『ひとつ飛ばし恋愛V』レビュー
恋愛漫画は全部嘘
『ひとつ飛ばし恋愛』は古いゲームで、Asa Projectの初期作品だ。
あー、というか早期作品ってほどでもないな。やや初期寄りってだけ。この『ひとつ飛ばし恋愛』は「ひとり飛ばしの恋愛」が売りで、中国語の翻訳版だと「間接之恋」ってタイトルになってた気がする。これもまあしっくりくる。ゲームの内容まさにそのままだし。
『ひとつ飛ばし恋愛』に対する当時の俺の評価はそこまで高くなかった。というのも、やりすぎなんだよ。中はずっとドタバタで、何人かの「飛ばされたキャラ」はクソみたいな奴か、あるいは「聖母すぎる」奴かのどっちかだし、そもそもこのゲームの絵柄自体が真面目に見えない。あの『恋愛0キロメートル』と比べると、明らかにやりすぎだ。笑い路線だって言うなら、なんで個人ルートで「恋愛」を入れようとするんだよ。純愛路線だって言うなら、あのデカい顔芸を見ただけで純愛には見えないんだが……

なんか気まずいな……
その後『ひとつ飛ばし恋愛』には PSV 移植版も出た。『恋愛0キロメートル』PSP 版と同じく、新キャラが追加されている。PSV 移植版の正式名称は『ひとつ飛ばし恋愛V』。当時 PSV は未破解だったので、どこで買えばいいのかも分からなかった……その後 PSV が破解されたけど、このゲームの Dump をどこで探せばいいのか未だに分からん。なにせ原作は安くなかったし……日アマも在庫なし、移植した会社は倒産済みで、マジでお手上げだわ。
最後にようやく努力が報われて、ネットで中古品を手に入れた……まあ安くはなかったけど。

そこでまたホコリをかぶっていた PSV を引っ張り出して、開戦。
ゲームには2人のキャラクアルートが追加された。一人は神木明日葉、もう一人は神木いくる。そして「間接的な関係」とは、新ヒロインの2人が主人公の担任である神木万智の娘だということだ。

まずは末娘・神木いくるのルートについて:
このルートは実にオーソドックスで、主人公はひょんなことから先生の二人の娘と知り合う。そのうち神木いくるは主人公に一目惚れする——もちろんそこまで絶対的な一目惚れではなく、どちらかといえば悪戯めいたものだ。最初は主人公にベタベタくっついてくるようになり、いくるの姉・明日葉も傍らで煽り立て、絶えず妹に恋愛の環境を整えてやり、妹を応援するとまで言う。特に姉の明日葉は主人公に、自分は恋愛漫画を読むのがとにかく大好きで、山ほど読んできたから恋愛というジャンルは得意中の得意だと語り、彼女の協力があれば主人公といくるは絶対に幸せになれると断言するのだった。

その後の展開はもうお約束って感じで、いくるが主人公に猛烈なアプローチを仕掛けてくる。主人公の姉と妹もそれを止められない。特に姉はずっと面白がって眺めてるだけだし、妹はやきもちを焼いてるのに、積極的なにくることがどうにもできない。それにいくるは主人公を「お兄ちゃん」と呼ぶのが好きで、自分はもう主人公と恋人同士だと思い込んでるところまである。姉も嬉しそうだし、本人もご満悦。学園祭で自分の演目を見に来てくれと主人公を誘ったり、二人で何度かデートもしたりして、あとはもう親に会うだけってところまで来てる。

だというのに、その親への挨拶というやつでやらかしてしまった。

いくるの母親、つまり主人公の先生は、主人公といくるの関係に気づく。とはいえ怒りはしない(もちろん体裁上は一応叱る)。ただ鋭い問題を指摘する。いくると主人公はそもそもカップルと呼べるものではなく、せいぜい いくるの甘えの情結にすぎない、と。典型的なのは、いくるがずっと主人公を名前でなく「お兄ちゃん」と呼んでいること。二人の間にそれ以上の親密な関係もない……むしろ兄妹みたいだ。

そう言われると、いくるはとても気まずい思いをして、自分と主人公の関係を見つめ直し始める。主人公もまた反省し始める。もちろん、その結果は当然のごとく二人は愛し合っていると確認し合い、恋人関係になる。先生兼母親からの認めも得て、最後にキスをして……終わり。

そう、それだけ。全年齢だからな、足を揉むのがせいぜいで、それ以上は望めない。
次は長女・神木明日葉のルートで、これが個人的に本作最大の見どころだと思う。
いくる√で俺が言ったのは、神木明日葉が主人公に、自分は恋愛漫画が好きでたくさん読んできたから恋愛には結構詳しいんだと強調していたこと。そのとき主人公が彼女にひとつ質問した:

「そんなに恋愛に詳しいのに、恋愛マンガをそんなに読んでるのに、恋愛に憧れとかないの?」 神木明日葉は一瞬固まって、すぐに答えた…… 「ないない、マンガを読み慣れてるから、恋愛は遠くから人がやってるのを見てればいいの。自分を当てはめてみるだけで楽しいし、私は見てればいいの、見てるだけでいいの」

その一言がきっかけで、主人公は明日葉をより意識するようになる。明日葉はいつも妹のいくるの恋愛のことばかり考えていて、妹に恋をさせて自分は傍で見守りたいと思っている。主人公はなぜか明日葉に興味を抱き、学園祭のときに明日葉を探しに行くと、彼女は恋愛占いをやっていた。

明日葉は男主が来たのを見て、まず驚いた。それからやっぱり男主の占いをした。
「あなたの恋愛はね、すごく順調だよ。次々と選ばれし人に出会って、その人に告白すれば永遠に幸せになれるよ」
明日葉は、いくるこそが主人公の「天選之人(運命の人)」だと示唆している。だが主人公は、その「天選之人」は明日葉のほうだろうと言い返す。
明日葉はとても不機嫌で、男主の誘いを何度も拒んでいた。それなのに男主のほうは、明日葉と学園祭を回ろうと持ちかけている。

明日葉はまだ承諾しようか迷っているところに、やって来たいくるの妹に見られてしまった。妹はそれでも男主は自分のものだと思っていて、姉が自分を支持してくれるはずだと信じている。一方の明日葉は妹に申し訳ないという負い目を感じ、逃げ始める。
それからというもの、長い間、明日葉の心はもやもやしていた。彼女はいつも男主のことを思い出してしまう。男主が自分を誘ってくれたこと、そして妹のいくるが男主をあんなに好きなのに、それを表に出せず、ただ妹を助けて作戦を練り続け、早く男主を落とさせようと、いっそ妹にもっと積極的になれとけしかけるのだった。
「早く彼を落とさないと、逃げちゃうよ」 妹はそこまで積極的なのはよくないと思って、こう聞いた。 「そんなこと(自分から落とすなんて)……本当にいいの?」 ところが明日葉は、妹が自分に『あなたも男主のことが好きなの?』と聞き返していると勘違いして、すぐに答えた。 「いいよいいよ、お姉ちゃんには好きな人がいるんだ、他の人だけどね」
ここで「隣の財布は盗んでいません」とわざわざ言うようなもの、それを妹に気づかれてしまった。
その後の展開がなかなかドラマチックで、明日葉が男主に妹のいくるを連れて親に会いに行くよう促し、先生に会うと、先生は相変わらず男主といくるの恋愛関係を疑っていて……
「カップルなの?チューしてみせてよ」

男主はキスできねえ……無理やり自分に言い聞かせてキスしようとした瞬間、明日葉は見かねて逃げ出した……
妹も分かった、先生も分かった、たぶん男主も分かったはずだ。
明日葉は主人公のことが好きなのに、それをできず、無理やり妹に譲ろうとする。
理由は単純で、子どもの頃の明日葉は妹の憧れの存在で人気も高かったのに、妹のほうは自分が風変わりでわがままだという理由であまり誰からも好かれていなかった。彼女は少しだけ姉を嫉妬して、姉に不満をぶつけたのだ。
「お姉ちゃんは何でも持ってて、あたしには何もないんだから、ずるいよ!」
明日葉は妹が自分が原因で不機嫌になっているのを見て、罪悪感を覚えたのか、妹にこう言った:
「はいはい、わかったわかった。これからはお姉ちゃんが何でも譲ってあげる、全部優先してあげるからね?」

そしてこの言葉が枷のように明日葉を今まで縛り続けてきた……恋愛においても。
最後の心のわだかまりは妹にしか解けない。妹は姉にもう自分の世話は要らないと告げ、姉は自分が追い求めたいものを大胆に追い求めればいいと伝える。その裏の意味は、主人公は姉に譲ってもいいということ。だが明日葉はやはり少し照れてしまう。
最後に彼女と男主の交際はもっとドラマチックな形になった。明日葉は恋愛漫画を読むのが好きで、男主に自分が脚本を書いたと言い、男主と一緒に演じることにした……

演劇の内容も要は普通の恋愛もの……終盤で主人公が突然明日葉を抱きしめる。明日葉は驚きつつも幸せそうで、「恋愛マンガには……こんな展開ないよね」としみじみ呟く。
恋愛漫画にこんな展開がないわけがないだろ?
二人は夕日を背に屋上で抱き合い、ゲームはエンディングを迎える。
『ひとつ飛ばし恋愛V』で追加された2本のルートだけど、個人的に一番クオリティが高いと感じたのは姉の明日葉だった。妹のいくるは普通の倒れ込みルートって感じで、これといって光るものがない。むしろ姉のルートのほうがなかなか面白くて、ラストはちょっとエモかった……
姉のルートもむしろタイトルに近い、間接恋愛。ただし間接なのは自分の妹であって、あの先生ではない。この微妙に三角恋っぽい感じは、むしろ『恋と選挙とチョコレート』のあの白髪の女の子を思い出させる。

また、新規シナリオの追加も従来のような継ぎ足しではなく、共通ルートの随所に織り込まれていて、二人の新キャラと元々の主人公サイドが多く絡むようになり、自然に溶け込んでいる。シナリオの構成にはかなり気を配った跡が見える。

総じて、このゲームは追加ルートとしてはかなりクオリティが高い。ましてやヒロイン陣の声優ときたら、佐倉綾音の姉、丹下桜の妹、そして小林ゆうが演じる女性教師までいるのだ。

そういえばこのゲーム、変態版の画伯・小林優と変態版の小野涼子が同じ舞台で競演する唯一の機会だったりするんじゃないか? 今後この二人が共演する可能性はたぶんないだろうな。ここにこのゲームの価値がある……ってことなのか?

ただ不満点もあって、旧キャラの出番がかなり少ないんだよな。新キャラと絡むのはほぼ主人公の姉と妹ばかりで、旧キャラはほんのちょっとだけ。たまに小野涼子のあの顔芸帝がひょいと顔を出す程度だけど、まあそれで十分かなという気はする。

もう一つツッコミどころなのが、このゲームのデフォルトの音声品質がめちゃくちゃ悪いこと。ただしPSN経由で1.3Gの音声強化パッチを更新できて、その後は音声がまともになる。もしかしてゲームのストレージ容量が足りないのか?

最後はいつものように感慨を一つ。明日葉は恋愛漫画を大量に読んできて恋愛にはかなり詳しいのに、自分は恋愛に参加しようとしない。時々思うんだが、これはギャルゲーを玩んでいる独身オタクとちょっと似ている。ギャルゲーをやりすぎて、恋愛の展開を山ほど見てきて、多くのシナリオに感動し、多くの荒唐無稽なキャラにツッコミも入れてきた。しかし嵐が過ぎればすべては雲煙、ゲームの中の幸せは結局お前とは無関係で、お前はたいてい傍観者でしかない。

傍から見ている他人の恋愛事情と、明日葉が妹の幸せを願う気持ちは、たぶん似たようなものなんだろう。でも、だからといって明日葉自身が恋愛したくないわけじゃない。ただ、恋が不意にやって来ると、どうしていいかわからなくなって逃げ出したくなるだけなんだ。
多くのオタクは「彼女がいたらいいのにな」と妄想する。ところが、いざ女の子から声をかけられるチャンスに直面すると、心の中では立派に芝居を打つのに、口には出せず、一歩も踏み出せない……
ギャルゲーの物語は全部嘘っぱちだという人がいるけど、恋愛マンガの物語だって同じように嘘っぱちじゃん?
でも、たとえ嘘だとしても、ずっと騙され続けるのはさすがに良くないよな……
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