『デイグラシアの羅針盤』レビュー

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『デイグラシアの羅針盤』は同人サークルCatalystが制作した同人ゲーム。初出は2015年ごろで、2018年12月にグラフィック強化とOP2追加を経てNintendo Switchに移植された。

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なぜこのゲームをやったのか?

宣伝で名作「Ever17」と並べられていたのを見たからだ。制作陣自身は「Ever17の精神的続編」ではなく「Ever17へのファンレター」だと言っていて、どちらかといえばオマージュの意味合いが強い。ネット上の評価は多くないが、悪評はほとんど見かけない。Eshopでわずか500円だったこともあり、ダウンロードして遊んでみた。

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で、このゲームはどうなのか?

ぶっちゃけ、たいしたことない。中二病期の脚本家にありがちな「知識ひけらかし」作品で、設定はEver17とほぼ同じなのに物語の展開はまるで違う。雰囲気のあちこちにEver17の影は見えるけれど、語り口と「仕掛けられたトリック」の質はEver17とは比べ物にならない。Ever17的な「叙述トリック」を味わいたいならこのゲームは向かない。むしろ「科学と似非科学」「中二少年たちがときどき憂鬱でときどき興奮しながら語り合う」空気を味わいたいなら、まあまあ合っているかもしれない。

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どんな話なのか?

主人公は巨大潜水艦「SHEEP III」の初潜航に参加する。観光ツアーのはずが、潜航中に事故が起きて前半部分が完全に浸水し、艦も損傷。乗客50人の大半は前半の観光舱で命を落とし、主人公と数人はたまたま後半舱に残って生き延びる。しかし潜水艦は制御を失って沈み続け、最終的に主人公たち生存者は深海700M以深に閉じ込められ、脱出方法もわからない。

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やがて主人公は悪戦苦闘の末、爆破で艦を破り、浸水した前半舱を分離。後半舱だけなら浮力で浮上でき、一行はようやく脱出する。


話が単純すぎない? そんなわけないよね?

そう、今話したのはメインの筋だけだ。『デイグラシアの羅針盤』の中身は想像よりずっと長い。実は主人公がこの潜航に参加したのは、潜水艦会社で働いていて事故死した姉に会うためだった。姉は前代の「SHEEP II」の潜航に参加し、同じように深海で事故死している。会社はその事故を隠蔽し、口封じのために主人公に便宜を図っていた。

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ちなみに主人公はプログラマーで、SHEEP IIIの潜航は完全にプログラムで自動運行される。主人公は今回の潜航プログラムを勝手に書き換え、姉が消えたあの深海を目指していた。姉の痕跡があるか確かめるために……


つまり今回のSHEEP IIIの事故は主人公のせい?

そういうことになる。これもゲーム中盤で明かされる最初の秘密だ。

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他にどんな秘密が?

ヒロインの西方寺ときわは天才少女と呼ばれている。この天才少女が終盤に教えてくれるのは、主人公が乗ったSHEEP IIIの潜航海域が実は区画整理されていたということ。西方寺ときわは再生可能エネルギーの研究に関わっていて、その研究のためにこの海域はオゾンで隔離されていた。今回の潜航の沈没・制御不能はこのオゾンの障壁が原因だ。主人公が勝手に進路を変えたことで障壁にぶつかり、ガス爆発と事故を引き起こした。https://plumz.me

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なぜこの海域を隔離していた?

主人公の姉が過去の潜航で、海底に得体の知れない生物がいるのを発見していたからだ。その生物は光を放ち、体に侵入して体を操り、人に取り憑いて変異させる。


バイオハザードのTウイルスみたいな?

似ているが違う。海底のアレは「ウイルス」ではなく「生物」で、科学者たちはCOOAだか何だか(ここでは仮にCOOAと呼ぶ)と呼んでいた。存在としては「古代生物」に近い。SHEEPの潜航も建前で、観光客を乗せたついでに科学者たちが隔離海域の海底を観察し、奇妙な生物がどうなったか確かめるのが本当の目的だった。

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じゃあ海底版バイオハザードかエイリアンか?

かなり近い。エンディングは3つ。最初の2つは主人公たち数人が海底に閉じ込められ、COOAの奇妙な生物の出現とともに艦内で狂気の行動が始まり、殺し合いにまで発展。生き残るのは主人公と艦長の2人だけ。2人が身を隠して救助隊が来るまで耐え抜く。


最初50人いて、最後は2人だけ?

だから3つエンディングがあると言ったろ。最初の2つは「2人だけ生き残る」で、最後のTrue Endは「全員救助」だ。

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True Endは50人誰も死なないってこと?

いやいや、大半は前半舱の浸水時点で死んでいる。物語が始まった時点で主人公と数人の主要人物しか残っていない。True Endでも「残ったメインキャラ」が救われるだけだ。


ルートロックがあるの?

ある。しかもかなり斬新な仕掛けだ。ゲーム開始時に主人公の名前を入力する。私は最初「星野吹雪」にしたから、みんな「星野さん」と呼んでくる。ところが中盤で主人公は自分が潜水艦の進路を書き換えて事故を起こしたと認め、同時に偽名だったことも明かす。本名は「片桐一葉」。ここで開始時に入力した名前は放棄され、主人公は自分の名前を取り戻す。このルートでは終盤、2人のうちどちらを救うかという選択を迫られるが、どちらを選んでも全滅し、自分と艦長だけが助かる結果は変わらない。

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True Endの入り方は特殊だ。開始時の名前入力でカスタムを捨て、主人公の本名「片桐一葉」をそのまま入力すると、主人公は名前を隠さず、中盤の告白パートもなくなり、歴史が変わる。主人公は残った6人の生存者全員を救う。


True Endの入り方がキャラ名設定に隠れているって、クールだね。で、どこがEver17オマージュなの?

随所にEver17へのオマージュを感じる。主人公一行が水中に閉じ込められる展開、忽然と消えるヒロイン、水中でのサバイバル。環境と雰囲気はEver17と瓜二つだ。全体としては細部でEver17やRemember11あたりを学んでいて、True Endもそう。ゲームはどれがTrue Endかは教えてくれず、「仮説」を提示するだけ。最初から本名を使ったら、救助で誰を助けたら、歴史はどう変わるか、などなど。

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物語中には白い服の艦長と白い部屋で対話するシーンまである。主人公は「仮想現実のようなもの」で物語を体験しているらしく、3つのエンディングそれぞれに「現実をシミュレートしたもの」である可能性がある。どれが本当でどれが主人公の「IF」なのか、作者にしかわからない。


そう聞くと奥深いゲームに思える?

そうとも言える。『デイグラシアの羅針盤』の日常パートには「知識ひけらかし」が大量にあり、バミューダ海域、太陽黒点の爆発、海底生物の起源、圧力と水圧の物理ミニ知識などが語られる。一つ一つ検証すれば勉強になるかもしれず、日本のプレイヤーから「考察ゲー」と呼ばれることもある。しかしこれらの内容はメインの筋とまったく関係がない。これがこのゲーム最大の欠点だ。

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つまりカッコいい知識が盛りだくさんで、本筋は「海底に閉じ込められて最後に助かる」だけ?

そう。テンポは非常に悪い。閉じ込められた直後から長々と時間稼ぎと知識披露が続き、作者がそろそろいいかと思ったら急に畳んで、わけもわからず終わる。中盤はほぼ進展がなく、見ていて眠くなる。謎を解くときも肝心なところを隠して言わないから、とてもしんどい。謎は早々に立てられるのに、ゆっくり解かれず、堂々巡りのセリフの多さで退屈極まりない。同人作品なのでCGはほぼなく、BGMも少なく、キャラにCVもない。とてもじゃないが最後まで見続けるのは難しい。しかも全年齢だから、お色気で小突いてくれることもない。

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Extraコンテンツもあるが、背景一枚に大量のテキストだけ。とても読む気にはならない。


このゲームをどう評価する?

設定は良い。ルートロックは斬新。ゲーム内容は「知識が増える」し「深掘りする価値」もある。しかし物語そのものは非常に薄く、大半が中二少年少女のやり取りで、Ever17へのオマージュと言っても設定以外はEver17とはレベルが違う。全ルートクリアで20時間。500円のゲームとしては、買って流し見するだけでも元は取れる。

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要するに、問題は山ほどあるけれど、同人作品で500円、しかもボリュームはそこそこ。文句は言わない。知識ひけらかしが好きな理系プレイヤーは結構いるはずで、彼らには試す価値があるかもしれない。

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