯の車を追いかけて犯人と格闘した。妹たちは助けたものの、今度は右手を負傷してしまった……
その後、二人の妹は助かった。実はこれ自体はまだ小さなことなんだが……厄介なのはこの後で、国民的アイドル二人を助けたことで主人公の身元や自宅の住所までバレてしまい、毎日のように色んな嫌がらせを受けるハメに……
あまりにも煩わしくなったので、主人公たちは日本にいても気が休まらないと判断し、南の小さな島へ避難することにした。新しく加わった二人の妹も事務所に休みを取って、主人公一人が六人の妹を連れて一緒に向かった……
その後の展開……言うまでもねえだろ?男一人に女六人で離島バカンス、美少女漂流記なら見たことあるだろ?
このゲームのルートは個人的に新妹二人、つまりまなみと��なみのルートを推す。なぜかというと……
他の人の絵師は全員変わったから、ゲームは元のストーリーの上で使う背景画像や立ち絵は全部一作目の老人物のままで、しかも元の画像そのままだ。違和感は感じないかもしれない。
でも島に着いて新しいCGが出てくると、その新絵師が元のP子の画風を下手に真似したせいで妙な違和感がすごくて慣れない。ただ新キャラは最初から最後まで一人で描かれてるから、別に悪いとは思わなかった。

まあこれは許せる……なにせオリジナルのスタッフはみんな逃げちゃったからな…… Galette に残ってるのはこのゲームタイトルの使用権くらいだろ。しかも新しい妹の絵はなかなかいいし、新妹の CG も悪くない。それに CV は他のキャラと比べてもそこそこ強いほうだから、これも仕方ない措置だったんだろうな。
そう言うのも、元からいた旧キャラのCVが全員総入れ替えされていて、代わった声優は誰一人知らない面子だわ、しかもその演技がクッソ下手。唯香の声は正直ゴミだと思ってたけど、新しく入れ替わったキャラのおかげで唯香への好感度が爆上がりした。だって唯香より酷いのがいるんだから。録音もおかしくて、全員声がちっさすぎ、完全なる棒読み、感情がほぼ皆無……
だからこのキャラ群の中で、CVにしてもキャラにしてもCG描写にしても、戦えるのは新規妹二人だけで、旧キャラはほぼ全滅ってわけだ。

正直、このゲームは「右手禁止」の肩書きを背負って出る必要なんて全くなくて、単体の新作として出せばよかったんじゃないかと思うんだよ。新キャラの絵はまあまあ良かったしね。でも、かつて潰れた Lass の抜きゲーシリーズのことを考えると、なぜこうしたのか大体察しがつく。たとえば今作では背景がさらに節約されていて、昔の背景は使い回し、島の新背景は全部アップルデイリーみたいな3Dアニメ調のレンダリング画像を外注している。実写の写真を使ったほうがまだマシだと思うんだけど……それとも Galette って会社、外に実写を撮りに行く金すらないほど貧乏なのか? 背景すら描く金が惜しいから使える旧素材は使い回して、しかも一作目の評判が良かったから少しでも人を釣れるだけ釣ろうって魂胆か。でも、昔の評判を潰すのを代償に搾り取るって、本当にいいのかね?

よく考えれば悪くもない、まず生き残らないとだよな。
まあまあ、実際のところ Galette のこの新作、思ってたよりずっと良かったわ。開発会社がもう金がなくてカツカツなのは知ってるけど、その状況でこれを作れたなら、良心に恥じない出来だと思う。

ただ俺にとっては、お前の妹はもう元のお前の妹じゃない。プレイヤーは兄として、かつて右手を怪我した「お前の兄貴」のままなんだ。
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